「マチグヮー」で猫たどり ディープ沖縄で出会った奔放な猫たち

嘉数商会(那覇市牧志3-6-41)のキッチー
嘉数商会(那覇市牧志3-6-41)のキッチー

 沖縄の猫スポットといえば、“那覇の台所”の第一牧志公設市場周辺。夏の1日、迷路のように入り組んだ路地を歩き、「猫探索」にいそしんだ。

(末尾に写真特集があります)

 公設市場の原点は戦後の「闇市」。大半の土地が米軍用地として接収される中、生活物資を販売する露店が身を寄せ合うように集まった。市場や商店が密集するにぎわいの空間を、沖縄の人々は親しみを込めて「マチグヮー」と呼ぶ。

 マチグヮーの奥に進むにつれ、濃くなるのは心地よい気だるさだ。熟れた果実や色鮮やかな魚介、強い香辛料の匂いが鼻をくすぐり、「よそ行き」ではない三線の音色が耳に飛び込む。そんな界隈に溶け込むタオルギフト専門店「嘉数商会」の店先で、副店長のキッチー(14歳、オス)がお座りの姿勢で迎えてくれた。店主の嘉数信太郎さんが言う。

「おなかの脇にニコちゃんマークがあるでしょ。生まれつきです。奇跡の猫なんです」

王族風の高貴な猫を発見

 マチグヮーは近年、観光スポットにもなっているが、もともとは市民の生活エリアだ。ひっきりなしに訪れる地元の買い物客でにぎわう「奥間青果」は一目で繁盛店とわかる。

 店内の喧噪を尻目に、今帰仁村産のスイカの横ですやすや寝入っていたのが三毛のミー(1歳、メス)だ。看板猫担当の大嶺一機販売副部長によると、ミーの性格は「短気」なのだそう。スイカの皮はひんやりして気持ちよさそうだった。

奥間青果(那覇市樋川1-29-26)のミー
奥間青果(那覇市樋川1-29-26)のミー

「壺屋やちむん通り」にさしかかったとき、悠然と道路を横切る金色の毛並みの猫に目を奪われた。高貴な王族の風格が漂う。

 通りの歴史も琉球王朝時代にさかのぼる。1682年に尚貞王が3カ所に散らばっていた陶窯をこの地に集約した。

スプラウト(那覇市壺屋1-17-3)前にいた王族猫
スプラウト(那覇市壺屋1-17-3)前にいた王族猫

 王族をほうふつさせる猫は、「クラフトハウス スプラウト」の店先にいた。琉球石灰岩を敷き詰めた地面でくつろぐ姿が、ひときわゴージャス。同店の店主、宜保清美さんは「毛並みが豊かになる冬場は顔がふんわりして、もっと高貴な感じになりますよ」と教えてくれた。

猫を飼っていても「ワン」

「桜坂通り」に桜はほぼない。戦後100本の桜が植えられたのが通りの名の由来だが、ほとんど土地に根付かなかった。

 坂の途中にある小さな輸入ショップ「one」の軒先に猫が群がっていた。猫に手を差し伸べている女性に声をかけた。

「猫たどり(猫をたどって歩いている)してるんです」

one(那覇市牧志3-2-36)前で出会った屋宜茜さん
one(那覇市牧志3-2-36)前で出会った屋宜茜さん

 近隣町で雑貨店を営む屋宜茜さんは、猫探索が趣味という。「きょうは15分ぐらいで8匹撮影しました」。スマートフォンには、市場周辺の猫たちの奔放な姿が収められていた。

「ここの猫の魅力は自由さですね。可愛がってもらっているのがわかるので、うれしくなります」(屋宜さん)

「one」の女性店主に店名を確認すると、こう返した。

「セレクトショップ・ワンです。猫飼ってるけどワンですね」

 1日3回のエサやりの際、店先に来るのは主に5匹という。

 那覇で暮らしていた20年ほど前、筆者は桜坂の飲み屋によく通った。トタン屋根に板塀の小さな飲み屋。カウンターには、ラジオが1台置かれ、午前零時の開店から明け方までずっと、NHKの「ラジオ深夜便」が流れていた。明け方にぼんやりした頭で外に出ると、店先で猫たちとよく目が合った。

 あのときの猫の子孫もいるのだろうか。そう思うと、桜坂をいつまでも立ち去り難かった。
(編集部・渡辺豪 写真も)

猫も「命どぅ宝」 殺処分減へ取り組み

 沖縄県内の犬猫の殺処分数が近年、大幅に減少している。牽引役になっているのは、2013年度に中核市に移行した県都・那覇市だ。12年度に131匹だった犬の殺処分が、17年度は7匹と一ケタ台まで減少。一方、猫の殺処分は12年度の406匹から17年度は138匹に減少したものの、依然多数に上るのが実情だ。

「課題は猫です」

 そう強調するのは、昨年2月に超党派で結成した「那覇市動物愛護議員連盟」で事務局長を務める那覇市議の平良識子さんだ。

 猫の殺処分は、飼い主のいない子猫が対象になるケースが目立つという。この5年間で70匹を超える猫を個人的に預かり、譲渡先を開拓してきた平良さんは「市民への啓発が不可欠」と話す。

平良識子さん(右)と畑井モト子さん
平良識子さん(右)と畑井モト子さん

 行政も対策に乗り出している。那覇市は1416年度にかけて、飼い主のいない猫に不妊去勢手術を実施する事業(TNR)を、第一牧志公設市場周辺を含む観光エリアの約700匹に実施。17年度以降は同事業を市内全域に拡大し、殺処分を減らす取り組みを強化している。

 TNRの普及に欠かせないのが、動物愛護団体との連携だ。犬や猫の適正飼育の普及に努める「琉球わんにゃんゆいまーる」の畑井モト子代表は言う。

「那覇市の場合、私たち民間団体が平良さんら議員や行政関係者とつながり、普段から意見交換しています。こうした連携を県全体に広げることができれば」

 畑井さんらのグループで捕獲し、不妊去勢手術を実施した沖縄県内の猫はこの4年間で約1400匹に上る。前出の平良さんはこう言う。

「『命どぅ宝』(命こそ宝)と教えられてきた私たちの島で、動物の命が大切にされていないのは悲しいことです。殺処分の多さは、社会の人権感覚のレベルが問われる課題と捉え、今後も改善に取り組みたい」

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まるごと1冊「猫」を特集したAERA(朝日新聞出版)の増刊「NyAERA(ニャエラ)」から選りすぐった記事です。

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