犬が震える理由は?(提供:gettyimages)
犬が震える理由は?(提供:gettyimages)

犬が震える原因は健康と病気の場合がある! 飼い主が出来る対処法を紹介

目次
  1. 犬が震える原因【健康な場合に考えられること】
  2. 犬が震える原因【病気の場合に考えられる症状】
  3. 犬が震える原因が病気の場合はすぐに病院へ
  4. 犬が震える原因が病気で起こる前にできる予防策
  5. 犬が震える原因が病気か見極めることは難しい?

 愛犬が急に震えだしたら、病気かしら?と心配になってしまいますよね。犬が震える原因はいくつかありますが、健康でも起こりうる生理的な場合と、病気が関与している場合が考えられます。今回は、犬の震えの原因として考えられる理由と、飼い主ができる対処法についてお話していきたいと思います。

監修:石村 拓也
シリウス犬猫病院院長、獣医師。東京農工大学農学部獣医学科卒業。横浜市の動物病院にて研鑽を積み、2017年3月にシリウス犬猫病院を開院。皮膚や耳の症例に精通している。川崎市獣医師会、日本獣医皮膚科学会、耳研究会、日本獣医輸血研究会所属。シリウス犬猫病院

 震えは「振戦(しんせん)」ともいい、リズミカルにみられる反復的な筋肉の収縮をさします。実は震えは、普段から目に見えない形で存在しています。この見えない震えが何らかの原因によって増強されると、飼い主から見てもわかる「震え」として認識されるのです。これを「生理的な震え」といいます。

 生理的な震えは、主に寒さ・興奮・恐怖・不安・興奮・虚弱などによって生じることが多いです。まずは健康な場合でも起こりうる、生理的な震えから詳しくお話していきたいと思います。

犬が震える原因1 寒くて小刻みに震える

[犬が寒くて震えている時の対処法]

 犬が寒さを感じた場合、体の熱を保とうとして、全身の筋肉が小刻みに震えます。これは筋肉が細かく動くことによって熱を発生させ体温を維持しようとする生理的な現象です。

 体温調節が苦手な子犬や高齢犬、チワワやトイプードルなどの小型犬などは寒い時期のお散歩や室温には気をつけましょう。急に寒い戸外に出るのではなく、散歩前に軽くマッサージやストレッチなどを行ったり、暖かい洋服を着せるなどして軽く体を温めてから出かけるといいですね。

 室内は暖房器具などでうまく温度管理を行い、快適な室内を保ちましょう。電気ヒーターやマットをうまく使うのもひとつです。ただ、コンセントやコードをかじって感電事故を起こすこともあるので気をつけましょう。使い捨てカイロは破ってしまうことで誤食事故につながる可能性もあるのでやめましょう。

 寒さによる震えは生理的な反応ですが、実はその影に、体温調節がうまくできなくなるような病気(甲状腺機能低下症など)が隠れている場合もあるので注意が必要です。

体温調節が苦手な子犬や高齢犬、チワワやトイプードルなどの小型犬などは寒い時期のお散歩や室温には気をつけよう(提供:gettyimages)

犬が震える原因2 怖い・不安・ストレス

[犬が恐怖・不安・ストレスで震えている時の対処法]

 犬は恐怖や不安、緊張、ストレスなどを感じると、自律神経系のバランスが崩れて震えが生じることがあります。どの年齢やどの犬種でも起こりえますが、遺伝的に不安傾向の強い犬種も存在します。

 まずは震えが起こった際、特定の環境や状況によって誘発されるようなものなのかを確認しましょう(例えば、動物病院の診察台に乗った時、雷や花火など大きな音がする時など)。

 この場合の震えは、行動学的な対策やトレーニングを行うと改善がみられる場合があります。動物病院へ行かないようにするのはなかなか難しいと思うので、注射などの嫌なことをしない日に動物病院へ行き、好きなおやつをもらうことを繰り返します。これにより病院の嫌なイメージを変更する、という行動修正を行います。

 雷や花火、工事の音などの環境の問題で震えが出る場合は、環境の改善を行いましょう。ケージの位置を変えたり、音の聞こえにくい場所に寝床を置くなど、不安を感じにくいような環境設定が重要です。また、普段から不安や恐怖を引き起こさないように、体罰や叱責(しっせき)を含め、不安感が増すような行為はやめましょう。

