動物園に「密輸動物」が続々 珍しいトカゲ、インコ、イグアナ
名古屋市千種区の東山動植物園には、国内の動物園ではここでしか見られない珍しい動物がいる。ケイマンイワイグアナやアオキコンゴウインコ……。実は、「密輸」だ。
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■「祖国」に返せず 整わぬ飼育環境
約80センチの黄土色の体に黒灰色の背中。キールと呼ばれるトゲトゲが魚の背びれのように並ぶ。東山動植物園にいるメスのケイマンイワイグアナ「イワ」だ。
臆病な性格で、飼育担当の大津尚史さん(45)が展示室に入ると穴の中に隠れたり、部屋中を逃げ回ったり。近づくのが難しく、大津さんは約2メートルの棒にブラシを付けてイワの体をきれいにする。
ケイマンイワイグアナは、カリブ海に浮かぶ英領ケイマン諸島に生息。野生動植物の国際取引を規制するワシントン条約の対象で、原則として日本では見られない。なのに、東山動植物園には3匹もいる。密輸されたものを引き取って世話をしているという。
イワは2003年、現在の県営名古屋空港に密輸された。ワシントン条約の対象動物は密輸されると原則、元の国に送り返される。だが、飼育環境が整わないなどのケースもあり、そうした場合は日本国内で保護する。海外旅行先で、対象と知らずに買い、土産として持ち帰る人もいる。空港で指摘されると所有権を放棄するという。
大半は国から日本動物園水族館協会(JAZA)に動物の保護依頼が来る。JAZAは国内151の動物園と水族館の中から引き取り先を探す。東山動植物園には、南米・ボリビアにいるアオキコンゴウインコやインドホシガメやヤシオウムなど、計15種40匹(8月末)が飼育されている。
経済産業省によると、動物園や水族館で飼育されている「密輸動物」は、計102種712匹(15年3月末)。カメやインコが多いが、大型ワニのイリエワニやチンパンジー、チョウザメなども保護された。
■場所の確保が課題
「動物を受け入れるキャパシティーには限界がある。依頼を断られることもある」。JAZAの岡田尚憲事務局長(63)は話す。
東山動植物園では今年、インコ36羽の引き取りを断った。鳥が飛べる高さや奥行きが十分にある飼育場所を確保できないからだ。動物の転出入を担当する今西鉄也さん(45)は「最近は動物1匹あたりの飼育面積にゆとりを持たせる傾向が全国的にある。引き取るには飼育場所の確保が課題だ」と話す。東山動植物園では、04年に約1万9千匹いた動物が、現在は約1万2千匹に減っている。
「密輸された動物を何とかしたい」。そんな思いでできる限り引き取っているが、国内では数園の動物園でしか見られないアフリカ・マダガスカル島に生息するクモノスガメなど3種7匹のカメが、場所不足で展示されず飼育されている。
「皆様は違反しないでね」。東山動植物園では保護された動物の展示室前に、保護の経緯や注意喚起を掲示している。
「色々な動物を知ってもらう中で、密輸といった残念な現実があることも知って欲しい」と今西さん。今後は動物の名前の看板にワシントン条約についても記載し、少しでも密輸動物を減らすことに協力していきたいという。
(神野勇人)
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