猫が神様になった「猫神神社」 ルーツは16世紀末の2匹の猫

猫神神社のほこらに向かってかしわ手を打つ参拝客
猫神神社のほこらに向かってかしわ手を打つ参拝客

 鹿児島市吉野町にある、薩摩藩主島津家の別邸「仙巌園」には、全国でも珍しい「猫神神社」と呼ばれる祠(ほこら)がある。神となってまつられた猫。その不思議なルーツをたどってみた。

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 同園に入り、桜島を一望できる庭園を抜けてしばらく歩くと、鳥居の向こうに小さな祠が見えた。

 今年の正月。飼い猫の健康や長寿を願う多くの参拝客が、黄色と白の2匹の猫が描かれた絵馬を次々とここに奉納していた。絵馬には、日本語のほか、英語や中国語、韓国語で、猫への愛情や、行方不明の猫が戻るように、などの願いが書き込まれていた。

 飼い猫の健康を祈ったという鹿児島県薩摩川内市の会社員、川向秀平さん(33)は、インターネットで猫神を知ったという。「猫の神様に大事な猫の長寿を祈りました」。山口県萩市から訪れた会社員松永裕美さん(33)は「飼い猫のけがが早く治るように」と話した。

猫の瞳で時間を知るため、出兵に7匹同伴

 猫があがめられるようになったいきさつには、こんな逸話が残る。

 明治~昭和を生きた島津家の30代当主忠重が、1950年代に出版した随筆「炉辺南国記」によれば、話は16世紀末の豊臣秀吉の朝鮮出兵にさかのぼる。

 忠重は随筆で、49(昭和24)年の南日本新聞の記事を引用しつつ、島津家17代当主の義弘が朝鮮出兵の際、猫7匹を連れて行ったと記す。猫の瞳の大きさが時間とともに変化することから、時刻を知るための同伴だったという。

 義弘の出兵には、子の久保(ひさやす)も同行した。7匹のうち5匹は戦地で死んだが、生還した2匹がまつられることになった。忠重は「黄白二色の波紋で、久保に愛せられ、この猫をヤスと命名していた」と記述する。

 出征中、久保は21歳で病死したが、愛した「黄白二色」の猫が後世、地元で「ヤス」と呼ばれるようになったのだという。同園によれば、「ヤス」はいわゆるトラ柄の猫をさす。

猫好きな外国人観光客の参拝増加

 祠近くには、時刻とともに変わる猫の瞳の様子を紹介するプレートもある。

 それによれば、猫の瞳孔は午前6時ごろが最も大きく、まん丸。日が昇るにつれ細くなり、正午ごろには「針のように細くなる」。午後になると太くなっていき、午後6時ごろには朝と同じようなまん丸に戻る。

 時を刻む猫にちなみ、かつては「時の記念日」の6月10日、各地の時計店店主らが数多く参拝していた。時計店の減少とともにその数は減ったが、近年は、猫好きな外国人観光客の参拝が増えたという。

飼い猫の長寿を願い、絵馬を奉納する参拝客
飼い猫の長寿を願い、絵馬を奉納する参拝客

 同園では、2(ニャン)が三つ並ぶ毎年2月22日の「猫の日」に「愛猫長寿祈願祭」を開いている。園はペットの持ち込みを禁じているため、飼い猫の写真や首輪を手に訪れる愛猫家でにぎわう。

 岩川拓夫学芸員は「島津家は、守護神として狐(きつね)をまつったり、戦国期の馬の墓を建てたり、動物を大事にする一族」と語る。朝鮮出兵に猫を同行させたことについて、「共に戦場を駆け抜ける仲間という意識があったはず。だからこそ、神としてまつったのだろう」とみる。

呼んでも近寄ってこない…薩摩の神は照れ屋?

 記者の職場の駐車場にも、時折、「ヤス」が現れる。暑い日は車の下の日陰に、寒い日は温かいボンネットの上で丸くなる。「おいで」と呼んでも近寄って来ない。こちらをじっと見つめるばかりだ。

 薩摩の神は、意外に照れ屋なのかもしれない。

 猫神と同様に、様々な神が各地でまつられている。

 福岡県嘉麻市大隈の「鮭神社」は、文字どおりサケをまつる。北部九州はサケの遡上(そじょう)の南限域とされ、海の神の使いがサケに姿を変えたと伝わるという。

 熊本県阿蘇市赤水の「赤水蛇石神社」の祭神は白蛇。古くから縁起のいい動物として知られ、宝くじの当選祈願や事業の成功を祈る参拝客に人気だ。

 佐賀市の「松原河童社(かわそうしゃ)」には、佐賀藩祖・鍋島直茂に捕らえられて改心したとされるカッパが、水難よけや安産、子どもの守り神としてまつられている。

(大崎浩義)

朝日新聞
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