獣医師の数は飽和状態なのに…? 獣医学部を認可、揺らぐ根拠

(写真は本文と関係ありません)
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 安倍政権は、国家戦略特区で52年ぶりとなる獣医学部の新設を認めた。学部をつくるのは、安倍晋三首相の友人が理事長を務める学校法人・加計(かけ)学園。前川喜平・前文部科学事務次官は、新たに獣医師を養成する根拠が不十分なまま方針が決まり、「行政がゆがめられた」と証言する。獣医師は足りないのか。

 

 

■医師数、全体では飽和気味

 国会では、学部新設の「根拠」をめぐる論争が連日のように続いている。


「4条件を満たしていない」。7日の衆院農水委員会では、民進党の玉木雄一郎氏が根拠をめぐる政府の説明を批判した。


「4条件」は、安倍政権が2015年6月、獣医学部新設を検討すると表明した際に示した。獣医師が不足しているかどうか、獣医師が担う新たな仕事があるかどうかなど、獣医師養成の必要性が証明されれば学部新設を認めるというもの。政権が自ら置いた規制緩和の「ハードル」だ。


 獣医師全体でみれば、その数はむしろ飽和気味だ。獣医師免許を持つ人は14年末時点で約3万9千人。高齢になっても働き続ける獣医師が多く、10年前から約8千人増えた。


 これに対し、ペットや家畜の総数は減っている。牛と豚の飼養頭数は10年前に比べ約1割減。ペットも犬を中心に減少傾向だ。獣医師の就業先がペットの診療に偏る傾向も変わらない。東京都杉並区で開業する獣医師(37)は「同じ地域内にたくさんの動物病院があるのに新しく建つ。もう飽和状態」と悲鳴をあげる。


 農林水産省も「獣医師全体としては不足していない」という見解を今も変えておらず、学部新設の根拠にするには苦しい状況だ。


 そこで政府が根拠の一つに挙げるのが獣医師の「地域偏在」だ。地域により獣医師の偏りがあるため、家畜を診たり、公務員として感染症対策などを担ったりする獣医師の確保に苦労している地域があるという。


 獣医師不足の地域に学部をつくれば偏りは是正されるのか。全国家畜衛生職員会の調べだと、昨年4月時点で都道府県が採用を予定していた獣医師数計413人に対し、採用は223人。北海道内には獣医師を養成する大学が三つあるが、54人の採用予定に対し、採用は4人にとどまった。


 文部科学省によると、地方の獣医学部・学科の卒業生が地元の道や県に残る割合は平均で2割未満だ。


 獣医師が担う「新分野」も、政府が挙げる根拠の一つだ。山本幸三・地方創生相は「製薬企業などの会社に勤める獣医師がこの10年で5~6割増えた」ことを根拠の一つに挙げる。


 新薬の開発には動物実験が必要で、実験にたずさわる獣医師が必要になるというものだ。だが、国が製薬企業に勤める獣医師数を把握し始めたのは12年以降で、10年分のデータはない。朝日新聞が日本製薬工業協会に取材したところ、「獣医師は即戦力として期待できるが、いま、新たな需要が生まれているというわけではない」と答えた。


 動物実験をしている企業や大学では、「創薬分野でより専門性を持った獣医師は必要」(国立大学の研究者)との期待がある半面、「動物愛護団体の反対もあり、動物実験は少なくしようという傾向」(大手製薬企業)との声もあった。


(岡崎明子、太田匡彦)

 

■需要予測、各省示さず

 獣医学部新設に必要とされた需要見通しをめぐっては、関係各省の連携不足も浮き彫りになっている。


「設置認可には人材需要が明確に示されないといけないが、農水省も厚生労働省も示してくれなかった」。前川氏は先月25日の記者会見でこう語った。特区の制度設計を議論する国家戦略特区ワーキンググループ(WG)で、文科省は「(新設は)農水省の需要見通しに基づいて検討する」との立場をとり続けた。


 獣医師行政を所管する農水省は、WGで産業動物獣医師などの所管分野については「地域によって不足している」などと説明する一方、新薬開発など「新分野」での獣医師のニーズは所管外として需要見通しを示すことはなかった。


 薬事行政を担当する厚労省。16年9月の分科会の議事要旨によると、内閣府で特区を担当する藤原豊審議官が「厚労省ともよく連携を図っていきたい」と語っている。だが、同省がWGや分科会に出席したことはなく、幹部は「昨年秋に内閣府から出席の打診はあったが、理由を尋ねても明快な回答がなかった」と説明。「獣医師の需給を聞かれても『農水省でしょ』と答えたと思う」と話す。


 農水、厚労両省の幹部は、内閣府から需要見通しを示すよう求められたことはない、とも話す。農水省幹部は言う。「内閣府は需要見通しはどこも出せないと知っていたのではないか」


(河崎優子、東郷隆)

朝日新聞
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