Pets and People Well-Being Project
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「ペットは家族」から社会の幸せへ 社会学者に聞くペットと人のウェルビーイング
インタビュー

「ペットは家族」から社会の幸せへ 社会学者に聞くペットと人のウェルビーイング

ペットは人にかわいがられる対象から、幸せをもたらす存在へと変わりつつあります。「ペットは家族」と考える人が増え、社会にも広まりつつある今、ペットと人のウェルビーイングを促進するために何ができるのでしょうか。中央大学文学部教授・山田昌弘先生に、日本社会におけるペットの変化やウェルビーイングについてうかがいました。 「ペット」が私たちの家族になるまで 家族の定義が愛情による関係へと変わった 日本でペットの家族化が起こった背景には、近代社会になって家族の定義が変わったことが挙げられます。家族とは血縁や婚姻による関係と心理的な愛情によって成り立つものと考えられ、かつてはこの2つが一致していると思われていました。 ところが、未婚と離婚の増大や長寿化による死別で、配偶者や子どもなど人間の家族がいない人、あるいは家族の愛情を実感できない人が増え、血縁や婚姻による関係が薄れてしまったのです。代わりに心理的な愛情による関係を求める人が増え、「自分を必要としてくれる、大切にしてくれる存在」を家族と呼ぶ習慣ができました。 相互に愛情を持ち合う理想の家族を求める人にとって、ペットはもっとも適した対象となり、同時に自分が責任を持って相手の幸せを保証しなければいけない存在に変わっていきます。ペットの家族化が広まったのは、ペットに人間と同じくらいお金をかけられる経済的余裕が出てきたことも理由でしょう。 ペットは子どもや「推し」と同じ愛情の分散投資先 ペットの飼育率は3割程度で推移 日本では血縁や婚姻の関係のある家族から愛情を感じられなくなったときに、精神的な安定を図るために別の対象を求める「愛情の分散投資」が広まっています。愛情の行く先が配偶者や子どもだけでなく、ペットや推しのアイドル・キャラクターなどがあり、今後は対話型のAIも増えると考えています。 日本では犬と猫の飼育率はそれぞれ10数%で、合わせて25%程度です。その他の小動物が5%程度とすると、複数飼育の家庭があったとしてもペット飼育率は30%前後と考えられます。じつは推しがある人は、ペットの飼育率と同じく3割前後います。リアルな家族から愛情を感じられなくなった人の愛情の投資先の一つがペットなので、今後もペットの飼育者が多数派にはならないと思います。 家族化の弊害で贅沢品にしないために 日本における子どもとペットの共通点には、家族化による存在の重さも挙げられます。近代社会以前には子どもは小さな大人として扱われ、労働力とみなされていました。それが近代になって子どもの家族化が起き、今では手厚く世話をして、専用の部屋を与えて、学費まで面倒を見るのが当然という意識に変わっています。子どもを育てるために求められる責任や負担が大きくなり、経済的な条件から結婚や出産をあきらめる人が増え、少子化が進んでいます。 ペットの家族化が進むということは、子どもと同じように「これくらいしてあげなければかわいそうだ」と飼育の水準が上がるわけです。相当な経済的余裕がなければ、ペットの飼育をあきらめざるを得ない人が増えるかもしれません。ペットがより多くの人の家族として「幸せをもたらすもの」であり続けるためには、贅沢品にしてはいけないと思います。 これからの日本社会とペットのウェルビーイング 「ペットは人間の幸せの一部である」という社会的合意へ 日本を含む東アジアは「家族主義社会」です。ペットも人間の家族と同じように迎えるという意識が強い一方、家族と家族以外を明確に分ける社会でもあります。ペットに関するモラルやマナーに社会の目が厳しいのも、家族である飼い主が責任を負うべきであると考えられているからです。さらに言ってしまえば、自分の家族以外は大切にしなくてもいいという考えで、少子化対策や動物福祉の遅れにもつながっています。 欧米などの「普遍主義社会」は、人類みな兄弟とまではいかなくても、家族と家族以外の境界が薄く、困っている誰かをほうっておけない社会です。近代社会になって平等という考え方が生まれ、いわゆる福祉国家のイギリスやスウェーデンなどでは、人間だけでなく動物にも福祉が広がっています。 今後、日本の動物福祉は向上するのか。その可能性はあると思います。ペットは人間の幸せを構成する一部であるという社会的合意が広まりつつあるからです。これまでにペットを飼ったことがある人は、ペットの飼育率を超えて40〜50%にのぼり、ペットの非飼育者でさえ、ペットを家族とみなす人が7割に達しています。 ペットと飼い主と社会をつなげるプロジェクト 「ペットは家族」という考えが多数派なので、これからペットと人のウェルビーイングをともに満たす方向へ社会が変わり、たとえば慶弔休暇、住宅補助、医療費支援などの制度やサービスが広がっていくことも考えられます。ペットがもたらす高齢者の健康への効用が注目されていることもあり、入院や死亡などの万が一のときにはペットを引き取るようなシニア世代をサポートする取り組みも広がるかもしれません。 韓国のペットフレンドリー都市・大田広域市では、公費でペットの医療費支援を行い、公園にドッグランや保護施設などを整備しています。日本でも多くの人の合意を取れれば実現する可能性もあるでしょう。ペット好きの私としては、広まってほしいと思います。 ペットは社会的なつながりの核としても役立ちます。犬は散歩の習慣を通して飼い主同士が交流しやすいものの、外出する習慣がない猫の飼い主の孤立対策が課題です。私が参加している東京都社会福祉審議会で、「ペットをきっかけに集まる場があったらどうか」と提案したところ、賛同者が多く、報告書にも書いてもらえました。 動物を通したコミュニティは社会に参加するきっかけになり、飼い主としてのモラルやマナーの教育の場にもなります。飼い主とペットだけの幸せではなく、本プロジェクトがペットと飼い主と社会のつながりをつくる場になって、日本社会全体の幸福度を上げる一助になることを期待します。 (文・金子志緒/編集・sippo編集部)