 不安な状態になったときに安心できる場所へ誘導できるよう、クレートトレーニングなどを行っておくこともおすすめです。

 震えの症状だけでなく食欲低下、下痢・嘔吐(おうと)など体調面に影響が出る場合には、心を落ち着かせるようなお薬を使うことがあります。その場合は動物病院に相談しましょう。

安心できる場所をつくるのは大切(提供:gettyimages)

犬が震える原因3 うれしい・興奮

[犬がうれしくて興奮して震えている時の対処法]

 恐怖や不安などのネガティブな感情だけでなく、犬は「楽しい」「うれしい」などのポジティブ感情が高まった場合でも、自律神経が乱れや震えが起きる場合があります。

 興奮時は飼い主の声が届きにくくなり、事故に遭いやすくなったり、過度の興奮により攻撃行動にでることもあるので気をつけましょう。

 興奮した犬を落ち着かせるのは、なかなか難しいもの。まずは、「興奮させない」ことが大切です。日頃から愛犬がどんなタイミングで興奮するのかを把握し、対策を行いましょう。

ポジティブ感情が高まった場合でも、自律神経が乱れや震えが起きる場合がある(提供:gettyimages)

犬が震える原因4 老犬で脚の筋力低下のため

[犬の脚の筋力低下で震えている時の対処法]

 高齢になると、筋肉量はだんだんと低下していきますね。それにより後ろ脚の踏ん張りが効かなくなり、立ち上がったり、しゃがもうとする際などに足腰がプルプル震えることがあります。これは筋肉量の低下・筋の虚弱による震えです。

 高齢犬になると、ある程度の筋肉量の低下は仕方がないことです。なるべく若いうちからしっかりと運動し、あらかじめ筋力をつけておくのは大事です。また、高齢の場合、過度な運動は足腰や関節に負担がかかるので、無理しない範囲でお散歩するなどして筋肉量を維持できるといいですね。

 おうちでは滑り止めなどを利用して、脚が踏ん張りやすく、歩きやすいような環境作りをしてあげましょう。肉球は滑り止めの役割をしているので、足裏の毛が伸びているならカットし、肉球の保湿も行っておきましょう。

足裏の毛が伸びているならカットし、肉球の保湿もしよう(提供:gettyimages)

 そもそも「震える」という場合、振戦(しんせん)もけいれんも同じようにとらえがちですが、実は違いがあります。

  • 振戦=リズミカルにみられる反復的な筋収縮。
  • けいれん=筋肉が急激に不随意に収縮し、硬直することもある。振戦よりもより複雑な筋収縮。

 ただ実際のところ、振戦とけいれんの区別がつきにくい場合も多いです。判断に迷ったら、震えの様子を動画で撮っておき、獣医師に相談するといいでしょう。

代謝異常

 病気の場合に考えられる症状として、腎機能異常、肝機能異常、電解質異常、低血糖、高アンモニア血症、低カルシウム血症、低リン血症など代謝性疾患によるものが考えられます。

・急性腎不全や慢性腎不全(症状:食欲低下、嘔吐など)

 腎臓は、血液を濾過(ろか)し、余分な水分や老廃物などを尿として体外へ排出する機能を担っています。腎臓の機能が低下すると、排出されるはずの老廃物が犬の体内に蓄積されて血中の老廃物濃度が高まります。老廃物や毒素が体内に蓄積し、様々な障害を生じる状態を尿毒症といい、深刻な全身症状をもたらします。

尿毒症の原因として

  • 急性腎不全
  • 慢性腎不全
  • 中毒

などがあげられます。

 震え以外の症状として、食欲低下、元気消失、口臭、脱水、嘔吐・下痢などが見られる事多いです。

・肝機能不全(症状:よだれ、震え、沈鬱(ちんうつ)など)

 肝臓機能低下や門脈体循環シャントなどにより肝性脳症が生じ、震えが起きることもあります。

 肝性脳症とは、本来肝臓で解毒されるはずのアンモニアなどの体内代謝物や毒性物質が、肝臓でうまく解毒されないために全身を循環してしまい、脳へ影響を与え、神経系等に障害をきたす症状を言います。

 震えの他に嘔吐、よだれ、ふらつき、元気消失、徘徊行動、旋回行動、昏睡(こんすい)や意識障害などがみられます。

・低血糖(症状:元気がなく、ふらふら、ぐったりするなど)

