茶トラ親子が看板猫 医療関係者が集う「介護食居酒屋」
金沢市内に「TsuBameyA(ツバメヤ)」という居酒屋がある。食事制限のある人向けの料理や、介護食がメニューにあることで評判の店だ。この店には2匹の看板猫がいる。母猫「栄(えい)ちゃん」と、その息子の「海(かい)ちゃん」。いずれもしっぽの短い茶トラで、胸のまわりが白い。常連客のアイドル的な存在になっている。
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店主の福村美紀子さん(55)が、病院食用の食材を扱う卸(おろし)の会社に勤務していた縁で、繊維を断ち切って食べやすく調理した食品や、塩分・糖分を制限した食事などへの理解が深まり、2011年に金沢市内で開業。現在の場所に移転して5年目になる。
店名のツバメヤは「食物を咀嚼(そしゃく)して胃に送り込む」という意味の「嚥下(えんげ)」に「燕(つばめ)」という文字が使われていることにちなんでいる。石川県内の医師・看護師・介護やリハビリ関係者の間で評判となり、北陸で医療・介護系の学会が開かれると、店に専門職らがよく訪れる。
その店の前に、猫の栄ちゃんは昨年3月、ふらりと現れた。まだ子猫だった。店は交通量の多い道路に面しており、福村さんが「交通事故に遭わないように」と保護した。「この子は、もらい運がある」と福村さん。客からいろんなものをいただくようになったという。実は名前も常連客からもらったそうだ。
「70歳過ぎの男性で、『栄ちゃん』というニックネームの常連さんがおられました。『しばらく姿を見ないね』と言っていたら、病気で亡くなったそうです。その方の名前をいただいて名付けました」
猫を保護した福村さんは「避妊手術をせねば」と思っていたが、栄ちゃんは気付くと妊娠しており、昨年7月に2匹の子猫を生んだ。先に出てきた子猫は死産で、後から生まれたのが、海ちゃんだった。その後、常連客からのカンパで、親子ともども避妊・去勢手術をした。
息子の海ちゃんは、レーザー・ポインターがお気に入りだ。誰かが学会発表などで使ったものを忘れていったのだろう。床に向けて点灯させて動かすと、海ちゃんが赤い光を追って動き回る。ひとしきり走り回って疲れると、眠り込む。
母猫とは今、険悪な雰囲気らしい。反抗期なのかもしれない。2匹がしばらく距離を取って眠っていたと思ったら、常連客のそばに寄ってきて一緒に遊んでいた。
医療や介護の関係者が会食の場としてツバメヤを使うことも多い。酒宴は医療や介護の現場での悩みを語り合う場となる。「一人で来て、苦しい胸の内を語っていくお医者さんもいます」と福村さん。患者の術後の食事について相談を受けることもあり、求めに応じて調理実習もしている。
配偶者を亡くした高齢者や、医療・介護関係者に寄り添って癒しを与えてくれる親子猫は、福村さんを助ける優秀な店のスタッフでもある。
(若林朋子)
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