ペット扱う業者への規制、なお不十分 改正動物愛護法3年

栃木県矢板市内の引き取り屋で飼育されている犬=動物愛護団体提供
栃木県矢板市内の引き取り屋で飼育されている犬=動物愛護団体提供

 改正された動物愛護法が、2013年9月に施行されてから3年。改正の焦点は、繁殖業者やペットショップなど動物取扱業者の規制強化だったが、いまも不十分だという指摘がある。改正後のペット業界に何が起きているのか。


■引き取り拒否可能 行き場失う犬猫

 今年5月、栃木県矢板市で犬猫を引き取るビジネスをしていた業者が、動物愛護法違反の疑いで県警に刑事告発された。

 経営者の男性は容疑を否認しているが、告発した動物愛護団体は、犬猫19匹を劣悪な環境に置くなど虐待していたと指摘。県警は8月に家宅捜索し、売買記録などを押収した。経営者から事情を聴いており、近く書類送検する方針という。

 法改正で、殺処分の減少を目指す自治体は、業者などからの犬猫の引き取りを拒否できるようになった。一方で繁殖業のあり方などには規制がかからず、不要になったり売れ残ったりした犬猫などは行き場を失った。これらが引き取り業者に流れたと見られている。

 同法は、議員立法で12年8月に改正された。当時与党だった民主党は動物取扱業者の規制強化を目指したが、与野党協議の末、後退したことが背景にある。

 たとえば、幼すぎる子犬や子猫を8週齢(生後56~62日)まで生まれた環境から離さない「8週齢規制」は欧米諸国では一般的だ。改正法は「56日」と日数を入れたが、付則で「別に法律で定める日」まで「49日」と読み替えられた。

栃木県矢板市内の引き取り屋で飼育されている犬=動物愛護団体提供
栃木県矢板市内の引き取り屋で飼育されている犬=動物愛護団体提供

 また、動物取扱業者が犬猫を飼育する際に入れるケージなどの大きさを具体的に定める規制、繁殖現場などで従業員1人あたりの飼育上限数を定める基準、繁殖用めす犬やめす猫の繁殖回数の制限など、主要な規制の多くが先送りされた。

 このため、動物取扱業者の課題の多くがそのまま残され、改正後も数々の問題を発生させる要因となった(表参照)。法の網の目をくぐるようなビジネスも活発化し、引き取り屋のほかにも犬猫の「販売代行業」などまで登場している。


■動物販売 対面説明が義務づけられたが

 改正法では、ペットのインターネット販売を規制するため、動物を販売する際には、その動物を購入者に直接見せ(現物確認)、さらに購入者と対面した状態で書面などでその動物の情報を提供すること(対面説明)が義務付けられた。だが、消費者から遠く離れた繁殖業者から空輸などされた子犬や子猫の現物確認と対面説明を代行する業者まで現れている。

 こうした状況を、ペット業界側も問題視している。全国で約100店を展開するペットショップチェーン大手AHBの川口雅章社長は「悪質な業者は市場から退場しつつあり、それはいいことだ。一方で引き取り屋や代行業などの存在は大きな問題だと認識している。このような業者を利用する業界関係者がいることもおかしい」と話す。

 同じく業界大手コジマの小島章義会長も「特に繁殖の現場でグレーな部分が解消されていない。(コジマの)販売頭数は前年比プラスで推移しているが、(社会問題化している現状では)生体販売からの撤退も含めた大きな方向転換を中期的に検討せざるを得ないかもしれない」という。

 栃木県の引き取り屋の事件など、監視・指導する立場の自治体側が、問題を見過ごしたり、放置したりしている事例も少なくない。法を実効性あるものとするため、各自治体で人材と財源の充実をはかる必要性も指摘される。

 環境省の則久雅司・動物愛護管理室長はいう。「段階的に強化されてきた動物愛護法によって業者のふるい分けが起き、総じて良くはなってきているとは思う。ただ、経過措置になっている規制もあり、飼養施設規制や繁殖制限措置など検討しないといけない事項もある。今後も情報収集に努めたい」

 5年に1度、見直すように定められている動物愛護法。来夏にも、見直し作業が始まる。

■改正動物愛護法を巡るおもな出来事

2012年8月 改正動物愛護法が可決、成立

2013年9月 改正動物愛護法が施行

2014年10月 栃木県内で犬の大量遺棄事件が発生

2015年1月 群馬県高崎市動物愛護センターに繁殖業者が虚偽通報をして複数の犬を引き取らせ、偽計業務妨害の疑いで同県警が逮捕


     4月 従業員数や規模に見合う以上の動物を飼育したなどとして東京都が昭島市のペット店に1カ月の業務停止命令

2016年3月 札幌市議会で「8週齢規制」を努力義務化する「市動物愛護管理条例案」が可決、成立

     4月 東京都が、不衛生な環境で猫を飼育しているなどとして墨田区の猫カフェに1カ月間の業務停止命令

     5月 栃木県の「引き取り屋」が動愛法違反(虐待)の疑いで同県警に刑事告発される

     6月 環境省が猫カフェなどに午後10時までの夜間営業を認める規制緩和を実施

     7月 兵庫県姫路市が市内の動物保護団体に対し施設管理のあり方などについて改善指導

     9月 埼玉県三郷市が「8週齢規制」の努力義務化を盛り込んだ「市動物愛護条例」制定を目指しパブリックコメントを実施

太田匡彦
1976年東京都生まれ。98年、東京大学文学部卒。読売新聞東京本社を経て2001年、朝日新聞社入社。経済部記者として流通業界などの取材を担当した後、AERA編集部在籍中の08年に犬の殺処分問題の取材を始めた。15年、朝日新聞のペット面「ペットとともに」(朝刊に毎月掲載)およびペット情報発信サイト「sippo」の立ち上げに携わった。著書に『犬を殺すのは誰か ペット流通の闇』『「奴隷」になった犬、そして猫』(いずれも朝日新聞出版)などがある。

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