お風呂が大好きな猫 一緒に入ると、お礼の品が?!
ある夜、都会の片隅に忘れられた草むらから、片方の手のひらに乗るくらいの子猫を家族が保護してきた。体をキレイにして、人肌に温めたミルクを猫用哺乳瓶で与えた。子猫はツヤツヤの黒い毛の男の子に育った。
このクロコが「3度の飯より好き」なのが、お風呂だ。ご飯を食べているときも、「お風呂よ」の言葉をかけると、すぐに器から顔を上げ、カリカリのかけらを口まわりにつけたまま、トコトコとお風呂に向かう。
夜、私が帰宅すると、「お風呂が帰って来た!」とばかりに目を輝かせて足にまとわりつく。寝ているときも、お風呂のドアが開く音がすると、ムクッと起きて、小走りにやってくる。あまり待たせると、「ミャーん」という甘えた声が、だんだん不満そうな「ファー!」(まだ?)になり、ドレッサーのヘアブラシを落としたり、お風呂のドア前で座り込んだりする。
なぜこんなに風呂が好きなのか?
クロコはドボンとお湯に入るのは怖がる。シャワーの音も苦手。ただ、湯気の立つ洗い場で、ほかほかタオルで体をゴシゴシ拭かれるのは好き。ブラッシングはされるがままで、恍惚(こうこつ)の表情になる。キレイにしてもらうのが好きなのだろう。泥だらけの草むらに捨てられていたせいかもしれない。
耳の中も綿棒で掃除して、口の中は歯磨きシートで汚れをとる。その間は頭をコツンと私のひざにつけて、グルグル、グルグルとのどをならす。一通り終わって満足すると、脚拭きマットに梅マークをつけて脱衣所を出て行く。
上機嫌のクロコを見送った後、私が自分のお風呂に取りかかると、またドアの外で「ニャッ」と声がする。「何?」泡だらけの髪の毛のままドアを開けると、クロコはピンクのハート形クッションをくわえて立っている。そして脚拭きマットの上にそっと置く。
別の日には、お古のパウダーパフ。また別の日には丸いクッション。どれもクロコが宝ものにしているもの。くわえてきて「ありがと! あげる」というように脱衣所に置いていくのだ。
「お礼」というより「お駄賃」。家族から私は「クロコのさんすけ」と呼ばれる。「さんすけ」はその昔、お風呂屋で背中を流す商売をしていた人のこと。クロコは「今日も背中流し、ごくろうさん」と言っているのだろうという。
ただ、その役割を期待されているのは、家族の中でも私だけだ。
ときどき、まだお風呂に居たいクロコを先に出してしまうと、出たときにクッションも何もない。自分の満足への対価として支払っているのだろう。
それとも……疲れて帰った私へのクロコなりのもてなしなのか。逆に私を癒やしてくれているのか。
とにかく今日も王子様のために、お風呂をきれいにして準備している。
(城梅子)
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