秋田犬人気、世界を駆ける 地元「将来はペットの聖地に…」
ここ数年、海外で「秋田犬(あきたいぬ)」の人気が高まっている。「発祥の地」の秋田県大館市では、周辺を訪れる外国人観光客も増えてきた。将来的には「ペットの聖地」に――。戌(いぬ)年を迎え、関係者の夢は膨らむ。
かつて午後7~9時は「戌の刻」と呼ばれていた。午後7時すぎ、群馬県高崎市の秋田犬専門のブリーダー、グレースガーデンの犬舎に山口修社長(63)が入ると、十数匹の子犬たちが一斉に鳴き始めた。
山口さんは20年ほど前から米国、ロシア、ウクライナなどに秋田犬を約200頭輸出してきた。昨年は12回、海外に渡航して秋田犬を送り出した。
秋田のマタギ犬がルーツとされ、飼い主に忠誠心が強いのが特徴だ。東京・渋谷駅前で上野英三郎博士を待っていた忠犬ハチ公も秋田犬だった。
海外での秋田犬の人気に火をつけたのは、日本映画の「ハチ公物語」を米国でリメイクした「HACHI 約束の犬」(2009年公開)だったという。「映画を見て『この犬がほしい』という人も多い。HACHIと名づける人もいます」と山口さん。
大館市に本部を置く秋田犬保存会によると、秋田犬だと証明する犬籍の年間登録数は、12年から海外での登録が増え始め、16年に初めて国内を上回った。
ペットブームに沸く中国では「投機目的で買う人も少なくない」といい、血統がない犬が秋田犬として売買されるトラブルもあるという。「今後は、種雄の登録やDNA型のチェックなど、科学的に管理する仕組みが必要になるでしょう」と山口さんは指摘する。
一方、国内ではブリーダーの減少と高齢化が悩みだったが、保存会の富樫安民副会長(73)は「最近、わずかながら国内登録数も増えてきた。海外での人気が波及することに期待したいですね」。
プログラマーで秋田犬のブリーダーをしているエンジェル・イタイさん(38)は3年前、イスラエルから大館市に移り住んだ。小さい頃から犬好き。長く飼っていたボーダーコリーの代わりの犬を探していて、18年前にインターネットで秋田犬を知った。そのたたずまいに「ビューティフル」とひかれたという。
現在、4匹の秋田犬を育てる。そのうちの1匹、ガッツは保存会主催の展覧会で2位になった。「毎日、秋田犬のことを勉強している。いい世話をすると、犬も元気になる」と話す。「秋田犬は海外でも有名になったので、メールで問い合わせがたくさん来る。できるだけサポートしたい」
■PR動画で観光客増
海外での秋田犬の人気を観光につなげようという動きも出てきた。
大館市など周辺4市町村は16年、秋田犬をキーワードに観光客を呼び込もうと、社団法人「秋田犬ツーリズム」を設立した。事務局によると、10年ごろから検索サイト・グーグルでは「秋田犬(akita inu)」の検索件数が急増し、「富士山(Mount Fuji)」を上回っているという。阿部拓巳専務理事は「地元にとって名物はきりたんぽや比内地鶏。秋田犬がこれほど人気になっているとは正直、驚いています」。
16年秋にはアイドルグループに見立てた秋田犬が踊る動画「Waiting4U(フォーユー)~モフモフさせてあげる~」をユーチューブで公開すると、10日間で100万アクセスを突破。こうしたPR作戦が功を奏し、4市町村の外国人宿泊数は16年に8239人(推計)と14年の倍近くに達した。
一方で課題も見えてきた。昨年夏にはJR大館駅に「秋田犬ふれあい処(どころ)」ができたものの、「ペットお断り」というホテルやレストランも多い。「動物愛護の問題やけがのリスクもあるが、もっとふれあえる場所が必要」と阿部専務理事は話す。
今年のえとは戌。「中国文化圏ではえとを大切にするので、どんな展開になるかワクワクしている。住民の間で秋田犬の聖地という意識を高め、将来的にはペットの聖地を目指したい」
(山下剛)
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