がんで逝った姉が残した犬と猫 激動の日々を支え合って生きる

16歳になったピナちゃん 子猫のようにあどけない
16歳になったピナちゃん 子猫のようにあどけない

 のりこさん(48歳)は都内のマンションで、2匹の猫と1匹の犬と暮らす。シンガプーラのピナ(16歳・雌)と、保護猫ルンルン(15歳の雑種・雄)、犬のヨーちゃん(10歳のヨーキーミックス)。


 飲食店で忙しく働き、一人で暮らす彼女にとって、3匹はとても大事な家族だ。


「猫たちは、もともと7歳上の姉が飼っていたんです。姉は動物好きで、自然食などを置くペットショップを経営していたのですが、残念ながら43歳の時に亡くなりました。今年13回忌です……」

 

 (末尾に写真特集があります)


 姉の命を奪ったのは、がんだった。入退院を繰り返していたが、12年前の1月末、容体が急変し、間もなく旅立っていった。


「姉自身もそのまま死ぬつもりはなかったと思う。自宅には姉が一緒に暮らす犬と猫が7匹もいたし、店も続けていたので。でも、『もしもの場合にはこの子たちをよろしくね』と姉に言われていました」


 当時、姉は購入して数年のマンションにひとり暮らし。のりこさんは、そこから徒歩で10分ほどの実家に両親と住んでいたが、生活はそこから大きく変わっていく。


「姉は亡くなってから一度、家に戻ったんですが、姉がいちばん可愛がっていたヨークシャーテリアのイーちゃんという犬(当時5歳)が、キャンキャンとはしゃいでそばに来たと思ったら、寝かされた姉からすーっと離れて部屋の隅にいったんです。ふだん賑やかな子が、そのまま3日間まったく鳴かず、食事もろくにとりませんでした」


 のりこさんは当時、近くの商店街で写真店を営んでいた。母と交代で、実家と店と姉のマンションを行き来して、姉のペットの世話をするようになった。

 

のりこさんの姉が溺愛していたイーちゃん
のりこさんの姉が溺愛していたイーちゃん

「実家にも犬と猫がいたのですが、(姉のペットと)折り合いが悪かったので、私が姉宅に通うことにしました。落ちこんだように見えたイーちゃんは、4日目にスイッチが入ったかのように、もとのキャラに戻り、『仕事に行く?』と言うと、キャンキャンと鳴いてキャリーバッグに入り、一緒に写真屋に通うようになったんです」


 姉のペットショップも閉鎖をせずに、引き継ぐことにした。トリミングの予約、フードメーカーやブリーダーとのやりとり……残ったスタッフたちと、勉強しながら慣れない仕事をがんばった。姉が心血注いでいた仕事を途中で終わらせたくなかったからだ。実家からペットショップまでは車で25分ほどかかった。


「仕事二つの掛け持ちは大変で、結局1年後に姉宅に移り住みました。残ったペットの環境を変えるのもかわいそうでしたので」


 姉が残した7匹のペットのうち2匹の猫は、姉の友人が引き取ってくれた。イーちゃんら5匹が残った。世話をするうちに、のりこさんとペットの間には、いつしか友情のような輪も広がった。


「姉を慕いながら“残されてしまった者同士”、強いつながりを感じました。とくに、イーちゃんを見てると、“ひきずっちゃだめ”と諭されるようでした。動物の力を見習おうと思いました」

 

シャイで気が優しいルンルン15歳
シャイで気が優しいルンルン15歳

 引き継いだ店は3年、4年と続け、トリミングやグッズやフード販売に力を入れて、地域でもお馴染みになった。だが、入居していたビルが取り壊されることになり、車で1時間ほどの場所に移転した。新しい場所では、姉がこだわった自然素材のフードが思うように売れず、スタッフたちも通いきれず、経営に黄信号が点った。


 そんなある日、のりこさんの体に異変が起こった。ある朝、ベッドから起きあがることができなくなった。姉が亡くなってから5年後、今から7年前のことだ。


「急に落ちこんで、いろんなことが億劫になってしまった。反動だったのかな。だって、本当は、寂しくて、お姉ちゃんに会いたくてたまらなかったから」


 まもなくして、ペットショップと写真店を閉じることにした。店にいた犬は譲渡先を探し、アトピーがあったヨーちゃんだけは自宅で飼うことにした。


「仕事をせず、家にひきこもりました。出かけるといえば、たまの散歩と、ペットフードと自分の食事や少しお酒の調達。『おねえさん大変だったね』って周りに気遣われて、『大丈夫』って答えるのにも疲れて。そんな時に言葉なく、犬や猫が、ただただ傍にいた。いてくれることが、ありがたかった」


 だが、ひきこもって1年経った時、かつてのイーちゃんのように、しゃきっとスイッチが入ったという。


「これじゃいかん、働かなきゃって思い、まず派遣会社に登録しました。リハビリのように仕事の時間を増やしていったんです。昼は派遣事務、夜はバイトで飲食店勤務。そうして社会復帰していきました」


 その間に姉が残した2匹の猫を見送った。もともとサービス業が好きだったのりこさんは、飲食店でのバイトをフルタイムにした。そして昨年9月、励まし合っていた犬イーちゃんを、見送った。16歳だった。


「元気に動き回って前日まで食べていたんですけどね。たまたま休みの日で、今日は食べないなと思ったら、私のとこに来て足に顎を乗せて、そのまま……ペットのほうが先に年をとることはわかっていたけど」


 今一緒に暮らすのは3匹。猫のピナは16歳。見かけは若いが、足腰がだいぶ弱ってきている。猫のルンルンも15歳で、年とともに痩せてきた。のりこさんは、姉から受け継いだ命たちを、最後まで見守りたいと思っている。


「みなが長生きをすると、本当のママがあっちの世界で待ちくたびれちゃうかしら。でも急がないで、もう少し、私のそばにいてほしい。ゆっくり、生きていきましょう」


(藤村かおり)

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sippo編集部が独自に取材した記事など、オリジナルの記事です。

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