机の上でスタンバイ 保護猫「桃太」は駐在所の広報担当
千葉県御宿町のいすみ署御宿海岸駐在所に、「広報担当」を務める猫がいる。「勤務中」は帽子をかぶり、机の上にスタンバイ。来訪者を温かく出迎え、犯罪防止の啓発活動を手伝う。駐在所は「防犯にも一役買ってくれれば」と期待する。
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「ミャアミャア」
11月の昼下がり。記者が駐在所を訪ねると、オス猫の「桃太(ももた)」(推定2歳)が机からピョンと飛び降り、駆け寄ってきた。手を差し出すと、目を細め、のどをグルグルと鳴らし、身体をすり寄せてきた。
桃太は、駐在所の小林拓昭(ひろあき)巡査部長(30)と妻言依(ことえ)さん(30)の飼い猫だ。2年前の5月、県警いすみ署で保護された5匹の捨て猫のうち、「こっちをじっと見つめていた」1匹を、2人が引き取った。発見時は生後1カ月ほどで、体重は約650グラム。手のひらに乗る大きさだった。「桃のようにふくよかに、強くたくましく育って欲しい」。そんな願いを込めて、「桃太」と名付けた。
最初は警戒してソファの後ろに隠れていた桃太だったが、4日ほどすると、小林さんのひざの上へ乗るように。やがて、駐在所の机が定位置になり、「留守番」も務めるようになった。好物のマグロのビスケットをもりもり食べて、今では体重6.3キロに成長した。「だっこするのに一苦労だ」と小林さんは笑う。
駐在所のある御宿町は、人口に占める65歳以上の割合(高齢化率)が4月時点で49.4%と県内1位。一人暮らしのお年寄りも多く、急増する特殊詐欺などの犯罪被害を未然に防ぐ対策が求められる地域だ。
そんな中、桃太の存在感は少しずつ増している。以前は1日1人程度だった駐在所を訪れる人の数は、桃太が登場して以降、1日5人ほどに増えた。その多くがお年寄りだ。小林さんが来訪者に特殊詐欺の手口を紹介したチラシを配ったり、交通事故防止の蛍光タスキを配ったりする脇で、桃太がじっと見守る――。そんな連係プレーも今では珍しくない。
駐在所の向かいに住む村上えり子さん(66)は「桃太に会うのが楽しみ。いつもいい子に仕事をしている」と目を細める。
小林さんは、「桃太は大切な家族の一員。おかげで警察と地域住民の距離も縮まった」と実感している。「この勢いで、詐欺被害や交通事故が減る効果が出ればうれしい」と話す。
(武田遼)
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