ペットロスを考える 愛犬の死で日常を断ち切られた
犬や猫の平均寿命は、延びたと言っても14、15歳。飼い主は多くの場合、その死に直面することになります。いとおしい存在を失えば、悲しくて当然。ペットロスは、飼い主の誰にも起こることなのです。ペットが元気なうちから、いつか来る別れについて、考えておきませんか? (太田匡彦)
似た犬を見かけて泣き出してしまう
柴犬(しばいぬ)の「もも」が20歳で死んだ今年1月、編集者・間曽(まそ)さちこさん(57)の日常が断ち切られました。
1カ月あまり、眠れず、食べられない日々が続き、街で似た犬を見かけて、泣き出してしまうこともあったと、間曽さんは言います。
「ももは、私の生きる意味でした。ももがいたから仕事を頑張れ、もものおかげで友人が増えました。ももがいなくなって、私は迷子のようになってしまった」
1997年10月に迎えたももは、シャイで内弁慶な性格でした。ここ数年は介護のために両親と同居。この間いつも、かたわらにはももがいました。近所づきあいも、ももが中心。名前ではなく「もものお母さん」として認識され、たくさんの「犬友(いぬとも)」に恵まれました。
柴犬としてはかなり高齢まで生きたももは晩年、認知症になりました。ももの介護を始めて2年あまり。朝ご飯を食べず異変を感じた翌日、間曽さんの腕のなかで、最後に「ワン、ワン」と2回鳴いて、静かに息を引き取りました。
悲しみに沈む間曽さんを励ましたのは、犬友たちとのメールやたくさんの献花でした。祭壇を作ると、焼香に来てくれる人もいました。犬猫の保護施設でボランティアをしたり、ももへの思いをブログにつづったりしているうちに、少しずつ回復していったといいます。
悲しみは完全には癒えません。ももが入った骨つぼは、いまも仕事机の上にあります。「いつもそばにいます。自分が死んだ時、一緒のお墓に入れてもらうつもりです」
家族失う悲しみ、人間と同じ
新島典子・ヤマザキ動物看護大准教授(動物人間関係学)
「ペットは家族」という認識が一般的になるに従い、重いペットロスになる人が増えてきました。ペットロスとは、犬や猫などのペットを失うことで生じる、悲しみの感情のことです。人間の家族を失った時に生じる感情と違いはなく、場合によっては重症化、長期化し、日常生活にも支障をきたす状態になることもあります。米国では1990年代から、精神医療のケアが必要な症状としても注目されるようになっています。
悲しみが大きくなる要因として、ペットの飼い主に特有の、自責の念と愛着の強さがあげられます。「自分の判断で闘病を長引かせ、苦しませてしまった」などと後悔する場合があります。また、ペットは人間の言葉を話さないため、飼い主が自由に絆の強さを想像できる。その分、愛着は強まりやすいと言えます。
ここに、ペットを失った悲しみが社会で公に認められないという問題が加わります。人間の家族が亡くなると、休暇をとり、葬儀を営むことは当然のことと受け止められます。ところが、ペットの死がつらくて飼い主が仕事を休んだり葬儀を営んだりすれば、「変わった人」というレッテルが貼られる。周囲の無理解が悲しみを増幅させ、長引かせます。
ペットロスになると強い疲労感や虚脱感を覚え、睡眠障害や摂食障害になる人もいます。抗うつ剤を処方されるケースもあり、獣医療の現場でも重く受け止めるようになっています。本学では、動物看護師がこの問題に対処できるよう、「ペットロス論」という講義を行っています。
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