歯周病予防には毎日の歯みがき(プラーク・コントロール)が欠かせない(撮影:岡崎健志)
歯周病予防には毎日の歯みがき(プラーク・コントロール)が欠かせない(撮影:岡崎健志)

【獣医師監修】犬の歯みがきの手順と方法 大切なのは「歯肉縁下」の掃除

 犬の歯周病を予防するには、歯周病の原因となる歯垢(しこう)を除去するための、毎日の歯みがきが欠かせません。しかし同時に、愛犬が嫌がるなどうまくできないことが多いのも犬の歯みがきです。

 でも実は、犬の歯みがきは人間の幼児のように仰向けにさせて口を大きく開かせる必要は必ずしもありません。そしてかける時間の目安は、歯1本あたりたったの1秒。犬の永久歯は全部で42本ですから、全体で1分もかけずに済ませられるのです。

 簡単かつ正しい方法を知って、さっそく今日から歯みがきの習慣をつけていきましょう。

とっても大事!適した歯ブラシを使う

 犬の虫歯はまれであり、歯みがきは主に歯周病を防ぐために行います。そのため歯みがきで大切なことは、歯そのものより歯と歯ぐきの間の「歯肉縁下(しにくえんか)」をきれいに保つことです。歯みがきガムや歯みがきシートでは歯と歯の間や歯肉縁下の掃除は難しいため、人間同様、犬の歯みがきにも必ず歯ブラシを使うようにします。

 歯の隙間までしっかり毛先が届き、同時に歯や歯ぐきを傷めることがないよう、歯ブラシは毛量が多く高密度で、柔らかいものを選ぶことが大切です。また、刷掃面の面積が大きい歯ブラシを選ぶと、軽く当てるだけでも必要な部分を広範囲にみがける可能性が高くなります。

歯ブラシでみがくことが大事。おすすめはTePe社のデリケートな人用歯ブラシ「TePeスペシャルケア™」(撮影:岡崎健志)

 おすすめは、スウェーデン企業TePe社の、デリケートな人用歯ブラシ「TePeスペシャルケア™」です。面積も広く、毛量も豊富。触れると驚くほどの柔らかさを実感します。ヘッドの先が細くなっているので、口の奥にも入れやすいです。

 ヘッドが360度ブラシで覆われているものなど形状に工夫を凝らした歯ブラシも多くありますが、球体の接着面が小さいことからもわかる通り、みがきもれがおきやすいのでおすすめできません。

犬の歯みがきの手順と方法

 時間の目安は1分以内。スピーディーに終わらせるための目安ではなく、正しい方法で慣れていくことができれば、その時間で十分きれいにできるのです。

歯ブラシとグラス一杯の水を用意

歯ブラシに、グラスの中の水をたっぷりつける(撮影:岡崎健志)

 歯ブラシとグラス一杯の水を用意します。歯みがき粉のようなものは、歯みがきで歯周病を予防するという観点からは、特に必要ありません。歯ブラシ自体に慣れていない犬には、最初はフレーバーのついた歯みがき粉を用いるのもいいでしょう。愛犬が歯ブラシをなめたらほめることを繰りかえし、歯ブラシに対していい印象を持たせてあげましょう。

犬が落ち着ける姿勢で軽く保定する

歯みがきは、犬がおすわりや立った状態でも大丈夫(撮影:岡崎健志)

 おすわりなど、犬が落ち着きやすい姿勢で行いましょう。無理に仰向けにする必要はありません。また犬が歯をみがかれるのを避けて後ずさりしてしまう場合は、壁などにお尻をつけさせるといいです。歯みがきが終わったら、しっかり褒めてあげることも大切です。

前臼歯と後臼歯の「外側」をみがく

 犬歯から奥に向かって並ぶ歯が前臼歯と後臼歯です。

 犬の口は閉じさせた状態のまま、ヘッドがそれ以上入らないところまで優しく差し込みます。ブラシを歯ぐきと歯の間に垂直になるようにあてながら、小刻みに動かしながら手前に向かってみがいていきます。

 右上、右下、左上、左下の4回で前臼歯と後臼歯の外側をみがき上げます。

それ以上入らなくなるところまで、歯ブラシを優しく差し込む(撮影:岡崎健志)

前臼歯、後臼歯の「内側」をみがく

 歯の内側をみがくときは、歯ブラシが入る程度に犬に口を開けさせます。犬のノドにヘッドが当たらないよう注意しつつ、外側と同じ要領で、奥から手前に向かって小刻みに動かしながらみがいていきます。

