「犬がいるから」避難所は無理、「危険」な家で暮らす 熊本地震
余震がやまない熊本地震の被災地で、建物の応急危険度判定を受け、「立ち入りが危険」とされながら、あえて自宅で暮らす人たちがいる。なぜ、そうせざるを得ないのか。
「もう一度、震度7の地震が起きたら、この家もだめかもしれない」。熊本県益城町の建築業、田中文浩さん(48)は、あきらめ顔で言う。視線の先の自宅には「危険」と書かれた赤い紙が貼られている。
応急危険度判定は市町村が実施。建物の損壊状況などに応じて「危険(赤)」「要注意(黄)」「調査済み(緑)」の3段階で評価し、それぞれの色の紙を建物に貼る。熊本県によると、9日時点で益城町内の建物は「危険」が3742件、「要注意」が2902件にのぼる。
田中さんは妻(45)と次女(21)との3人暮らし。飼い犬がいるため、避難所は避けた。地震直後から車に布団を持ち込み、コンビニの駐車場などで車中泊を続けた。車内では足を伸ばせず、眠りも浅いまま。4月26日夜、自宅に戻った。「もう限界だった」と振り返る。
同町の吉島紀行さん(65)も赤い紙が貼られた家に住み続ける。「外装材の落下の恐れがある」「ブロック塀が倒れてさらに崩壊の危険有り」と判断された。
だが、母のアキエさん(96)は軽度の認知症に加え、足が不自由で車いす生活を送る。白内障でぼんやりとしか見えず、仮設トイレを使うのも難しい。このため「避難所での生活は無理だ」と諦めた。
自宅ならポータブルトイレがある。食事は近所の人が缶詰やインスタントラーメン、炊き出しのおにぎりなどを避難所から運んできてくれる。吉島さんは「家が残ったのはよか方よ。倒れる時は倒れる」と割り切り、今後も住み続けるという。
応急危険度判定は、余震などによる二次被害防止が目的で、法律に基づくものではなく、強制力はない。「情報提供」という位置づけだが、建築士などの資格をもつ判定士が危険度を見極め、判断している。益城町災害対策本部も、危険と判断された住宅には立ち入らないよう求めている。
実際、時間が経って建物が壊れるケースもある。
「倒壊した。中に人がいるかもしれない」。1日午後、同町小谷で近隣住民から119番通報があった。2階建ての土塀の小屋が壊れ、道路が がれきでふさがれた。小屋を所有する女性(79)は避難先にいて、けが人はいなかったが、前日には娘夫婦らが米を取りに小屋の中に入っていた。
危険だと判断された住宅に住む70代の男性は「『危ないから出て行け』というなら、代替の住宅確保に向けた支援策を早く示してほしい」と話す。
益城町では職員が避難所運営などに追われ、住宅再建支援の前提となる罹災(りさい)証明書の発行業務は始まっていない。発行に向けて、町内の建物約1万6500棟の全棟を調査する方針だが、進捗(しんちょく)率は10日現在、34・7%にとどまる。
室崎益輝・神戸大名誉教授(都市防災論)は「『赤』の家は余震で人命の危険があり、入ってはいけない。一方で行政は仮設住宅の建設を急ぐとともに安心して暮らせる場所を提供することが大事だ」と話す。
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