ケージ3段重ね、急ぐ出荷、衛生には配慮… 犬の繁殖業者の現実

繁殖業者のもとで育てられる繁殖用の犬(本文とは関係ありません)
繁殖業者のもとで育てられる繁殖用の犬(本文とは関係ありません)

■繁殖犬150匹を抱える業者に取材

「うちの犬たちは不幸です」


 関東地方で犬の繁殖業を営む女性は、そう話し始めた。小型犬を中心に約150匹の繁殖犬を抱え、年500~600匹の子犬を出荷している。


 飼育施設に入ると、犬たちの甲高い鳴き声に包まれる。30平方メートルほどの広さに、50~70センチ四方の金属製のケージが積み重ねられている。すべて3段重ねで、一つのケージに1、2匹ずつ犬が入っている。「狭いスペースでなるべく多くの犬を飼育しようと考えるのが、ブリーダーの常識です」


 犬たちの足元は金網になっている。金網の下にトレーが敷かれ、そこに糞尿(ふんにょう)が落下する仕組み。「金網じゃないとウンチで犬が汚れる。座りダコができたりする犬もいるけど、犬の脚のことまで考えられない」


 犬の衛生状態には気を配っており、毎日5~10匹ずつシャンプーをしている。この時、シャンプーをされる犬たちはケージから出され、建物内の一部を動き回ることができる。施設内の清掃も手を抜かず、「元気に生かしてなんぼだから」と何か問題があればすぐ動物病院に連れて行く。


 子犬は生後50日になると、取引先のペットショップに出荷する。一部を競り市(ペットオークション)に出品することもある。


 出荷するタイミングが早すぎることは理解している。「本当は、体つきがしっかりしてきて、ご飯も1匹でちゃんと食べられるようになる生後60日くらいのほうがいいに決まっている」

 

 だが、子犬用のスペースは限られるし、出荷価格を考えると、基本的には動物愛護法が規制する下限の生後50日で子犬を出荷せざるを得ない。「いまは何でも小さいのがもてはやされる世の中だから」。それでも、体重が増えない子犬や小さすぎる子犬は、生後60~70日まで手元に置くこともあるという。


 犬たちに生活を支えられている自覚はある。「私たちは犬に生かされている。心から感謝している。だから最低限のことはやっている」。繁殖用のメス犬について、高齢になっても出産が可能な限り繁殖を続けるようなことはせず、早めに引退させることにもこだわっている。「早めに普通の家庭で幸せになってほしい」


 女性なりに最善を尽くす一方で、同業者の劣悪な飼育事情を見聞きすることも多いと眉をひそめる。犬種がわからないほど汚れた状態を放っておく業者もいるし、繁殖犬の早い引退をすすめても耳を貸す業者はほとんどいないという。「『8歳ならぜんぜん平気』と言って、年を取った犬を使い倒すブリーダーは少なくありません」


「劣悪なブリーダーを行政はしっかり取り締まるべきです。市場(いちば)(競り市)も出入り基準を厳しく決めればいい。私自身、改善できることがあるなら直したい。どうすればいいのか、教えてほしい」


(太田匡彦)

 

 

■「飼育に規制必要」

 日本動物福祉協会調査員・町屋奈(ない)獣医師の話 いまの動物愛護法で、ペットショップや繁殖業者などの登録要件はとてもゆるく、実質的に誰でもできる。快適な環境で飼育している優良ブリーダーもいるが、そうではない業者も多い。このため生涯繁殖回数や従業員1人あたりの最大飼育頭数などの規制が必要で、現在、環境省が検討に乗り出している。同時に、業者を監視・指導する行政職員の教育が急務。規制があっても適切に運用できなければ意味がない。

朝日新聞
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