“ネコノミクス”で観光客招くニャン　猫の手も借りてＰＲ

朝日新聞

2018/01/23

(最終更新：2018/03/30)

　中国地方の企業や自治体が猫を主役にした観光誘致を繰り広げている。黒猫を「お庭番」にした美術館、猫づくしの寺、猫目線で町歩きが出来るストリートビュー。猫の手を借りてのＰＲの数々を取材した。

■黒猫の専用「執務室」　岡山・夢二郷土美術館

　岡山県出身で、大正ロマンを代表する詩人で画家の竹久夢二。その作品を集めた夢二郷土美術館（岡山市）は昨年、大規模なリニューアルに伴い、第５展示室に１匹の黒猫「黒の助」の執務室を新設した。

　黒の助は２０１６年秋、美術館の前で車にひかれそうだったところを同館の職員に助けられ、庭に居つくように。姿や瞳の色が夢二の描いた黒猫にそっくりだったこともあり、お庭番を任せられていたが、晴れて「執務室」が用意された。

　週２、３回の「気まぐれ出勤」で、館長代理の小嶋ひろみさんは「館内をまわった後に黒の助の執務室の前でゆっくりとくつろぎ、リラックスしてほしい」。

　黒の助をモデルにしたクッションやクリアファイルなどのグッズも人気で、同館の敷地内にあるカフェでは「黒の助ガトーショコラセット」（１千円）も食べられる。同館を訪れた岡山市の主婦草間清枝さん（６４）は「黒の助ちゃんのグッズは孫が喜ぶ。とても可愛くて、何度でも通えそうです」と話した。

■置物や猫みくじもある「猫寺」　山口・雲林寺

　山口県萩市の雲林寺（同市吉部上）の境内には大小様々な猫の置物約６００個が飾られている。「猫みくじ」も置くなど、猫づくしの寺は近年、「猫寺」としてネットを中心に話題だ。

　雲林寺の周辺地域は、猫町（ねこのちょう）と呼ばれている。萩市観光協会によると、江戸時代に長州藩の祖となった大名の毛利輝元が亡くなった際、殉死した長井元房という武将が飼っていた猫が地名の由来だという。

　その猫は元房の死後、墓のそばに寄り添い、四十九日の後、舌をかみ切って亡き主人の後を追った。夜には周辺で猫の鳴き声がするようになったが、供養すると鳴き声はやんだという。

　この伝説を元に１３年にはゆるキャラ「萩にゃん。」が誕生。猫と縁のある地域柄、置物など猫にまつわる品に囲まれた雲林寺も「猫寺」として人気になった。今では台湾や香港などからも観光客が訪れる。

　市内を案内するパンフレットも作るなどの活動から、昨年には「萩おもてなし大賞」の市民部門で大賞に輝いた。

■高さ２０センチの「猫目線」で案内　広島県サイト

　猫は何を見ているのか――。そんな猫好きの声に応えたのが、広島の「広島キャットストリートビュー」だ。観光ＰＲの一環で県が無料で公開している。１５年に第１弾の尾道編を公開したところ、県の観光ＰＲサイトへ、以前の約１９倍、１週間で１３２万を超えるアクセスがあったという。

　尾道編は、県路地裏観光課長の猫「ララ」が案内猫となり、商店街を眺める。約２０センチの高さから見る景色は、アーケード街の天井がより高く、子どもが巨大に感じられて新鮮だ。各店舗の看板猫の情報や画像もあり、塀の上から見える猫ならではの景色も楽しめる。

　現在は尾道編、竹原編が公開中。県観光課の担当者は「猫の目線で町を見ることで、新しい魅力に気づいていただければ」と話す。

サイトは（https://hiroshima-welcome.jp/kanpai/catstreetview/）へ。

（小川奈々）

■癒やし効果か？
招き猫美術館（岡山市）の学芸員・虫明比斗子（ひとこ）さんの話　江戸時代に猫を飼うブームが訪れるなど、日本では昔から猫が庶民の生活に癒やしを与えてきた。現在の日本でも、「ネコノミクス」という言葉があるように、猫人気がもたらす経済効果は大きい。福を呼ぶという意味以外にも、猫の存在で人がリラックスし、心地よい空間が生み出されることで、次の経済につなげる効果が期待できるのではないか。