猫の言うこと聞いてみようよ 岩合光昭さんが語る猫ブームの背景
ただ可愛がるだけではなく、人々が本当の魅力に気が付いた──。動物写真家の岩合さんに、空前の猫ブームについて、聞きました。
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今の猫ブームの理由に、高齢化社会や住宅事情などが言われていますが、理由はそれだけでなく、人々が猫に対して目を向けるようになったんじゃないかと思うんです。つまりペットという、いわば「猫可愛がり」だけじゃない猫を見てくれるようになったということです。
ヨーロッパで猫ってペットじゃないんです。ヨーロッパはネズミに痛めつけられた歴史があって、その時に猫を連れてきて、すごく助けられました。だから今でも猫が邪魔にはならないし、いて当然なんですね。
猫に対する見方というのは個人個人で違うのは当たり前だと思っています。可愛いだけじゃない、いろんな猫の魅力を写真として引き出したい。ステレオタイプで「猫ってこう」ではなくなるのを望んでいます。猫ってこうって思いこむことではなくて、「猫の言うことも聞いてみようよ」ってことなんですけどね。
アメリカのフロリダで僕の写真集を持っている人がいたんです。「どうしてこの本を買ってくれたの?」って聞いたら、「これ、エブリデイキャット(どこにでもいる猫)だから」って。確かにそうだなって思いました。
猫との暮らし方 もっと寛容になれたら
その方は保護猫しか置いていないペットショップを経営されていて。保護せざるを得ない猫がたくさんいるでしょう。その猫の面倒をみたいというのがこのお店をはじめたきっかけだったそうです。ユニークですよね。
猫との暮らし方や共存を考えたとき、これはあくまでも個人的な意見になりますが、もっと寛容になれたらと思う。人の言うことをきかないのが猫なのだから、大目に見てあげてほしいなと。実際に庭におしっこされて困っている方もいるから、なかなか難しいことなのだけど。
猫の本ってたくさんあるけど、横顔の猫の表紙ってないと思います。猫と言えば正面顔が「ザ・猫」というイメージだから。僕の本で横顔の表紙は、過去に1冊だけ。『ちょっとネコぼけ』という本です。でもそれははなちょうちんがあるからなんです。はなちょうちんって、正面から見るより横からの方がよくわかるでしょ。
でも『カラー新版 ネコを撮る』の表紙は正真正銘の横顔なんですね。この写真、10年前だったら選ばなかったと思います。両目が見えないと猫っていう感じがしないということで。そういう認識でいくと横顔の猫が表紙になるなんて、画期的だと思います。実は、最初にこの写真を提案してくれたのは本のデザイナーさん。つまり猫に対しての考え方が世の中的にも変動しているということじゃないでしょうか。
猫に対する見方が急速に変化し、こういう横顔でも猫だと認識されて一般に通用するようになってきたのでしょう。そのうち後ろ姿の猫が表紙になったり、いや斜め後ろからが一番いいとか、この背中のシルエットじゃなきゃ、なんて日も来るかもしれませんね(笑)。
映画監督は「とにかく大変」
銀行関係とか不動産業界とか、意外な人に「あなたの番組を見ています」って言われます。猫に対しての話題が巷でされるというのはいいことですね、関心を持つということは、猫のことを考えるということになるので。猫のことを考えると猫の様相が動いていく。もっともっと動かないといけないと思っています。
世の中的には、あなたはこう言うけど私はこう思うっていうことがないと、一方向に進んでいってしまいます。猫に関してはメディアも多いですよね。そのおかげで僕に「ねことじいちゃん」(2019年2月公開)という映画の監督の話が回ってきたわけですけど。
最初、映画会社の方から「じいちゃん役どうですか」って言われたので、「役者じゃないから無理でしょ」って。「お芝居の話は冗談で、お願いしたいのは監督です」って言われました。映画が好きでこれまでもたくさんの映画を見てきましたが、映画監督はとにかく大変。もう二度とやりたくないなあ(笑)。
(構成 編集部・三島恵美子)
- いわごう・みつあき/1950年生まれ。動物写真家。写真集に『ネコへの恋文』『ネコおやぶん』など多数。NHK BSプレミアムで「岩合光昭の世界ネコ歩き」放送
- AERA増刊『NyAERA ネコの病気と老い』
- 猫の健康と医療を特集したNyAERA(ニャエラ)の第4弾。腎臓病やがんの早期発見、最新治療のほか、保険や防災グッズ、お墓など、猫との暮らすための情報を満載。好評発売中。
発行:朝日新聞出版/定価:780円(税込)/体裁:A4変判 84ページ
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