風情あるお茶店の看板猫 最愛の「パパさん」を失い…
富山を代表する祭り「おわら風の盆」で知られる富山市八尾町。歴史ある街並みの中にある中国茶の専門店に、のんびりとお客を迎える看板猫がいる。その猫に会いに行ってみた。
(末尾に写真特集があります)
「この夏、夫を亡くしました。『ももちゃん』は、パパさんが大好きで、足音に気づくと迎えに出てニャゴニャゴ言って甘えていたのに、今はさみしそう……」
富山市八尾町にある中国茶の専門店「おおつか茶舗」の店主、大塚美眞子さん(63)は気丈に話す。今年8月に他界した夫の義寛さん(享年69歳)は、看板猫の「もも(メス)」を大切にしていた。今、美眞子さんと店番をしながら、「パパさん」を偲んでいる。
八尾町は毎年、9月1日から3日にかけて行われる「おわら風の盆」で知られる。胡弓が奏でる「越中おわら節」の哀感あふれる調べに合わせた艶やかな女踊りと、勇壮な男踊りが魅力だ。町の中央を貫く坂道に沿って歩くと、江戸時代のような街並みが並ぶ。店舗や一般家屋は、色や形が統一され、無電線化の整備も行なわれている。
その中にある町家づくりのおおつか茶舗も、古い街並みにとけ込んでいる。2017年のおわら風の盆の時期、店内は休憩所として開放された。茶器や茶箱などが並ぶ店内は、落ち着いた佇まいだ。
お茶を味わう客の横で、「もも」は眠っている。「ゆったりとした空間」を演出するのが、看板猫の役割である。ときどき、立ち上がって「出して、出して」とせがみ、通りを散歩することもある。
美眞子さんの長男・卓さんが「一番、しょぼい子を連れてきたよ」と言って、生後2カ月のメスの子猫を友人からもらってきたのは、5年前のことだ。美眞子さんの義父が亡くなり、高齢の義母・英子さんが日中ずっとひとりで過ごす様子を心配して、「おばあちゃんのそばに、猫でもいたらいいかもね……」と話していた矢先だった。
当初、英子さんは猫にどう接したらいいか分からなかったが、すぐに仲良くなった。「もも」は、足腰が弱った英子さんの足を優しくかんで「ニャー」と鳴き、「戸を開けてほしい」「かまってちょうだい」などと意思を伝える。英子さんは、「『ももちゃん』、分かったよ」と言って立ち上がり、家の中を動き回るので、いいリハビリになっているそうだ。
「『ももちゃん』が女の子だからでしょうか。男性に甘えるのです。若い男の子のお客さんが来ると、膝の上に乗ります。女性客に対しては『フン!』という感じなのにね。パパさんがなでてやると、のどをグフグフいわせて喜んでいました」
美眞子さんは「ごはんをやり、ふんの始末をするのは、私なのに……」と苦笑いする。もともと義寛さんは「犬派」だったらしい。子どものころ、かわいがっていたハトを野良猫に殺されたことから、猫は苦手だった。しかし、「もも」が来てからは態度が一変し、「猫派」になった。
「病気になってからは、猫と同じ部屋で眠ることができなくなりました。だから知人に、『ももちゃん』の小さなぬいぐるみを作ってもらい、寝室に持ち込んでいました。最期まで『ももちゃん』のこと、気にしていました」と振り返る。
義寛さんは睡眠中に腹膜透析をしていた。医師から「雑菌などが入るといけないので、清潔な状態の個室で眠ってください」と言われ、寝室はペット厳禁に。それでも「もも」は、義寛さんに甘えたがった。
「夫は最期に1カ月半ほど入院しました。その時には病室に『ももちゃん』のぬいぐるみを持ち込み、枕元に置いていました。看護師さんにも見せて、夫とも『ももちゃん』の話をして……」。美眞子さんにとって「もも」は、看病を支えてくれる存在だった。
英子さんが営んでいた日本茶の専門店を、美眞子さんが引き継いだのが、「おおつか茶舗」である。中国茶の魅力を伝えようと、首都圏や中国の産地に足を運んで知識を深め、日中両国の茶葉を扱うようになった。2002年ごろからは中国茶がメーンの店となっている。
「夫は重い茶箱を運ぶなどして、ずいぶん手伝ってくれました」と美眞子さん。大塚家の女性二代が配偶者を亡くした悲しみに、「もも」はそっと寄り添ってきた。寝て、甘えて、食べて、時々お散歩して……。看板猫も少しずつ、悲しみから立ち直りつつある。
(若林朋子)
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