震災で家族を失った女性 絶望の日々を支えたのは愛犬だった
東日本大震災を題材にした子ども向けの本が数多く出版されてきました。被災地の苦難だけでなく、強く生きる人たちの姿や、そこで生まれた希望を伝えています。
岩手県大槌町の小畑幸子さん(83)は先月13日、こんな短歌を詠んだ。「相棒も土に帰りて丸三年なれど私は昨日のごとくに」
相棒とは、2015年にこの世を去った愛犬の太刀(たち)のこと。今でも太刀と過ごした日々が昨日のことのように頭に浮かぶ。
小畑さんは津波で長男(当時49)を亡くし、自宅も流された。震災当時80歳だった夫は、がれきの山で長男の行方を連日捜した。体を酷使した夫は入院し、長男が見つかった1カ月後の11年8月に息を引き取った。夫の入院中、小畑さんの乳がんが見つかった。「今度は私が死ぬ番か」。困難が重なった時、支えになったのが子犬の頃から育てていた太刀だった。
「何かあっても、太刀に話せば気が晴れる気がした。おかげで今まで生きてこられた」
先月、「今日よりは明日はきっと良くなると 愛犬・太刀と暮らした16年」(講談社、税別1200円)が出版された。岩手県宮古市出身の児童文学作家、茂市久美子さん(66)が書き下ろした。
茂市さんは故郷の変わり果てた姿にショックを受け、しばらく筆を執れなかった。小畑さんを14年に訪ね、前向きな姿に「物書きの使命として、この現実を子どもたちに伝えて残したい」と背中を押された。
「困難にもめげず、明るく暮らす小畑さんに『自分も頑張ろう』と勇気をもらえるはずだ」
■遊び場に描いた壁画、絵本にも
16年2月に出版された絵本「あしたがすき 釜石『こすもす公園』きぼうの壁画ものがたり」(ポプラ社、税別1300円)は、岩手県釜石市にある「希望の壁画」が舞台だ。
震災後、市内では子どもの遊び場が不足していた。藤井了(さとる)さん(71)と妻のサエ子さん(73)は「思い切り遊ばせてあげたい」と所有地に遊具を置いて子どもたちに開放した。だが、その前にある工場の外壁は、無機質な色で波打ち、津波を連想してしまう。
そこで、壁に明るい絵を描こうと計画。タイ在住の画家、阿部恭子さんに依頼し、一部は子どもたちが思い思いの絵を描いた。約1年かけてボランティアら延べ500人が参加。14年4月に幅43メートル、高さ8メートルの壁画が完成した。
絵本は児童文学作家の指田和(さしだかず)さん(50)が手がけた。絵は阿部さんが担当した。「子どもが元気になる姿を見たいと一生懸命になる大人たちがいるという希望が、この社会にあることを知って欲しい」。釜石に住み込みで働き、住民とかかわってきた指田さんは、こんな思いを込めた。
(及川綾子)
■ほかにもある東日本大震災関連の子ども向けの本
・希望の牧場(岩崎書店)
・原発事故で、生きものたちに何がおこったか。(同)
・かぜのでんわ(金の星社)
・ハナミズキのみち(同)
・泥だらけのカルテ 家族のもとに遺体を帰しつづける歯科医が見たものは?(講談社)
・災害救助犬レイラ(同)
・3・11を心に刻むブックガイド(子どもの未来社)
・だるまちゃんとかまどんちゃん(福音館書店)
・だるまちゃんとはやたちゃん(同)
・いのちのヴァイオリン(ポプラ社)
・16歳の語り部(同)
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