動物と幸せに暮らすため、飼い主に求められることは?

愛犬「すず」をなでる山越哲生さん=三重県津市
愛犬「すず」をなでる山越哲生さん=三重県津市

■家庭犬インストラクター・山越哲生さん

 犬や猫の殺処分をなくそうと、譲渡や啓発教室の拠点となる三重県動物愛護推進センター(愛称・あすまいる)が28日、三重県津市森町にオープンする。動物の命を大切にするために、飼い主に求められることは何か。あすまいる設立に向けて県に助言してきた家庭犬インストラクター、山越哲生さん(52)に聞いた。


――家庭犬のインストラクターとして、飼い主からどんな悩みを聞きますか。


 月に50軒ほどの家庭を訪問して、飼い犬の問題行動を防ぐための助言をしています。多い相談はかみ癖や、ほえ声が近所迷惑になること。「保健所に連れて行ったが引き取ってもらえなかった」と相談されるケースもあります。


 動物の行動学、学習理論など科学的な根拠に基づいて、犬に苦痛を与えず、人道的な方法でコミュニケーションを取るよう心がけています。犬を正しく理解すれば、お互いに楽しく暮らせます。


――一般にあまり理解されていない生態はありますか。


 生後4カ月くらいまでの子犬の時期が、人間社会のルールを学ぶ上で大切です。家族以外の人間に慣れ、家の外で様々な音や匂いを感じるのが望ましい。色々な刺激に慣れると成犬になってむやみに怖がってほえたり、ほかの犬や人間を攻撃したりする問題を減らすことにつながります。穏やかな性質の成犬と接すると、ほかの犬の感情を読み取れるようになります。


――すでに問題行動が出ている犬を、変えていくことはできるでしょうか。


 犬は1万数千年前から人間と暮らしてきました。世界の様々な文化の下で生きられ、非常に適応力が高いです。


 犬が問題行動を起こすのは理由があります。理由を分析して、人間が接し方を変えれば、犬の行動も変えていくことができます。獣医師や家庭犬のインストラクターなどに相談してみてください。


 例えば棚の上のおやつが欲しくてほえるのに困るなら、犬をしかる代わりに、ほえても与えず、棚の下でお座りするなど「お行儀の良い」行動を取ればもらえることを、犬に教えていきます。


――殺処分を減らすには、保健所に引き取られる飼い犬を減らすことも大切です。


 小型犬の寿命は16~17年、大型犬も14~15年とされ、医療技術が進んで長生きできるようになりました。


 例えば小学生が子犬を飼いたがっても、18歳で就職・進学して家を離れたら、別の人が世話をしなければなりません。高齢者も病気になったら誰に犬を託すのか、具体的に決めておく必要があります。


――あすまいるへの期待は。


 犬や猫の命を助けるだけでなく、譲渡後に飼い主も動物も幸せになれるようフォローしてほしいと思います。


 譲渡に先立って犬の性質を細かく伝えることも大切です。人とじゃれるのが好きな犬もいれば、静かに座っている犬もいます。活動量や縄張り意識の強さも伝え、希望する飼い主を探してほしい。


――あすまいるは、災害への備えも機能の一つです。


 南海トラフ地震(過去最大級)では、県内で地震の1カ月後、約4万匹の犬の飼い主が自宅を離れて避難生活を送ると推計されます。


 避難先で犬は家族以外の人間と接し、ずっとケージの中にいたり、つながれていたりするケースも考えられます。普段からこうした環境に慣らしておけば、災害後に人間も犬もストレスを減らせます。あすまいるには、災害への啓発活動にも期待したいです。


(聞き手・高木文子)

 

やまこし・てつお
1964年、大阪市出身。設計事務所勤務などを経て1999年から家庭犬のインストラクターになる。鈴鹿大短期大学部で、動物病院やペットショップなどに就職を希望する学生を指導。愛知少年院で犬を通じた少年の矯正教育にもかかわる
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