歯みがきトイや歯みがきガムが逆効果になる可能性も!?(getty images)
歯みがきトイや歯みがきガムが逆効果になる可能性も!?(getty images)

歯がかける・すり減ると細菌感染する原因に 歯みがきトイやガムは正しく用いる

 犬に歯みがき効果があるとして、おもちゃやガムなど、さまざまなアイテムが売られています。これらは歯ブラシでの歯みがきの代わりになるのでしょうか? また、硬いものを噛ませると歯がかけたりすり減ったりするともいいます。歯みがきトイや歯みがきガムを与えるときの注意点を、花小金井動物病院の林一彦先生に聞きました。

歯みがきトイや歯みがきガムで犬の歯はきれいになる?

 犬に歯みがき効果があるされるおもちゃやガムは、一般的な犬用のおもちゃやおやつとしての効果はありますが、与えれば歯みがきをしなくていいということはありません。歯みがきには、人間と同様、歯ブラシを使うのがベストです。

 また、それぞれのおもちゃやおやつには、与えるときに注意したいポイントがあります。

ロープトイ

 引っ張りっこにも使えるロープ状の歯みがきトイは、歯の表面についた歯垢は多少取れるかもしれませんが、肝心な歯と歯ぐきの間に入った歯垢は取れません。愛犬にロープトイを与えるとしても、並行して歯みがきを行う必要があります。

トレーニングでもよく取り入れられる引っ張りっこだが、やりすぎには注意(getty images)

 犬は噛む力が強く、特に強いジャーマン・シェパードの噛む力は500kgとも言われています。ロープトイでの引っ張りっこが原因で歯が折れることもあるので、激しく引っ張りっこしすぎないよう気をつけましょう。

プラスチック製の歯みがきトイ

 凹凸のあるプラスチック製の歯みがきトイは、歯みがき効果や歯ぐきのマッサージ効果をうたっていることがあります。これらも、歯の表面についた歯垢は多少取れますが、歯と歯ぐきの間に入った歯垢までは取れません。並行して歯みがきを行いましょう。

歯みがきガム

 犬にガジガジ噛ませて歯垢を落とす、歯みがきガム。犬の歯は樽状の形をしているので、柔らかいものであれば歯の表面についた歯垢は多少取れるかもしれませんが、歯と歯ぐきの間に入った歯垢は取れません。

 犬に歯みがきガムを与える場合は、大きいまま丸呑みしないよう、愛犬に与えている間は目を離さないようにしましょう。手で曲げられないほど硬いガムは、歯が折れたりかけたりする危険性があります。

牛皮ガム

 犬用のおやつとして、牛の皮を成形・乾燥させた牛皮ガムが売られています。これも樽上の歯の表面の歯垢しか取れません。

牛皮ガムは大きいまま飲み込まないよう、飼い主が手に持って与えるなどの注意が必要(getty images)

 犬に牛皮ガムを与える場合は、大きいまま丸呑みすると消化管に詰まることがあるので、目を離さないよう注意しましょう。

鹿の角

 犬用のおもちゃとして本物の鹿の角が売られています。鹿の角は硬いので、かじることで唾液がたくさん出る効果は期待できますが、歯垢や歯石を取る効果はほとんどありません。また、歯が折れたりかけたりすり減ったりする危険性もあるので、注意しましょう。

鹿の角は大好きな犬も多い(getty images)

豚や牛のヒヅメ

 犬用のおやつとして、豚や牛のヒヅメもよく見かけます。これらは非常に硬く、歯が折れたりかけたりすり減ったりする危険性が高いです。

歯が折れたりかけたりする原因になりやすいヒヅメ(getty images)

 ところで、犬は噛まないので歯がなくなっても大丈夫と言う人もいますが、歯が折れたりかけたりすり減ったりしても問題ないのでしょうか?

犬の歯が折れたりかけたりすり減ったりすると、どうなる?

