ペット同伴可も テント・間仕切りで避難所のプライバシー確保

災害直後の避難所では、性別も年代も様々な大勢の人が密集した状態で共同生活を送ります。問題となるのがプライバシーです。熊本地震ではテントや間仕切りで確保する取り組みが広がりました。
震度7の激震に2回見舞われた熊本県益城町の陸上競技場。先月下旬の夕方、整然と並ぶ約150張りのテントの中からは、食事をする家族の話し声や幼い子どもの泣き声が時折もれ聞こえていた。
夫と2~11歳の3人の子どもと暮らす保育士富田美保さん(41)は、車中泊からこのテント村へ移り、約1カ月生活した。「子どもがなかなか泣きやまず避難所は無理と思ったけど、テントなら気にならなかった。家族一緒に足を伸ばして寝ることもできた」
テント村ができたのは、登山家の野口健さん(42)が「被災者が求めているのはプライバシーじゃないか」と感じたのがきっかけだ。地震発生当初は、町内の避難所は多くの人が居住スペースに入りきらず、通路でも寝泊まりした。着替えや授乳をできる場所もなく、車中で泊まる人が続出していて思ったという。
テントを買って被災地に送るプロジェクトをSNSで呼びかけ、岡山県総社市などが応じた。最初の震度7の揺れから10日後の4月24日、まずは110張りが設置された。
先月末に閉鎖されるまで、このテント村には最多の時で約600人が生活。町内には、ペットと一緒に避難する人向けなど他にも数カ所に設置された。国内の被災地でこれほど大規模にテントが使われたのは初めてとされる。
益城町役場は当初、「死角ができる」と懸念した。これに対しては、総社市職員らがテント村に常駐して対応した。体調を崩して倒れた人に気づいたり、窃盗などの犯罪を予防したりするために午前と午後に見回り、妊婦や高齢者などがいる世帯は1日1回必ず体調を直接確認するようにしたという。
一方、避難所では間仕切りによる「個室」が広まった。建築家の坂茂さん(58)が手がけた紙管と布を組み合わせて作る間仕切りが、今月4日までに38避難所に計1989ユニット分設けられた。
四方を囲む布はカーテン状で開け閉めできる。昼間には開けておしゃべりしたり、家族構成によってスペースを広げたりすることも。閉鎖的にならないようにする工夫だ。
坂さんはこの支援を2004年の中越地震から開始。紙製の小屋のようなスペースを避難所内に作ったが、管理する行政側にも使いやすいよう改良を重ねたという。今回は被災した市町村の要請で、資材を初めて国が約1千セット購入。4月23日には設置が始まった。従来より素早かったといい、坂さんは「間仕切りの設置が避難施設の標準装備になってほしい」と話す。

■国際標準はまだ遠く
課題も見えてきた。テントは、暑さだ。寒さはある程度着衣でしのげるが、暑さは5月ぐらいになると「日中テント内は50度まで上がる」と野口さん。今回は風通しのいいテント用日よけ「タープ」を導入したが、今後は電源を確保して簡易冷房を置いたり、木陰のある場所に張ったりといった対策が必要とみる。
避難所内の間仕切りは、子どもの声などの音が周囲へ筒抜けだ。坂さんは「各家庭のニーズが違うし、子どもが大きな声を出したり走り回ったりすることで落ち着かない人たちもいるため、子育て家庭と高齢者、地域ごとといった区画作りが必要」と提案する。
国内外の被災地で活動してきた熊本赤十字病院国際医療救援部の曽篠恭裕(そしのやすひろ)さんによると、海外の災害支援では国際的な「スフィア基準」がある。避難所について「プライバシーを確保し、十分な覆いのある生活空間を有する」と明記され、多くの国際機関やNGOがこれに沿って活動しているが、国内ではまだあまり普及していない。
避難者1人当たりのスペースを最低3・5平方メートル(約2畳)とするが、熊本での地震直後の避難所は2平方メートル未満だった。面積基準は政府の指針では示されていない。
曽篠さんは「海外の被災地でも基準をすべて満たすのは難しいが、満たすべき条件を明示してプライバシー確保の意識を高めている」と指摘。「設置当初の場所取り後に、授乳や着替えなどのスペースを作るのは難しい。災害前に、プライバシー確保のための避難所運営の研修、施設デザインや防災教育が求められる」と話す。
(藤田さつき)
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