狂犬病ワクチン、広がる格安料金 獣医師会は「悪影響」と反発
飼い犬への年1回の接種が義務づけられている狂犬病ワクチンをめぐって、獣医師がもめている。自治体からの委託で集団接種をしている獣医師会の設定料金に対して、獣医師会に所属しない獣医師が格安で実施。愛犬家にはうれしいことだが、獣医師会は「国民の健康を守るワクチンなのに、このままでは接種率が下がってしまう」と反発する。いったい何が起きているのか。
本間獣医科医院(本院・静岡県磐田市)は今年、ホームセンターなど21都府県の305カ所で狂犬病のワクチン接種を行った。料金は1回2千円(税抜き)。獣医師会の設定料金より3割ほど安い。「消費者サイドに立って、安全なワクチン接種を適正な値段でやっている」
こうした動きの広がりに対して、獣医師会からは「国民の健康のための事業で、ビジネス感覚でディスカウント(値下げ)が広く行われている」といった批判が出ている。
狂犬病のワクチン接種は、狂犬病予防法で義務づけられている。飼い主は同法に基づいて自治体に犬を登録。自治体は毎年4~6月に集団接種を行い、登録された犬の飼い主に接種を呼びかける。自治体が集団接種を委託するのが各地の獣医師会で、料金は1回3千円前後がほとんどだ。
この料金設定は、自治体の了解のもとで決められる。獣医師会にとっては重要な収入源で、その一部は獣医師向けの狂犬病の講習会など公益事業にも使われる。収入が減ると獣医師会が弱体化し、自治体による集団接種の実施に悪影響が出る、というのが獣医師会側の主張だ。実際、獣医師会の組織率は低下している。日本獣医師会によると、2004年の組織率は約88%だったが、14年は約69%に落ちている。
一方で、獣医師会に所属していない獣医師らは、「集団接種ではなく、ホームセンターなど身近な場所で行えば、利便性が高く、飼い主は接種しやすくなる」と主張する。こんなデータがある。神戸市で11年に接種を受けた約5万9千匹のうち、約1万9千匹は獣医師会に所属していない獣医師が実施したという。
ただ、いずれにせよ、接種率は全体的に低下している。同法は接種しないと20万円以下の罰金を設けているが、厚労省によると、自治体に登録している犬の接種率は約7割(15年度)。さらに、登録していない犬も多い。ペットフード協会が登録・未登録に関係なく推計している犬の飼育数から接種率を計算すると約47%に落ちる。国内で1957年以降、狂犬病の発生がないことなどが影響しているとみられる。
8匹の犬を飼う東京都練馬区石神井町の女性(53)は、「数十年も狂犬病が出ていないし、ワクチン接種して副作用にかかるリスクの方が高いと思う。犬のためではなく、獣医さんのためにやっている気がする」と話している。(沢伸也)
狂犬病ウイルスによって神経が侵され、幻覚やマヒ、けいれんなどの症状を起こす。発症するとほぼ100%死亡する。犬だけでなく、ヒトを含めた哺乳類に感染する恐れがある。狂犬病による死亡者数は年間5万5千人(WHO2004年調べ)だが、国内では1957年以降発症例がない。
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