 犬に手で曲げられないほど硬いおもちゃやおやつを与えると、歯が折れたりかけたりする危険性があるので、注意が必要です。ただ、愛犬の歯が折れたりかけたりしていても、飼い主は気づかないことも多いです。

歯が折れると歯髄が細菌感染したり、歯ぐきや頬に穴が空いたりすることもある

 犬の歯が折れたりかけたりすり減ったりしているのを放置すると、歯の中心にある歯髄(しずい)に細菌が入り込み、炎症を起こす歯髄炎や、もっと進行すると、歯の根元にたまった膿を外に出すための穴が口の中や皮膚に空く内歯瘻(ないしろう)・外歯瘻(がいしろう)になることもあります。

歯がかけて、露出した象牙質の表面に歯垢がたくさん付着している(青矢印)。歯ぐきの赤くなっている部分には歯肉炎が起こっている(黄矢印)(出典:林一彦、林道子 著『犬の歯みがき読本』山水書房刊)

 折れたりかけたりすり減ったりした歯の部分から赤っぽい歯髄が見えている場合は、そこから細菌感染をしてしまう危険性があるので、できるだけ早く処置する必要があります。

犬の歯が折れてもできるだけ抜かないほうがいい

 犬の歯が折れたりかけたりすると、動物病院で抜歯をすすめられることが多いです。もちろん、どうしても抜歯をしなければいけないこともありますが、人間の歯科治療同様、抜歯は最終手段です。

 抜歯をすると、歯ぐきとあごの骨が縮み、あごが歪んでしまいます。また、噛み合わせが悪くなることで食べづらくなったり、口が閉まらず口の中が乾燥しやすくなって、口内環境が悪化したりすることもあります。

 安易に抜歯せず、できるだけ歯を残せるよう治療をしてくれる獣医師を選ぶといいでしょう。

犬の歯が折れたりかけたりしているときのサイン

 犬の歯が折れたりかけたりしても、犬は明らかに痛がるそぶりを見せないこともあります。口のまわりを触られるのを嫌がるようになったり、歯みがきをいつもより嫌がったり、目の下が腫れていたりする場合は、歯に異常がないかを確認しましょう。

折れやすい歯は特に注意して確認しよう(撮影:岡崎健志)

 犬の歯の中で特に折れやすいのは、いちばん大きい奥歯「裂肉歯(れつにくし)」や、とがっている「犬歯」。愛犬の歯みがきをするときにあわせてチェックしてください。

歯みがきと歯のチェックを毎日の習慣に!

 犬用のおもちゃやおやつに「歯みがき効果」が書かれていると、ついそれを選びたくなります。しかし、これらは歯周病の原因になる、歯と歯ぐきの間の歯垢までは取れません。おもちゃやおやつを与えるだけで、歯みがきをしなくていいということはないので、並行して歯ブラシでの歯みがきも行いましょう。

 手で曲げられないほど硬いおもちゃやおやつを与えると、歯が折れたりかけたりすり減ったりする危険性があるので、注意が必要です。その結果、歯髄が細菌感染したり、歯ぐきや頬に穴が開いたりすることもあるので、毎日の歯みがきのときに歯をチェックすることも習慣づけましょう。

[監修]獣医師 林一彦
はやしかずひこ 歯学博士。『動物歯科クリニック 花小金井動物病院』歯科診療責任者。日本大学獣医学研究科修士課程修了後、同大学松戸歯学部病理学教室専任講師、英国ブリストル大学歯学部での客員講師、日本大学松戸歯学部社会歯科学講座教授を経て、2013年、動物歯科クリニック花小金井動物病院を開院し、無麻酔での歯石取りや極力抜歯しない治療を行う。著書に『歯をめぐる生物学~動物とヒトの歯~』(アドスリー刊)などがある。

山賀沙耶
フリーランス編集ライター。北海道大学文学部卒業後、編集プロダクション、出版社勤務を経て、独立。現在は雑誌や書籍、ウェブメディアを中心に、犬やアウトドアなど幅広い分野で活動中。犬メディアとのかかわりは、約20年前の編集プロダクション時代から。プライベートでは、2頭の雑種犬と外遊びを楽しむのが至福の時。

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