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動物の立場で幸せを考える 獣医学の最前線から見た5ドメイン
インタビュー

動物の立場で幸せを考える 獣医学の最前線から見た5ドメイン

『ペットと人のウェルビーイングプロジェクト』はこころ・からだ・社会という3つの視点からウェルビーイングを捉え、その考え方を犬や猫に当てはめた動物福祉学の指標「5ドメイン(5つの領域/健康・栄養・環境・機会・精神状態)」をもとに、ペットと人がともによりよく暮らせる社会をめざす取り組みです。東京大学名誉教授・西村亮平先生から見た、動物の医療と5ドメインについてうかがいました。 動物のために紡ぐ「幸せな物語」の医療 5ドメインをもとに動物の立場で幸せを考える 動物の立場から幸せを考える「5ドメイン(5つの領域/健康・栄養・環境・機会・精神状態)」は、イギリスで生まれた動物福祉の指標を発展させた考え方です。5ドメインはペットのウェルビーイングを動物の視点で考える指針になり、犬らしく・猫らしく生きるために必要なことを見つけるために役立つでしょう。 動物福祉が根付いている欧米では、犬や猫などの動物を人がコントロールすべきという、人間主体の考え方が一般的です。日本は動物福祉が遅れていると言われますが、人がコントロールすべきという意識は低いように思えます。むしろ動物の気持ちも考慮する日本のほうが、動物主体と言えるかもしれません。 本来、動物の幸せは動物が決めることで、人間が決めることではありません。しかし、犬や猫が人間の家庭や社会の中で暮らしている現状では、動物たちの幸せは飼い主さん次第になっています。5ドメインは飼い主さんが愛犬・愛猫の幸せを考え、ひいては人と動物の共生社会の実現のために身につけたいリテラシー(知識や能力を活用する力)ともいえるでしょう。 動物・飼い主・獣医師の幸せにつながる医療 獣医師の立場から言えば、健康で生きることや病気を治すことは幸せにつながります。 すべての医療は、根拠に基づく医療(エビデンス・ベースド・メディスン/EBM)を積み重ねて進化してきました。しかし、客観的な治療効果のみを突き詰めるほど、患者の主観的な思いが見落とされ、医療が必ずしも幸せに結びつかない場合もあったのです。 そこで2000年代から、患者を主体にした物語に基づく医療(ナラティブ・ベースド・メディスン/NBM)が提唱されるようになりました。人も動物も生きることは一つの物語であり、医療が患者の幸せな一生を支える時代に変わってきているのです。 私たち人間は、今だけでなく未来を生きられます。長期の治療や入院に耐えられるのは、その先を想像できるから。不治の病を抱えても「来年の桜を見たい」と目標に向かって生きられるがゆえに、日本では患者や家族の希望に応じて延命につながる医療が行われるケースが多く見られます。 一方、動物は今を生きています。つらい治療の先に待つ未来を想像するのは難しい。治るならまだしも完治が見込めない場合、飼い主さんが想像する目標に向かって治療を続けることが、果たして動物のためになるのでしょうか。