犬猫殺処分ゼロ、どう継続 譲渡へボランティア懸命
犬は5年間、猫は4年間、「殺処分ゼロ」を達成している神奈川県。背景には、譲渡に協力しているボランティアの懸命な活動などがある。動物に癒やしを求めるペットブームの中、小さな命をどう守り、つないでいくのか。飼い主を待つ犬や猫が収容されている県動物保護センター(平塚市土屋)を訪ねた。
同センター地下室。鉄格子の部屋の中に、捨てられるなどした犬が入れられていた。近づくと、何かを訴えるように激しく鳴いた。
かつては5日間の収容期間が過ぎると殺処分されていたが、いまは譲渡があるまで収容する。炭酸ガスを用いた殺処分機は使われておらず、焼却炉もない。
2017年度、全国で殺処分された犬は8362匹、猫は3万4865匹。13年に施行された改正動物愛護法は「殺処分がなくなることを目指す」という目標を初めて盛り込み、多くの自治体が殺処分減少に向け本腰を入れ始めている。
そんな中、同センターでは犬は13年度から5年間、猫は14年度から4年間、殺処分ゼロを継続している。ピーク時の1973年度には、桁違いの1万8千匹超の犬が殺処分されていた。
同センター業務課長の上條光喜さんは「もともとは犬を処分する施設としてセンターが造られた。現在は収容数を減らし、譲渡することで何とか殺処分ゼロにしている」と話す。
2017年度、同センターで収容した犬は354匹、猫は442匹。このうちボランティアに譲渡された犬は127匹、猫は369匹だった。残りは飼い主の元に戻ったり、収容中に死んだりしたという。
収容数ギリギリ
犬や子猫は譲渡されやすい傾向だが、とくに成猫は引き取り手も少なく、同センターでは現在約100匹を収容。最近は増え過ぎて飼い主の手に負えなくなる「多頭飼育崩壊」も起き、収容数を多くしている。同センター室内には猫のケージがいくつも並び、「ギリギリの状況」と上條さん。
そんな中、殺処分ゼロに貢献しているのが、ボランティアの懸命な活動だ。県内57のボランティア団体が同センターに登録。収容された犬や猫を引き取り、各地で頻繁に譲渡会を開くなどして、1匹でも多く新しい飼い主を探す取り組みを続けている。
取材に訪れた日、ボランティア団体代表の女性が3匹の犬を引き取った。ポメラニアンやミニチュアダックスフントなど人気の犬種だ。女性は言った。
「譲渡しても次々に捨てられ、きりがない。飼い主が無責任で勝手すぎる。動物を捨てるなら飼うな、と声を大にして訴えたい」
県は現在、同センターを動物を「処分するための施設」から「生かすための施設」へ転換しようと、約11億円かけて建て替え工事を進めている。1972年にできた同センターは老朽化が著しく、殺処分機や焼却炉を置かない形で建て替える。動物愛護のイベントを開催するホールや、屋外で駆け回ることができるドッグランなどを整備。いまの施設に隣接する場所に、4月に開所する予定だ。
殺処分ゼロを継続するため、県は様々な取り組みに力を入れている。2018年度から「かながわペットのいのち基金」を新たに創設。けがをしていたり、病気にかかっていたりしてそのままの状態では譲渡が難しい犬や猫を、寄付を活用して治療を行うなどして、譲渡につなげていく。
また、同センターでも定期的に譲渡会を開催。「わん・にゃん教室」と題した講習会を受けた人に、動物を育てる場所などを記入する飼養環境事前確認書を提出してもらった上で、犬や猫を譲渡している。
最後まで飼育を
上條さんは「殺処分ゼロだからと、安易にセンターに持ち込むことがあってはならない。必ず最後まで飼うという、一人ひとりの意識と覚悟が大切」と語る。
ただ、県が宣言する殺処分ゼロは、独自の動物保護施設がある横浜、川崎、横須賀の3市と、相模原市、藤沢市、茅ケ崎市と寒川町を管轄区域外として除いた数値になっている。
横浜市動物愛護センターでは17年度、犬29匹、猫390匹を殺処分。横須賀市動物愛護センターでは17年度、犬1匹、猫3匹を殺処分した。このため、県全体のおおよその年間殺処分件数は犬が30匹、猫が400匹近くというのが実態だ。
一方、川崎市では市動物愛護センターで犬の殺処分ゼロを達成しており、猫も減らしている。保護施設がない相模原市は「動物愛護センター(仮称)」を整備する方針だ。収容された犬や猫の効率的な返還や譲渡を進める施設にする。
殺処分ゼロは今後も継続できるのだろうか。
公益財団法人「県動物愛護協会」代表の山田佐代子さんは「ペットショップなどが犬や猫の安易な販売をやめない限り、飼えなくなる飼い主はいつまでたってもなくならず、センターに引き取ってほしいということになる。そうした飼い主と動物を減らしていくことも重要」と話している。
(石平道典)
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