犬にも発達障害はある? 問題行動に困ったら知っておきたいこと【獣医師解説】

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「ずっと興奮状態で、ほえ続けているのはなぜ?」「あるおもちゃへの執着が激しい!」「落ち着いてごはんを待てないし、食べ残しも多いのが悩み」などなど、愛犬の行動が理解できず、困っている飼い主は多いのではないでしょうか。しつけや指導で直るのか、もしくは治療が必要なのか……など、途方に暮れてしまうこともあるかもしれません。

 このところ、人間の発達障害に関する研究や認知が進んでいますが、では犬についてはどうなのでしょうか。行動学専門の臨床医である小澤真希子先生にお話を伺いました。

小澤真希子(おざわ・まきこ)
獣医師。日本大学 獣医保健看護学科 専任講師。東京大学大学院卒業。犬と猫の問題行動を治療する行動診療科を担当するとともに、犬と猫の発達や老化に関する研究を行っている。獣医行動診療科認定医の資格を有する。

犬の発達障害は、まだ定義されていないのが現状

 人間の発達障害とは、自閉スペクトラム症、学習障害、注意欠如多動性障害など、生まれつきの脳機能の微細な異常による障害のことを言います。社会生活に困難を抱えやすいという特徴があり、近年になり社会的に認知が進んでいます。では、犬にも発達障害はあるのでしょうか。

「犬の発達障害について、現段階ではまだ十分な研究は進んでいず、その定義はされていないというのが現状です。1970年ごろに犬の過活動が注意欠如多動性障害に似ているという研究報告がされているようですが、それから更新されていない状態です」

 飼い主の悩みのタネとなる問題行動として、過活動や多動などが挙げられますが、それらは必ずしも生まれつきの性質からの行動ではなく、トレーニングなどの行動療法を施し、環境を整えてあげることで、改善に向かうことが多いのだそう。

「たとえばものすごく元気なワンちゃんがいて、ずっと興奮状態が続いていて、過活動の傾向にあると診断された場合、過活動にさせているかもしれない要因をすべて取り除くことから始めていきます。まず重要なのは、十分な運動ができているか、精神的刺激を受けているかどうか。たっぷりと運動させて、十分に遊びを与えると過活動がおさまることがあります。

 次に、飼い主の間違った反応で、過活動の行動パターンが強化されていないかどうかです。犬が間違ったことをしたときに、『やめなさーい!』とか『うわ〜どうして!』などと反応すると、犬は注目されたと勘違いして、その行動を繰り返すようになります。飼い主側の不適切な反応が、犬の問題行動を強化してしまうのはよくある話。自分たちの反応が逆効果になっていないか、振り返ってみる必要があります」

問題行動だと思っても、トレーニングや環境を整えてあげることで、改善に向かうことが多い(getty images)

まずは、問題行動の原因と疑われる要素を取り除く

 また、不安や恐怖から落ち着かない心もちであると、動物は過活動になるため、愛犬が不安や恐怖を感じる要素を取り除くことも重要だそう。

「たとえば音。雷が怖い犬は、音が聞こえ始めると落ち着かなくなり、ウロウロと歩き回ることがあります。全般性不安障害といって、ちょっとした物音や人の動きなどでビクビクしてしまう子もいますね。また分離不安症といって、飼い主がいなくなる、愛着対象がなくなることで不安を感じる犬もいます。それらの不安や恐怖をすべて取り除いてあげましょう」

 さらに、本能からの警戒、攻撃行動が、過剰反応に見られることもよくあるのだとか。

「犬には、縄張りを守る縄張り性攻撃行動、物を守る所有性攻撃行動というものがあります。例えばリモコンをある場所に隠したり、取り上げようとすると異常にほえたり。それらは人間から見ると異様に感じてしまうのですが、犬にとっては自然の行動なのです」

 ほかにも、高齢になると、起きている間ずっと動き回ってしまう認知機能不全症候群、体の病気が原因で落ち着かない状態になる甲状腺機能亢進(こうしん)症なども表れ始めるのだそう。

「あとはアレルギーで皮膚がかゆかったり、おなかの調子が悪かったりすると、じっとしていると苦しいので落ち着きがなく見えることもあります。それらすべての要素を取り除いて、それでも問題行動が継続していて、それが生まれたときから続いている場合、少し外れた特性をもっている可能性があると診断するのです」

「その子の特性」と思って接して(getty images)

叱らない、褒める。専門家に相談

 では、愛犬の行動に不安や心配を感じたとき、飼い主はどうするべきでしょうか。まず大切なのは「絶対に叱らないこと」「小さなことでも褒めること」だと教えてくれました。

「人間一人ひとりに個性があるように、犬1匹1匹にも特性があります。その特性を否定したり、罰したりするのは厳禁。苦手なことに目を向けるのではなく、好きなことに注目して、望ましい行動へと誘導していくのがベストです。

 具体的には、小さなことでも今できることを褒めること。上手にフセができたら、スムーズにキャリーに入れたら……日常の触れ合いのなかで、とにかく褒めてあげる。ときにおやつをあげてもいいですね。たくさん遊んで、たくさん褒めてあげる。そしてできることを少しずつステップアップさせて、望ましい行動ができるように育てていく。飼い主ができることは、それに尽きるのです」

特性は否定せず、たくさん褒めて少しずつステップアップを(getty images)

 さらに「不安を感じたらとにかく早く専門家にかかってください。予防的に通うのもいいでしょう」とアドバイスしてくれました。

「たとえば子犬なら、パピークラスのある動物病院にかかることをおすすめします。この春から、獣医師以外に愛玩動物看護師という資格が始まりました。彼ら彼女らは、動物に関する包括的な知識をもっています。その資格を有し、かつパピーにたくさん触れている人が適任だと考えます。外れた特性があったときに、行動診療科につなぐ窓口となってくれるでしょう。

 また保護犬などで年齢を重ねている場合は、飼い主だけで対処するのは難しいことが多いので、すぐに行動診療科にかかってください。その際は、元々の環境でどういう状態だったのかを確認しておくこと。問題行動は前からあるのか、保護されてから出てきたのかは、重要な診断要素となります。どちらにしろ、困ったなと思ったら放っておかない、ひとりで悩まない。犬の特性を理解し、専門家と対策を探し、一緒に育てていく。そういう意識をもつことが大切です」

行動診療科につなぐ窓口としてパピークラスを受けたり、獣医に相談を(getty images)

 犬の特性について考えるとき、私たち人間がさまざまな犬種を生み出してきたことを認識しておくべきかもしれません。狩猟犬や牧羊犬を家庭で飼うことで、不適合が生じている可能性があることも知っておくべきでしょう。

「まず犬とはこういうもの、という考え方をやめてみましょう。犬それぞれの個性を受け入れ、その特性にあった環境を整え、困ったときには専門家と対応策を探す。そんなスタイルを、飼育者である人間がもてるといいなと思います。

 私たちは犬が犬らしく自由に過ごす姿を見て癒やしをもらっています。でも気づかぬうちに『犬らしさ』のイメージが狭くなってしまっていたり、ずれてしまっていたりすることがあります。たとえ外れた特性があっても、その子らしく過ごさせてあげれば、大きなトラブルは起こりにくいでしょう。犬と暮らすならば、まずその前提に立つことが必要なのでは、と考えています」

本庄真穂
編集プロダクションに勤務のち独立、フリーランスエディター・ライターとなる。女性誌、男性誌、機内誌ほかにて、ペット、ファッション、アート、トラベル、ライフスタイル、人物インタビューほか、ジャンルとテーマを超えて、企画・編集・ライティングに携わる。

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