犬・猫のけがした身体を補助 オーダーメイドの装具の製作現場

怪我をした右後ろ足に装具を着けて庭で遊ぶラブ
怪我をした右後ろ足に装具を着けて庭で遊ぶラブ

高齢の犬や猫が増え、ペット用の補助器具「装具」が注目されている。病気や怪我でダメージを受けた首や腰、足などを固定、保護したり、病気を治したりする役割があるという。動物用の装具を作る専門家もいる。どんなものか、利用者と製作者を取材した。

「散歩をしていると『何をつけているの?』と声をかけられます。装着するのにだいぶ慣れてきました」

 そう話すのは、神奈川県在住の薫さん。ラブラドール・レトリバーの「ラブ」(オス、12歳)と暮らしている。ラブの胴にはハーネスのような布の覆いが着けられ、そこから伸びた装具が両方の後ろ足に取りつけられている。約3カ月前から着け始めたという。

雪の日に装具をつけて遊んだラブ
雪の日に装具をつけて遊んだラブ

「ラブは昨年11月初旬、庭で急に立てなくなり、かかりつけの動物病院に連れていきました。そこから大きな動物病院を紹介してもらい、レントゲンを撮ると、右の後ろ脚の膝(前十字)靭帯が断裂して、膝の骨もずれているといわれました」

 実はその数カ月前に、「ラブ」は玄関にある数段の階段を登れなくなったことがあった。その時には「高齢になって階段が怖くなったのかもしれないね」と言われ、痛み止めをもらった。すると、何事もなかったかのように再び歩きだしたという。

「どのタイミングで断裂したかわからないのですが。元気でぴょんぴょんする(ジャンプする)犬に多い症状だと言われ……まずはギブスをはめました」

 ギブスをして散歩もできたが、かじったり外そうとしたりするため、そのたびに病院で巻きなおしてもらった。ギブスをしたまま「今後どうなるかな」「手術の可能性もあるかな」と夫婦で心配した。この先のことで、薫さんは夫と意見が分かれた。

着脱はマジックテープで簡単だ
着脱はマジックテープで簡単だ

「主人は治るのなら積極的に手術をしてもいいと考えていましたが、私は全身に負担がかかる治療はしたくなかった。ラブは6年前に腫瘍で片方の目を摘出し、2年前には前足の先に腫瘍ができて指先を切除しました。年齢的にも、もう大きな手術は控えたかったんです。そうしたら1週間後に先生も手術は控えましょう、と言ってくださって」

手術の代わりに装具

 獣医師によれば、以前、体重の重い犬が前十字靭帯断裂後に手術をしたところ、重みに耐えかね、挿入したワイヤーが切れた例があったのだという。手術の代わりに提案されたのが、補助器具だった。それを着ければ再び歩けるだろうといわれた。

「オーダーメイドで一式10万円近くしましたが、私たちにとっては大切な可愛いわが子なので、挑戦することにしました。診察室で義肢装具士の方を紹介されて、ラブの体を細かく測り、採寸から一週間ほどでオリジナルの装具ができあがりました」

 装具は4つのパーツを組み合わせて装着するため、少しコツが必要だった。着ける時に痛みがあるのではないかと、薫さんは少し不安に感じた。

「昔、友人が前十字靭帯を損傷し、海外から装具を取り寄せたのを見たことがありました。人間の場合は『ズレている』とか『痛い』とかすぐ言えるけど、犬は自分で違和感を訴えられないので、つけ方や場所が合っているかどうか不安でしたね」

 それでも「ラブ」は装着後、すぐにひょこひょこと歩きだしたという。

「散歩の距離は短くなり、歩き方も少しゆっくりになりましたが、毎日、家の周りをぐるりと歩きます。怪我のあとは筋力が落ちないようにするリハビリが大切。1月末の大雪の時は、庭で喜んで遊んでいました。それを見て、よかった、と思いました」

 いずれ介護が必要な時が来るかもしれないと覚悟もしているが、「気力があって自力で歩けるうちは存分に歩かせたい。装具をつけると、楽みたい」と薫さんは見守っている。

散歩中に友達と会って嬉しそうなラブ(右)。装具にもすっかり慣れてきた
散歩中に友達と会って嬉しそうなラブ(右)。装具にもすっかり慣れてきた

 夜寝る時は装具を外すが、最近「ラブ」は朝起きると、“早く着けて”とでもいうように、「着け待ち」をするという。

ペット用の装具を作る

 ラブが着けている装具を作ったのは、東京都町田市の「東洋装具医療器具製作所」でペット義肢装具士を務める島田旭緒(あきお、37)さんだ。

 取材に伺うと、巻いた布がたくさん立てかけられた裁断室に通された。

「今は年に3000頭の装具を請け負って、スタッフ7名と一緒に作っています」

義肢装具士の島田旭緒さんと愛犬るこ(健康だが装具写真のモデルになることもある)
義肢装具士の島田旭緒さんと愛犬るこ(健康だが装具写真のモデルになることもある)

