被害防止へ対策苦慮 減らぬ野犬、周南管内の捕獲数突出
山口県周南市に赴任して1年半。1日のうちで、最も緊張するのが朝のジョギングである。
ほぼ毎朝のように、野犬に出会うのだ。グラウンドや駐車場で寝そべっていたり、路上を歩いていたり。多いときだと10匹ほどが群れをなす。栄養が行き届いているのか、やせこけた犬は少ない。車からパンのようなものを与えられている光景を何度か目にした。
先日もジョギング中、道に飛び出してきた4匹の野犬とすれ違った。距離は数メートル。こちらは身構えるが、犬たちは吠(ほ)えることはなく、追いかけてもこない。散歩をしていた女性は「怖くなんかないよ」と話した。
山口県と下関市のまとめでは、2014年度に捕獲したり引き取ったりした犬は県内で約1550匹に上る。うち、山口県周南健康福祉センター管内(周南市、下松市、光市)の捕獲数が652匹と、ほかの管内に比べ突出しているようだ。
周南市で野犬を多く見かける周南緑地公園は、野球場や陸上競技場などスポーツ・レクリエーション施設を備えた都市公園。市中心部からそれほど離れていないものの緑が多く、すぐ近くには住宅やマンションも立ち並ぶ。
14年度に周南市内で捕獲された野犬517匹のうち、公園やその付近で捕獲されたのが106匹だった。市は公園に野犬が多い理由として、草むらや竹やぶが多く犬のねぐらになりやすい、人目につきにくく犬を捨てやすい、エサを与える人がいて食べ物に困らない――などを挙げる。
捕獲は周南健康福祉センターが担い、市も協力している。しかし、網で捕らえる方法のため、逃げ足の早い成犬を捕まえるのは容易ではないそうだ。市は今年度、草むらや竹やぶの伐採範囲を拡大したり、巡視に乗り出したりしている。
現時点でけがにつながるような被害の通報はないという。だが、「吠えられた」「追いかけられた」などの苦情は絶えない。県の担当職員は「公園内には犬のねぐらがたくさんあり、子犬が次々に生まれる」と頭を悩ませる。
もう一つ大きな問題がある。行政に捕獲された犬や猫は殺処分される現実である。県内でもほとんどが殺処分されており、環境省によると、全国トップクラスの処分数という。
山口県防府市にある「青い鳥動物愛護会」は、犬や猫を保護したり、譲渡したりする活動を市内で続けているNPO法人である。清水久仁子代表は「エサをやらなければ10匹を5匹に減らせるかもしれないが、ゼロにはならない」と話す。
清水代表は、避妊や去勢手術を施して長期的に数を減らしていく方法を提案する。殺処分にかかる費用より手術代のほうが安く、納税者の負担も少なくすむという。「野良犬の平均寿命は5年ほどといわれている。手術してもとの場所に戻すことが出来れば激減するはず」
「最初から野犬はいなかった。捨てられて、殺処分されるなんて。人間が悪いんだ」と話すのは、同会の活動に協力している「エサやりさん」と呼ばれる人たちの一人である。
「エサやりさん」たちは、親犬にエサを与えることで、子犬を保護する活動に取り組む。「親犬にご飯をあげれば、子犬のところに必ず帰る。そこで子犬を保護する」のだという。保護と譲渡を繰り返し殺処分を減らすねらいがある。
しかし、こうした地道な活動にも限界がある。行政も野犬を減らすのには苦労している。行政と民間がもっと連携して取り組むべき課題の一つといえそうだ。もっとも、飼い主の責任が最大の問題であることは論をまたない。(東山口支局長・伊藤稔)
(朝日新聞2015年9月8日掲載)
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