東日本大震災から5年 福島のペットたち 「譲渡には限界」
震災と原発事故によって、運命を狂わされた飼い主とペットたち。やっと、幸せな時間を取り戻したペットがいる一方で、一緒の生活をもうあきらめざるをえない飼い主も出てきた。犬猫たちに残された時間は、そう長くはない。
文・写真/太田匡彦
![ゆず(メス、10歳)は、東日本大震災から4年近くが経過した昨年2月、新たに保護施設に引き取られることになった(SORAアニマルシェルター提供)](http://p.potaufeu.asahi.com/sippo-c/2077-l/picture/10565035/deb4bedcd2e227a78a6d3788a2256ee3.jpg)
仮設から出た先はペット不可の住宅
帰還困難区域や居住制限区域に自宅がある場合には、今野さんとちび太のように、一緒の生活を取り戻すのにどうしても時間がかかる。もともとの飼育環境が、新たな住環境に適さないという事例も少なくない。さらには年月を重ねたことで、ペットと一緒の暮らしを断念するというケースもでてきている。
昨年2月、10歳の雌犬ゆずは、前編のちび太が保護されていたのと同じSORAに引き取られた。それまでは同県飯舘村内で1匹で暮らしていた。
飼い主の村山豊さん(68)一家は兼業農家をしていたが、原発事故の影響で福島市内の賃貸住宅などを転々とせざるを得なかった。この間、愛犬のゆずとゴン(メス)は飯舘村の自宅に置いておくしかなく、ボランティアの助けを借りながら面倒を見てきた。
だが震災から4年目、ゴンが死んだ。元野良犬だったので正確な年齢はわからないが17~18歳だったという。そしてゆずは、1匹になってしまった。村山さんはこう振り返る。
「ゆずは、友人宅で生まれたのをもらってきました。人なつっこい、おとなしい子です。子犬のころは、孫たちとずっと遊んでいました。ゴンが死んで、かなり悩みました。飯舘に、ゆずをひとりぼっちで置いておくよりは、SORAさんに引き取ってもらったほうが幸せになれるのではないかと思い、決断しました」
SORAにはいま、犬猫あわせて約50 匹が保護されている。二階堂利枝代表(44)はいう。
「様々な理由で譲渡が難しい子たちがずっと残っていたところに、震災から5年が経って新たにペットを手放す決断をする飼い主さんも出てきています。仮設住宅からペット不可のマンションに移らざるをえなかったり、飯舘村内に通って面倒を見ることが限界になったり……。被災ペットのシェルターとしては、先の見通しがまだ全くたたない状況です」
同県いわき市で、被災ペットの保護活動を続けている「LYSTA」にも、まだ猫約100匹、犬約10匹が保護されている。これまでに犬約40匹、猫約100匹を譲渡してきたが、福島県内でこれ以上の里親を見つけるのが困難になってきたと感じている。そこで最近では、他団体の協力を得て千葉県内で譲渡会を開くなどの取り組みを始めた。
LYSTAの鈴木理絵代表(36)は、さらにいま、帰還困難区域や居住制限区域で増える猫の問題を懸念している。不妊・去勢手術をしないまま飼い主とはぐれた猫が少なくなく、毎年、子猫が多数生まれているのだ。鈴木さんはこう話す。
「こうした地域に関東から通ってきて、猫たちの保護活動をしている方たちもいます。『震災』は、まだ終わっていないと思います」
ウェブサイトsippoで「福島原発事故後に保護、秋田犬『アキタ』逝く」と報じたように、飼い主と一緒の暮らしを取り戻せないまま、死を迎えた犬や猫もいる。
成犬や成猫にとっての5年は、人間の20年分にもあたる。一日も早い、飼い主とペットとの生活再建のために何がいま必要なのか、改めて考えてみる必要がありそうだ。
![保護した猫を抱き上げるLYSTAの鈴木理絵さん。鈴木さんも、SORAの二階堂利枝さんも、先が見えない活動に、悩みながらも必死で取り組む](http://p.potaufeu.asahi.com/sippo-c/2bb0-l/picture/10565036/483e13d8d920c67759447860f24c8c52.jpg)
(朝日新聞タブロイド「sippo」(2016年4月発行)掲載)
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