 低血糖症とは、血液中の糖分濃度が著しく下がってしまう状態です。震えの他、ふらつくき、ぐったりする、嘔吐などの症状が見られることが多いです。

原因としては、

  • 子犬の長時間の空腹
  • 糖尿病患者に対してインスリンの過剰投与
  • キシリトール誤食による低血糖症状
  • インスリノーマなどのインスリン産生腫瘍(しゅよう)
  • 肝機能低下による糖の産生低下
  • 副腎皮質機能低下症などのホルモン疾患

などが考えられます。

 子犬の場合、まだ体が小さいので糖分を肝臓にためる能力が発達していないことが原因で起こります。空腹時間が長くならないように、1日の食事回数を3〜4回にするなどの工夫をしましょう。

 低血糖症状になった場合は、足りない糖分を補充する治療を行います。動物病院では、血液中に直接糖分を注射します。自宅でできる応急処置として、砂糖水やガムシロップ、ブドウ糖などの糖分をなめさせたり、歯茎に塗りつけたりなどの処置を行います。その後すぐに動物病院を受診しましょう。

・低カルシウム血症

 血中のカルシウム値が低値になると、神経や筋の興奮の異常が生じ、震えなどの症状が見られる事があります。低カルシウム血症の震え以外の症状としては、神経過敏、ぐったりする、嘔吐などの消化器症状が見られることもあります。

原因としては

  • 上皮小体機能低下症などのホルモン疾患
  • エチレングリコール中毒
  • 出産による乳汁への過度のカルシウム移動

などが考えられます。

震え以外の症状もあったら要注意(提供:gettyimages)

2 中毒

 体にとって毒性のある物質や犬が食べてはいけないものを食べてしまうことで生じる有害作用を「中毒」といいます。これらの中毒によって、先述した尿毒症や肝性脳症、低血糖などの状態になると、震えの症状が見られることがあります。

 誤食による震えの可能性がある場合、ただちに病院を受診する必要があります。

〈犬に震えを起こす可能性のある物質〉

  • チョコレート
  • キシリトール
  • キシリトール
  • カフェイン
  • ニコチン
  • マカデミアナッツ
  • 消炎鎮痛薬(人の痛み止めや解熱剤など)
  • 殺虫剤

など

犬に震えを起こす可能性のある食べ物は与えない(提供:gettyimages)

3 脳・神経疾患

 てんかんや水頭症、脳炎など中枢神経系の疾患により震えなどの神経症状が見られる事があります。

・てんかん(症状:震え、けいれんなど)

 てんかんとは、2回以上反復的に起こるけいれん発作をさし、MRIや脳脊髄(せきずい)液の検査などで原因となる異常が認められない場合を「特発性てんかん」と呼びます。特発性てんかんの原因はわかっていませんが、遺伝的な関与が強く疑われています。けいれん発作時以外は正常であることもひとつの特徴です。

 発作のタイプで最も多いのは全身がピーンと伸びて、足や口を細かくガタガタと震わせる強直性けいれんです。その他にも、脳の一部分が興奮することによって起こる焦点性発作(部分発作)というものもあります。焦点性発作では、全身ではなく体の一部分だけがけいれんを起こしたり、流涎(りゅうぜん)、チックなどが見られる事があります。

・水頭症(症状:ふらつき、旋回運動、てんかん様発作など)

 水頭症は、脳室と呼ばれるスペースに過剰な液体(脳脊髄液)が貯留し、脳に異常な圧がかかってしまう病気です。生まれつきの場合(先天性)と、なんらかの病気が原因でおこる場合(後天性・二次性)があります。先天性の場合は、チワワなどの小型犬に多く見られます。

 症状は程度によって様々です。ぼーっとしている、元気がない、寝ている時間が多くなるなどの症状が一般的で、進行すると震えやけいれん、歩行障害などが出てきます。

・脳炎(症状:運動失調、ふらつきなど)

 脳炎にはさまざまな原因があり、犬ジステンパーウイルスによる感染性脳炎や、パグなどの犬種で見られることの多い壊死(えし)性脳炎(別名:パグ脳炎)、肉芽腫性髄膜脳炎などが挙げられます。

 これらの脳炎によって震えや運動失調、ふらつきなどの症状が見られる事があります。

・小脳疾患

 小脳は四肢の協調運動、姿勢保持、歩行調節、平衡感覚の調節などの中枢を担っています。小脳の機能異常などにより、震えや運動失調、ふらつき、発作などが生じる事があります。

