花屋さんのちっちゃな“黒猫” 先住猫の背におんぶする甘えん坊

「最高ニャ」極楽おんぶ完成形
「最高ニャ」極楽おんぶ完成形

 猫好きのお花屋さんが、今夏、生後まもない保護猫を迎え、”子連れ”出勤を続けた。先住猫の甲斐甲斐しい“保父”ぶり、子猫が来る前に旅立った花屋の看板猫への思い……絆のストーリーをお届けする。

(末尾に写真特集があります)

「えっ、無理!」

 今年8月、東京都渋谷区神宮前の生花店「馬鈴花(ばれいか)」に勤める中山浩子さん(48)は、その子猫に初めて会って、驚いた。あまりにも小さかったからだ。色も想像と違った。真っ黒な子猫と聞いて、迎えに来たのだが、色はスモークグレーで、しかも縞模様もある。

「黒猫じゃないんだ……これじゃ黒猫詐欺じゃん(笑)」

 生花市場の知り合いから「へその緒がついたまま、都内の道端で保護された猫がいる」と聞いていた。黒白が1匹と、黒猫が2匹の計3匹いるという。黒白は嫁入り先が決まったので、浩子さんは夫と相談し、もらい手のない黒猫を2匹引き取ろうとした。

「黒猫と聞いて運命的なものを感じたからです。実は春先に、お店の“看板猫”の雄の黒猫を立て続けに2匹、失っていたので……」

浩子さんと対面時の龍(生後3週間)
浩子さんと対面時の龍(生後3週間)

 生き別れと死別。いなくなった彼らの生まれ変わりではないが、「黒猫が2匹欲しい」と思ったという。結局、1匹は保護主宅に残ることになり、1匹の子猫を引き取ることになった。

 黒猫詐欺でも可愛いからいい。小さなグレーの猫に、浩子さんは「龍(りゅう)」と名づけた。

「自宅に虎千代(とらちよ)という猫がいるので、タイガー&ドラゴンにしたんです(笑)」

初対面。すぐに虎千代の後を追う龍
初対面。すぐに虎千代の後を追う龍

 8歳の虎千代は、最初は「シャーッ」と小さな新顔を威嚇した。

「でも翌朝にはすぐ慣れましたね。いやそれよりも、虎千代が龍をあやすのが堂にいっていて、びっくりでした」

 虎千代も保護猫だが、若い時には先住のコスケという猫に面倒をよくみてもらったという。ある獣医師によれば、子猫は幼い頃に(猫に)可愛がられた記憶があると、雄雌に関係なく、自身も後から来た子猫に愛情を注ぐそうだ。

 虎千代はコスケの記憶からか、龍に顔を蹴られても背中に乗られても、“仏の顔”で保父役を務めた。だが小さな龍には授乳が必要なため、浩子さんは最初の1ヶ月は毎日職場の花屋に連れていった。この“子連れ出勤”は来店する客を喜ばせた。

「女性のお客様にも授乳を手伝ってもらったりしていると、どんどん人が集まって、猫の“授乳カフェ”って、いい商売になるぞなんて思いました(笑)」

 こうして大勢の客に抱いてもらった龍は、人が大好きな猫に育っていった。

「うちの花屋は創業42年で、オーナー夫妻も大の猫好き。店には猫が絶えたことがないんです。そのまま龍を店先に置くと思っていたお客様もいたようですが、龍は看板猫には“しない”と決めていました」

 その理由は、春先に別れた2匹の黒猫、ヒロシとユニに関係する。

「ヒロシとユニは店と表を自由に行き来していましたが、今は時代的にも猫の飼い方が変わりましたからね。それに、ヒロシ(享年13歳)は病気で、店内(私の腕の中)で亡くなりましたが、ユニ(推定6歳)は出かけたまま戻って来なくなり、いまだにその事を受け入れられていなくて」

花屋の店先で(生後約2ヶ月)
花屋の店先で(生後約2ヶ月)

 ユニは過去にも3泊4日ほど、どこかに出かけ、“いい匂い”をさせて戻ってくることがあったという。事故の情報は周囲から得られなかったので、どこかの家のウチ猫になったのかもしれないな、と浩子さんは考える。幸福ならいい。それでも急な別れはつらいものだ。そんな複雑な思いを抱えながら、龍の子育てに没頭した。

「子連れ出勤は、授乳の終了とともにおしまい。今は家で留守番しますが、虎千代との体格差がまだかなりあるので、誰もいない時はケージにいれて、私か夫が帰るとケージから出します。すると龍は、すぐに虎千代の背中によじのぼるんです」

 浩子さんは今まで多くの猫と接してきたが、猫におんぶをする猫は初めて見るという。

「コスケがいなくなって、この2年間は1匹で暮らしていた虎千代にとっても、弟猫を迎えたことは正解だった気がします」

 立て続けにいなくなった花屋の看板猫たちへの思慕が消えることはないが、浩子さんの悲しみは少しづつ癒えてきているようだ。不思議なことに、秋の深まりとともに、グレーがかった龍の毛も黒くなってきたという。

「離乳までが目まぐるしかったけど、成長はこれから。立派な黒猫になるんだ、龍」

 いつまで虎千代におんぶを続けるのか。可愛く愉快な成長ぶりをゆっくり、見守りたいと思っている。

 浩子さんの胸にしまってあるヒロシとユニの思い出、とくにヒロシの残した粋な別れの挨拶については、次回に。

(藤村かおり)

原宿の街に生きた花屋の黒猫たち 看板猫との出会いと別れ(前編)

 

「馬鈴花」 東京都渋谷区神宮前6-5-1

ブログ http://ameblo.jp/bareika/

 

ヒロシとユニ
ヒロシとユニ

藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は17歳の黒猫イヌオと、3歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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