 右上、右下、左上、左下の4回で前臼歯と後臼歯の内側をみがき上げます。

切り歯と犬歯のみがき方

 前に小さく並ぶ「切り歯」や鋭く大きな「犬歯」は、外側と内側に加えて「歯と歯の隙間」もみがいていくことを意識します。

 切り歯の外側は、歯と歯ぐきの間に歯ブラシを当て、歯の並びと平行にみがいていきます。内側はブラシを歯の並びに対して垂直(十字)になるように当て、みがいていきましょう。

 大きな犬歯は、みがきもれがおこりやすい場所でもあります。犬歯を囲む歯と歯ぐきの間をくまなくみがくようにしましょう。

歯そのものよりも、歯と歯ぐきの間、“歯肉縁下の掃除”を意識する(撮影:岡崎健志)

一度みがくごとにグラスの水で歯ブラシをゆすぐ

 ここまでの行程、一か所みがき終えるごとに、歯ブラシにグラスの水をたっぷりつけ直します。またグラスの水でゆすぐことで、歯みがきによって落ちた歯垢を目視でき、愛犬の歯の汚れ具合の確認にもなります。

白くにごるのが、歯みがきによってとれた歯垢。歯垢は水を飲むだけでは落とせないため、歯みがきが必須(撮影:岡崎健志)

特に注意してみがきたいのが「後臼歯」と上の「犬歯」

 食べ物を噛むときに使う「後臼歯」は使用頻度が高く、汚れやすい歯でもあります。後臼歯の歯周病が進行すると、犬は痛みから噛むことができなくなり、QOLが下がってしまいます。また、歯が大きく根も深いため、抜歯が非常に難しい歯でもあります(※基本的に抜歯は推奨されません)。意識的にみがき、きれいに保ちましょう。

指差し部分が後臼歯。食べ物を噛むための後臼歯は、使用頻度が高く汚れやすい(撮影:岡崎健志)

 また、上の「犬歯」は、歯の根が鼻腔付近まで延びています。口腔と鼻腔を隔てる骨が歯周病によって溶かされ、鼻と口が貫通して口内細菌が鼻腔に侵入してしまう口腔鼻腔瘻(こうくうびくうろう)は、起こりやすい病気です。シニア犬によく見られる頻繁な犬のくしゃみや鼻水などは、原因が歯周病にあることも。裏側の付け根部分もしっかりみがくようにしましょう。

力を入れず、優しくみがく

 犬が痛みを感じたり、歯や歯ぐきを傷めてしまったりすることもあるため、強くみがいてはいけません。歯垢の段階であれば、歯ブラシで優しくみがくだけで落とすことができます。毛が柔らかな歯ブラシを選び、力を入れずにみがいてあげましょう。

歯を健康に保つ最大にして唯一の方法が、歯みがき

 歯に歯垢がつくと、歯垢は24~72時間程で歯石になります。歯石は歯みがきではとることができず、また歯周病菌の温床となってしまいます。

 人間が毎日歯みがきをしていることからもわかるとおり、歯の健康を保つための唯一にして最大の方法が、歯ブラシを使った毎日の歯みがきなのです。1日に1分、今日からさっそく、歯みがきの習慣をつけていましょう。

[監修]獣医師 林一彦
はやしかずひこ 歯学博士。『動物歯科クリニック 花小金井動物病院』歯科診療責任者。日本大学獣医学研究科修士課程修了後、同大学松戸歯学部病理学教室専任講師、英国ブリストル大学歯学部での客員講師、日本大学松戸歯学部社会歯科学講座教授を経て、2013年、動物歯科クリニック花小金井動物病院を開院し、無麻酔での歯石取りや極力抜歯しない治療を行う。著書に『歯をめぐる生物学~動物とヒトの歯~』(アドスリー刊)などがある。

川本央子
フリーランス編集ライター。2005年、スクーバダイビング誌とリゾート誌を発刊する株式会社水中造形センター入社。国内外数多くの海と海辺の町を訪れ記事を制作。2010年に退社し、同年6月、趣味の雑誌を手がける株式会社枻出版社入社。犬と写真に始まり、さまざまなジャンルの雑誌・ムック本の企画制作を行う。レトリーバー犬種専門誌『RETRIEVER』、写真雑誌『写ガール』副編集長を経て、2021年独立。現在は雑誌とウェブを中心に企画・編集・執筆に携わりながら、育犬と子育てに奔走する。愛犬は、穏やかで賢く、でもちょっぴり不器用なイングリッシュ・コッカー・スパニエルの男の子「グレン」と、パッションを貫くミックス犬女子の「ピナ」

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