野良猫にエサをやったらダメなの?

 以前に、この連載コラムの第3回で、猫の飼い方の決まりについて書きました。
 猫については室内飼いが推奨されているものの、外飼いは禁止されていないので、現実にサザエさんの「タマちゃん」のような猫がいます。また残念ながら、元の飼い主に遺棄されてしまった猫もいます。このように外で活動する猫のうち、不妊去勢されていないもの同士が交配して、所有者が誰なのかよくわからない猫がたくさん産まれます。野良猫はこうして増えていくわけです。
 好きな人にとっては、外で日なたぼっこする猫を見るとほっこりした気持ちになったりするのですが、一方で猫が嫌いな人ももちろんいます。嫌いではないけれど庭の糞尿には困っている人もいます。つまり野良猫に対しては、様々なスタンスの人がいます。
 昔であれば、いろんな方法で猫を「駆除」していた地域もあったかもしれません。しかし、今や時代が違います。猫を正当な理由なく殺せば犯罪となりますし、狂犬病予防法がある犬と違って、猫は捕獲して保健所へ持ち込むこともできません。
 そこで、野良猫をそのままの環境で生かすことを前提として、一方でこれ以上猫の数を増やさない、ということを考えないといけないわけです。そのために個人や団体のボランティアが、自費で不妊去勢措置を行い、猫による迷惑をなるべく少なくする努力を重ね、さらには地域の環境美化に貢献することで野良猫の問題に悩む地域住民を支援しています。
 こうした活動には、野良猫への餌やりが不可欠です。不妊去勢手術をするためには捕獲する必要があります。そのためには、準備段階として猫の警戒心を和らげるために餌やりが欠かせません。また、猫の頭数管理をするために、そもそも付近にどれだけの猫がいるのかを把握する必要があるのですが、それも餌やり活動があってのことです。
 また、地域住民とはあまり関わらずに、野良猫に自費で不妊去勢手術を受けさせて餌をやる人やグループも多くいます。それ以外にも、お店や仕事場の近くでよく見かける猫をいわば仲間のように思って餌をやり続ける人もいるし、目の前にやせ細った猫が歩いているのを見かねて慌てて水や餌をあげる場面もあるでしょう。
 野良猫への餌やりといっても、いろいろなパターンが考えられるのです。
 これらの餌やりについて、「これは望ましい」あるいは「こちらはすべきではない」、またはそもそも「一切すべきではない」――など、皆さんそれぞれに意見はあるでしょう。ただ、少なくとも法律レベルでは、餌やりによって他人に著しい迷惑をかけなければ、または他人の権利を侵害しなければ、違法とされることはないといえます。
 それでも、餌のやり方や片づけが極めていい加減で、目的もよくわからず、不妊去勢手術もせず、不幸な猫をふやしていて、周辺環境を著しく悪化させるだけの独善的な餌やりが問題とされることがあります。過去10年ほどの間で、自治体の中には、周辺環境に悪影響を及ぼす餌やり、もしくは不良状態を生じさせることを規制する条例の制定を検討し、条例として成立させたところもあれば、廃案としたところもあります。それぞれの自治体で、悩みながら慎重に進めていることがうかがえます。
 そのような中で現在、和歌山県で、飼い猫以外の猫に対する給餌と給水を原則として禁止することなどを内容とする条例案が検討されています。今回の条例案は「無秩序な餌やりを防止する」ことを目的とするようですが、「原則禁止」にしてしまうと、ここまで紹介してきたような様々なパターンの餌やりのうちほとんどすべてが禁止の対象となります。すなわち、目的より広い範囲の行為が規制されてしまいます。
 法律家の観点からすると、飼い猫以外の猫に対する給餌や給水を原則として禁止する内容の条例は制定できないと考えられます。そもそも、条例によらなければどうしようもないほど猫の餌やりによる著しい環境悪化の状況が県内で現実に相当数あったのか、県などの自治体はこれまで「餌やり禁止」ではなく「適切な餌やりの方法」を指導するなどの手段を講じてきたのか、条例の制定によって問題のない餌やり活動に対する影響はどの程度ありそうなのか……和歌山県はきちんと検討をすべきです。その上で、「無秩序な餌やりを防止する」目的に適合した規制の条項とする方向での再検討が必要だと考えます。
 和歌山県には、現在募集しているパブリックコメントの意見にも真摯に耳を傾けていただき、最終的に条例制定の是非を判断されることを望みます。
細川敦史
2001年弁護士登録(兵庫県弁護士会)。民事・家事事件全般を取り扱いながら、ペットに関する事件や動物虐待事件を手がける。動物愛護管理法に関する講演やセミナー講師も多数。動物に対する虐待をなくすためのNPO法人どうぶつ弁護団理事長、動物の法と政策研究会会長、ペット法学会会員。

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