猫が迎えてくれるお店、イラストで紹介 「東京猫びより散歩」
東京を中心に19の町で、看板猫のいるお店25軒をイラストで紹介する「東京猫びより散歩」(辰巳出版)が出版されました。やわらかで、精巧な筆致が特徴です。中には惜しまれつつ閉店したお店もありますが、「この本が記憶と記録になるといいなぁと思います」と著者でイラストレーターの一志敦子さん。印象に残ったお店など、お話をうかがいました。
浅草、神楽坂、西荻、南青山、早稲田、吉祥寺……。町の花屋や喫茶店、雑貨店の扉を開けると、ふいに猫が「いらっしゃいませー」と駆け寄ってきたり、「あら来たの?」と遠くから見下ろしたり。中には通勤してくる子もいたりして。そんな町の“看板猫”の様子を一志さんはライフワークのように描き続けてきました。
本書は、雑誌「猫びより」で連載されていた「ジオラマ猫処」と現在連載中の「東京猫びより散歩」を一冊にまとめたものです。
――なぜ看板猫を描き始めたのですか?
小学3年から猫を飼い始め、半世紀たつ現在までずっと猫と一緒に暮らしています。建築学科を出たので、建築系のイラストを描いていましたが、2002年から(「猫びより」の姉妹誌「ネコまる」で)町のどんなところに猫がいるかを描く連載を始めました。猫を通してその街にすむ人々の暮らしが面白くなりました。
その後ろにいる人々のことも詳しく知りたいと思い、なぜその子(猫)がその人のところにくることになったのかとか、名前のつけ方でその人の思いを知るとか、猫と人のつながりのお話を伝えたいと思って今に至っています。
――印象に残ったお店はありますか?
すべて印象深いですが、「カフェ・ド・アクタ」のネロくんは、公園にキジトラの子と一緒に捨てられていたところをボランティアさんに保護されたのですが、お腹から腸が出ていて手術したそうです。アクタのママさんに連絡が入った時、ママは「キジトラの子はべっぴんさんというから貰い手もあるでしょう。お腹に手術跡があるとなかなか見つからないでしょうから、ぜひその子をうちに」と即答したそう。やさしいですね。
「カフェアルル」ではゴエモンくんという有名な看板猫が亡くなった後、マスターがしばらく猫は飼わないと思っていたのに、ゴエモンくんを特に可愛がる風でもなかったお客さんたちからも「実はゴエモンくんに会うのがとても楽しみだった」との言葉をたくさんもらい、次郎長くんと石松くんを迎えることにしたそうです。猫好きとして嬉しい話でした。
――特に老舗店では、“猫と日本人”のつながりが垣間見えます。
昭和5年開業の小池精米店では、昔の木造のお店にはネズミの出入口がいっぱいあって、ネズミが出た日には猫をお店に置いて母屋に帰ったとか、猫が年老いて死ぬと仲間のお米屋さんから子猫を貰ってきたとかおもしろい話をたくさんお聞ききしました。
下駄・履き物屋さんにも猫がいたそうです。下駄や履き物を立てて展示すると、ネズミが走っておしっこをかけていく。そうすると売り物にならないので猫を飼う。昔は、猫は人間の仕事を手伝っていたのだな~と感心しました。昔でいう職業婦人ならぬ職業猫ですね。
――猫のいるお店を楽しむ秘訣はありますか?
同じお店に何回か行ってみてほしいです。私は5~6回取材でお邪魔するので、最後にはほとんどの子と仲良くなってもらえます。中には最後までシャーフーの子もいましたけれど(笑)。
最初は近づかなかった子とだんだんと顔見知りになっていく過程はとても楽しいです。無理強いは嫌われてしまうので、じっと空気のような存在になって、寄ってきてくれたら人差し指を鼻のそばに出してご挨拶を。指に頬をすりつけてくれるようになったら「まあ、友だちになってもいいかな」のサインで、ちょっと撫でさせてもらえるかもしれません。
マスターやママさん、常連さんとお話するのも楽しいですよ。猫がそれを見て『あ、この人、知り合いかな』と思ってくれたりします。
――一志さんの絵の特徴は俯瞰図があること。どんなふうに描くのですが?
メジャーやスケールを持っていき、机や椅子、壁から床まではいつくばってお店の寸法を測って写真を撮り、メモを作ります。図面にして高さを書き入れ、それをもとの図面を立ち上げて、清書して色をつけて。別版で仕上げた猫と人をmacで合成します。
- 『東京猫びより散歩』
- 著者:一志敦子/発行:辰巳出版/A5版、オールカラー、144頁/定価:1400円+税
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