犬種によってかかりやすい疾患があるので、愛犬の特性を知っておくことがおすすめ(提供:gettyimages)

4 痛みによるもの

 痛みにより震えの症状が見られる事があります。

・椎間板(ついかんばん)ヘルニア(症状:動かない、触ると嫌がるなど)

 犬でよく見られる病気のひとつに、椎間板ヘルニアがあります。椎間板ヘルニアは、脊椎(せきつい)の椎骨(ついこう)の間にある椎間板というクッションが飛び出して、脊髄(せきずい)という神経を圧迫し、神経に異常を生じる病気です。

 症状はグレードによって様々ですが、痛みや違和感、震え、歩きたがらないなどの症状が見られます。神経まひの程度が進行するとふらついて歩けない、脚を動かせない、排尿障害なども見られる事が多いです。

・膵炎(すいえん)

 膵炎は、膵臓(すいぞう)自ら作り出す膵液が、何らかの原因で活性化することによって、膵臓自体が強い炎症を起こす病気です。

 膵炎の症状は嘔吐や下痢、脱水、食欲不振、腹部痛などが挙げられます。症状は程度によって様々ですが、重症化するとショックや呼吸困難、凝固障害を引き起こし命に関わることもある怖い病気です。

 膵炎による腹部痛により、震えや触られるのを嫌がったりするなどの症状が見られることがあります。

痛みによる震えもある(提供:gettyimages)

5 筋肉の異常

・筋ジストロフィー

 遺伝性の疾患で、筋力低下や筋萎縮、易疲労性が見られる病気です。筋肉の病気なので、運動や歩行能力の低下が見られます。咀嚼(そしゃく)や嚥下(えんか)困難、流涎や開口困難を認めることも多いです。

・筋炎

 筋肉に炎症が見られる病気です。骨格筋に対する自己免疫疾患と考えられています。全身の筋肉の虚脱や筋萎縮が生じ、起立時などで震えが見られる事が多いです。

・特発性振戦症候群

 全身性に細かな震えを引き起こす病気です。若齢の小型犬に発症が多く、特にミニチュア・ピンシャーが好発します。以前は白い毛の犬に好発すると考えられていましたが(ホワイト・ドッグ・シェイカー・シンドローム)、実際には他の毛色でも発症します。病態はまだわかっていない事が多い病気です。

 犬が震えている原因は様々です。病気が原因の震えの場合、命に関わることがあるので早めの動物病院受診がおすすめです。

 先述した生理的な震えを引き起こす要因に思い当たることがなかったり、震えの他にも元気・食欲の低下、下痢や嘔吐などの別の症状もあるようでしたら、早めに受診しましょう。

震えの他に元気・食欲の低下、下痢や嘔吐などの症状があったら早めに動物病院へ(提供:gettyimages)

定期的な健康診断

 慢性腎不全や肝機能不全などは定期的な健康診断で、あらかじめ発見・治療できる場合があります。高齢犬になったら年に2回は健康診断をおすすめします。

誤飲・誤食の防止

 中毒を予防するために、人が飲んでいる薬の誤食や虫や殺虫剤、犬にとって有毒な植物や食べ物に十分に注意することが大切です。床はもちろんのこと、届く可能性のあるテーブルの上やごみ箱などにも危険なものを置かないようにしましょう。

 人が留守にしている時間や食事の時間には、ケージに入れてあげると安全です。

環境の改善

 椎間板ヘルニアは、フローリングで滑ったり、ソファなどの段差から飛び降りたりすることで発症することもあります。段差には気を付けて、家には滑り止めを敷き、爪や足裏の毛をカットして滑らない工夫をしてあげましょう。肥満は腰に負担がかかるため、体重管理も重要な予防のひとつです。

フローリングは愛犬が滑らないように工夫を(提供:gettyimages)

「震え」の原因は様々です。どれが原因かを瞬時に見分けるのはなかなか難しいでしょう。いつも通りに過ごしてるにもかかわらず、ふとした時に震え出したら注意してよく様子を見てあげてください。

 愛犬の震えが生理的な要因からくる震えなのか、病気からくる震えなのか日頃から様子をよく観察し、異変を感じたらすぐに病院を受診しましょう。

石村拓也
獣医師。東京農工大学農学部獣医学科卒業。横浜市内の動物病院などを経て、2017年3月にシリウス犬猫病院開院。川崎市獣医師会、日本獣医皮膚科学会、耳研究会、日本獣医輸血研究会所属。

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