増える飼育放棄 行政の「殺処分ゼロ」で、愛護団体にしわよせ

 

◆神奈川県動物愛護協会の山田佐代子さん語る

犬猫以外の動物にも目を向けてほしいと今年から「動物福祉検定」も始めた。「動物たちの福祉にかかわる専門家を育てていきたい」と山田佐代子さんはいう。協会のウェブサイトはhttp://www.kspca.jp/index.html
犬猫以外の動物にも目を向けてほしいと今年から「動物福祉検定」も始めた。「動物たちの福祉にかかわる専門家を育てていきたい」と山田佐代子さんはいう。協会のウェブサイトはhttp://www.kspca.jp/index.html

 1958年の設立以来、たくさんの動物たちを保護してきました。現在シェルターには、犬猫のほかにウサギ、アライグマ、ハクビシン、ハトもいます。犬で15匹、猫で40匹がいまの収容限度なのですが、保護依頼の電話は毎日のようにかかってきます。


「高齢で犬が飼えなくなった」「病気をしたので猫を引き取ってほしい」


 そんな電話ばかり。依頼してくるのは高齢、独居、賃貸住まいの人が多いですね。


 今年夏には、13年前に当時60代のご夫婦に譲渡したビーグルが、シェルターに戻ってきてしまいました。ご主人が 亡くなったのがきっかけだったそうです。譲渡する際に「保証人」になっていた娘さんは、自宅を処分して賃貸に引っ越すからもう飼えないと。ビーグルは16歳になり、病気を抱え、肥満で歩けなくなっていました。こんな状態ですから、新たな飼い主を見つけてあげることは難しい。


「出戻り」は年に1、2匹いますが、こうした事態は絶対に避けたい。そのため最近では、1歳以下の犬猫は55歳までの人にしか譲渡していません。ほかにもさまざまな譲渡条件を設けています。一度不幸な目にあった子たちが再び捨てられるようなことは、あってはならないと考えるからです。


 動物愛護団体の譲渡条件が厳しいために、ペットショップで子犬や子猫を買う高齢者が後を絶たないという現実があるのは確かです。そのことで、動物愛護団体のほうが非難されることもあります。でもそもそも、簡単に売る側に問題がありませんか? 

 

 ペットショップは70、80代の人に簡単に、子犬や子猫を販売しています。これは動物愛護法が求める「終生飼養」の考えにも反しています。不適切な販売をしている側にペナルティーを科すような制度を、ぜひとも導入してほしいです。


 近年もう一つ大きな問題になっているのが、行政が「殺処分ゼロ」という目標を掲げることで生じる弊害です。行政は収容した犬猫の殺処分を急激に減らすために、本来自分たちがやるべき業務を動物愛護団体に丸投げしているように見えます。

 

 たとえば引き取り相談が来ると行政は、詳しい状況も聞かず、相談者に私たち動物愛護団体の連絡先を伝えることが多々あります。自分たちで引き取らなければ、殺処分対象となる犬猫が増えず、結果として殺処分ゼロ達成に近づくからです。一方で神奈川県動物愛護協会にかかってくる相談電話は昨年度、前年度比約200件増えて、約3千件に達しました。


 ほかにも行政の「受け皿」となり、血のにじむような努力をして新たな飼い主を探している動物愛護団体がたくさんあります。殺処分ゼロは、多くの動物愛護団体にとって悲願ですから、ものすごい無理を重ねているのです。


 このままのやり方を続けていたら、とてもではないが「ゼロ」を支えきれません。いま国や行政が考えるべきは、ペットショップや繁殖業者への規制を強めて、犬や猫たちを世の中にあふれかえさせている「蛇口」を閉めることではないでしょうか。

sippo
sippo編集部が独自に取材した記事など、オリジナルの記事です。

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