【獣医師監修】猫の腎臓病は予防できる? おしっこの「尿比重」チェックで長生きを

目次
  1. 猫の腎臓病とは?どんな症状?
  2. 尿検査の「尿比重」チェックで早期発見へ
  3. 獣医師がお試し!自宅でできる尿の検査キットとは

 15歳以上の猫の8割がかかえていると言われる腎臓病。かなり進行してからでないと症状が表れないため、早期発見が難しい病気でもあります。しかし、早期に発見できれば、投薬や食事療法により、健康寿命を延ばすことができます。腎臓病の早期発見のために飼い主に何ができるのか、動物の予防医療の啓発活動を行う獣医師ネットワーク「一般社団法人 Team HOPE」代表理事である上條圭司獣医師に話を聞きました。

――そもそも腎臓病とはどんな病気なのでしょうか?

 腎臓には、血液から尿素や窒素、リンなどの老廃物を濾過(ろか)して取り除き、おしっことして体外に排出する機能があります。腎臓病とは、この機能が低下し腎臓の働きが悪くなる腎不全などの病気の通称です。

 猫はもともと砂漠の生きものなので、体内の水分をなるべく逃さないように、老廃物を体外に排出するときにおしっこを濃縮する体の構造をしています。しかし、おしっこの濃縮を繰り返すことで腎臓に負担がかかり、年齢とともに腎臓の機能が低下してしまうのです。また、腎臓を含めた尿路(腎臓、尿管、膀胱〈ぼうこう〉、尿道)に結石ができやすく、それにより腎臓の負荷が増加して腎臓の機能が低下することもあります。

「Team HOPE」ではペットの死因をデータ化していますが、猫の死因の約3割が泌尿器疾患です。詳細については様々な情報がありますが、臨床現場に立つ者として、泌尿器疾患に占める腎臓病の割合は実際かなり高いと感じています。

――腎臓病のサインには、どのようなものがありますか?

 最初に表れるのは、水をたくさん飲むようになる多飲です。多飲は、腎臓病や糖尿病など、体に異常があることのサインだと言われています。そのうちに食欲がなくなり体重が減り、毛づやが悪くなってきます。痩せてきたり、毛づやが悪くなってきたら、腎臓の機能がかなり失われている状態だと考えられます。

 そうなる前に気づくためには、定期的に血液検査と尿検査をすることが推奨されています。血液検査で、BUN(血液中尿素窒素)やクレアチニン、SDMA(対称性ジメチルアルギニン)の数値が基準値を超えてきたり、尿検査で尿比重が下がってきたりしたら、腎臓の機能の低下を疑うことができるため、腎臓病に早めに気づくことができます。

猫の腎臓病について、病状の進行の程度を4段階で分類した表。4つのステージごとに、腎臓の状態もイラストで示している。
猫の腎臓病のステージ分類。IRIS(国際獣医腎臓病研究グループ)のガイドラインより

――あまり聞いたことがないのですが、尿比重とは何ですか?

 言葉の通りおしっこの比重です。先ほどもお話したように腎臓は血液中の老廃物をおしっことして体外に排出するのですが、腎臓の機能が低下すると老廃物をうまく排出することができずにおしっこの濃度が薄くなり、比重が低くなってしまうのです。尿比重が低くなっていたら、腎臓病などの病気が疑われます。

 尿比重の検査があることを知らない飼い主さんもいるかもしれませんが、尿比重は尿検査に含まれている項目のひとつです。一般的な尿検査には、尿比重のほか、pH値、尿中の蛋白(たんぱく)、ブドウ糖、潜血などの項目があります。尿比重が下がっていれば腎臓病、ブドウ糖が出ていれば糖尿病、潜血があれば出血などが疑われます。この結果と、血液検査、血圧測定などの結果とあわせて、総合的に病気を診断しています。

「普段の尿比重を把握しておくと猫の異常に気づくことができます」

――ふだんから尿比重を知っておいたほうがいいのでしょうか?

 もちろんです。腎臓病の早期発見のためには、定期的に検査を行い、ふだんの状態を把握しておくことがとても大切です。猫には個体差があり、健康であっても尿比重が高めの子、低めの子もいます。普段の数値を把握しておけば、「低めだけれどふだん通り」「今回はいつもより低い」と判断でき、より早く猫の異常に気づくことができます。

 しかし、動物病院に連れて行くことは猫にとっても飼い主にとっても大きなストレスです。正確な検査を行うときには、膀胱に針を刺して尿を取るのですが、膀胱に注射針を刺す猫の採尿は嫌がる子には難しく、猫が暴れてしまって採尿できないこともよくあります。

 そこでおすすめしたいのが、自宅でおしっこを採り、それを病院に持って行って尿検査をすることです。やり方は、余分なものが混ざらぬように尿検査がしやすいシステムトイレなどを用い、排尿直後にスポイトなどでおしっこを採ります。尿のpHは時間とともに変わりやすいため、尿の入った容器は保冷材で冷やしながら、なるべく早めに病院へ持って行きます。

 簡易的な検査になりますが、尿たんぱくや尿糖、尿比重の異常などが見つかれば、血液検査や血圧測定など次の検査に進む判断もできます。

 さらに最近では、飼い主さんが自宅で簡易的に尿比重をチェックできるキットも、市販されています。

――どうやって、自宅で尿比重を測定するのでしょうか?

 例えば、小さな容器にビーズが入ったタイプのキットの場合、自宅で採ったおしっこを容器に入れると、ビーズが浮いたり沈んだりするので、その様子から尿比重の目安がわかる仕組みになっています。ビーズが浮いた場合は「良好な濃さ~濃いめ」で、沈んだ場合は「薄め」を示します。

 実際に、うちの動物病院で暮らす猫のおしっこを調べてみたら、ビーズが浮いて「良好~濃いめ」という結果でした。その直後に、同じおしっこを診察で使う尿比重計でも測定してみました。すると、「1.050以上」という数値で、かなり濃い状態であることがわかりました。自宅でこういうチェックができるのは、すごく画期的だと思います。

おしっこの中でビーズが浮いた場合は「良好な濃さ~濃いめ」(写真左)。一方、水道水で試してみると、ビーズは底に沈んだ

 腎臓病を高齢猫の病気だと思っている飼い主さんも多いのですが、15歳でも腎臓の数値に異常のない猫もいれば、5~6歳で異常が見つかる猫もいます。食事などの環境が影響している場合もありますが、そうでない場合もあります。「若いから大丈夫」と安心するのではなく、若いうちから定期的に検査を続け、早期発見につなげて欲しいと考えています。

自宅では猫2匹、犬4匹と暮らす上條先生。写真は動物病院で保護した猫と

上條圭司獣医師
ゼファー動物病院院長。一般社団法人「Team HOPE」代表理事として、ペットの予防医療の大切さ、日ごろの健康管理や病気の早期発見・早期治療の重要性についての情報発信を行っている。
油科真弓
信州の山里で動物が身近にいる環境に育つ。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライター兼編集者に。雑誌や書籍、企業広報誌、ネットなどで編集・執筆を行う。猫と着物が好き。20年以上を共にした猫3匹を看取り、現在は保護猫3匹と生活中。人慣れいまいちの2匹を抱っこすることが、今の夢。

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