義肢装具士の島田旭緒さんと愛犬るこ(健康だが装具写真のモデルになることもある)

 島田さんは、もともと人の装具士のための専門学校に通っていた。きっかけは、祖父の怪我だった。

「祖父は工場で働いていて、プレス機に挟まれて指4本を欠損し、片目も鉄屑が入って義眼でした。僕は手先が器用だったので、何かを作る仕事で、人の役に立ちたいなと少年の頃から思っていたんです」

 学校の卒論でたまたま動物の装具の有用性を調べ、飼い主や動物病院にアンケートをとると、「動物用のものがない」「いいものがあれお金を出しても使いたい」という答えが多く、ニーズがありそうだとわかった。

 卒業して、まずは人間の装具の会社に勤めた。すると会社の先輩の飼っていたチワワが、事故に遭って背骨が折れてしまったのだという。

「そのチワワの手術の後、獣医さんが自分でコルセットを手作りしていて興味を持ったんです。それで、その先生の病院に弟子入りしました。日中は装具会社で働き、夜、動物用装具を試行錯誤して作っていくものだから、『毎回よく作るね』と先生も驚いていました(笑)。先輩のチワワも、僕の作ったものを着けてくれました」

 その澤動物病院で3年、そこからの紹介でマーブル動物病院(神奈川県)で2年ほど研修し、いろいろな症例に合わせた装具作りを試みたという。

右後ろ脚の術後、固定(安静)のため装具を着けた猫
右後ろ脚の術後、固定(安静)のため装具を着けた猫

「15年前は小型犬ブームで、椎間板ヘルニアのミニチュアダックスフントなどが多かった。でも同じダックスでも、メスだと“体が小さいのにお腹がでている”。 それに対してオスは“胸が張っていて腰が細い”とか、同じ犬種の同じ体重でも、個体によって体型が違うんです。だから当然オーダーが必要になりました」

体形、症状に合わせてオーダーメイド

 動物義肢装具士として独立したのは10年前。当時は月に数個の注文だったが、注文が徐々に増えた。病気が増えたのでなく、飼い方の意識が変わったからだと島田さんはいう。

「動物が家族の一員として大切にされ、怪我や病気になった時の“生活の質”を考えるようになったんですね。ある獣医大学の先生には“時代に合っている”と言われました」

 今までに作った数は約1万2千点。椎間板ヘルニア、膝蓋骨脱臼、頚椎骨折、関節炎、神経疾患、骨折後の癒合不全、筋疾患、腫瘍、頭蓋骨の部分切除や下顎骨折など、対応する症例は実に幅広い。

「ほとんどが犬用ですが、猫も時々注文があります。前脚の神経麻痺や、後ろ脚の踵の傷の保護などに装具を作りました。どれも正しく採寸して型紙を起こし、石膏で型をとるというのが基本です。人より固定力が必要になるため、生地は特注です」

 装具には「医療用」と「更生用」の2種類がある。医療用は装具そのもので病気を治すのが目的。更生用は、障害がある機能に対して補助するのが目的だという。

前足(両肩)が外に開かないようバンド状の装具で固定(東洋装具医療器具製作所提供)
前足(両肩)が外に開かないようバンド状の装具で固定(東洋装具医療器具製作所提供)

前足(両肩)が外に開かないようバンド状の装具で固定(東洋装具医療器具製作所提供)

「たとえば、膝十字靭帯が切れたラブラドールのラブちゃんの装具の主な目的は更生ですが、膝関節の回りの組織を“繊維化”させようという医療用の目的もあるんです。繊維化により膝を固め、安定させて歩きやすくなるといいな、という願いがあります」

 島田さんによれば、こうした装具は獣医師と一緒に作ることになるため、関心があれば、かかりつけの動物病院に相談してほしいという。

「全国どこの動物病院でも呼ばれたら行きます。講演などで最近よく伝えているのは、飼い主さんの判断で、ネットで安易に手に入る物を買わないでほしいということ。身体に合わない物を使うと、症状を悪化させてしまうこともあります」

 ペットの世界も高齢化が進む。需要はますます増えそうだ。

藤村かおり
ペットライター。小説等の創作活動を経て90年代後半から、ペットの取材を手掛ける。2011年~2017年週刊朝日記者、2017年からsippoメインライター。丹念な取材と独自の目線から、動物と人の絆、動物と共に生きる人の心をすくい取る記事に定評がある。ペット関連の著書に『長寿猫』『明日にアクセス』など。現在は保護した黒猫、キジ猫と暮らす。

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