患者である動物を置き去りにしていませんか。動物の立場で言えば、私は住み慣れた家で穏やかに過ごすことが幸せだと思うのです。 獣医療は、人間以上に物語に基づく医療、つまり動物にとって幸せな一生を支えることが大切だと考えています。これは決して根拠に基づく医療を否定するものではありません。動物・飼い主・獣医師の三者が根拠に基づいて話し合い、最良と思える物語を見いだすことが大切です。 生活の質を守ることから三者の物語は始まっている 動物・飼い主・獣医師の三者の物語は、健康なときから始まっています。病気やけがの治療だけではなく予防も含めて、広げれば生活の質を守ることにもそれぞれが関係しているからです。 たとえば、動物の痛みに気づけるか。急性痛はけがや手術の際に起きて徐々に落ち着いていくのに対し、慢性痛は日常的に続き、生活の質を下げる原因になります。歩くのが遅い、段差でつまずく、ソファに上がれないといった行動上の変化に飼い主さんが気づいて獣医師につなげなければ、いつまでも痛みを抱えた状態が続きます。「以前と行動が変わった」と思ったら加齢によるものと思い込まず、慢性痛を疑ってください。 見落とされがちな慢性痛のサインは、問題行動のように見える変化です。よくあるのは飼い主さんが犬や猫に触った拍子にかみつかれたというケース。人への攻撃行動に見えますが、じつは「痛いから触られたくない」というサインです。動物の生活の質を守るためには、飼い主さんと獣医師の連携が欠かせません。 「ゆるゆる」な暮らしが人と動物のウェルビーイングをかなえる 身近に動物がいない日本は犬猫リテラシーが未熟 日本は犬猫リテラシー(習性の知識や適切に飼育・管理する力)が未熟だと感じています。動物を管理する意識が高い欧米などでは、犬が街のレストランや公共交通機関に当たり前のようにいて、動物との付き合い方を学ぶ授業を設けている学校もあります。日本では飼い主さんはもちろん、多くの人が動物を知る機会が少ないにも関わらず、「人と動物の共生社会」という理想だけがひとり歩きしているように思うのです。 犬らしく、猫らしく生きるとは、きっと本能のままに生きることだと思いますが、現実は人間社会の中で人間の都合に合わせて本能がかなり抑制されています。だからまずは、飼い主さんが率先して犬猫リテラシーを高めることから始めませんか。動物のウェルビーイングの指標となる5ドメイン(5つの領域/健康・栄養・環境・機会・精神状態)を満たすことで、動物の本能を完全に満たすことはかなわなくても、今より幸せな暮らしに近づきます。 寛容性を高めた先にある人と動物の共生社会 獣医学的な立場で言えば、動物を飼育管理することは大切です。しかし、犬や猫の立場から飼い主さんに言うとすれば、「ゆるゆるでいいんじゃない」と思っています。人間だってそんなにちゃんと暮らしているわけではありません。多少の寛容さがなければ、犬や猫の一挙手一投足にピリピリするようになってしまいます。犬や猫のお世話を適当にしていいという意味ではなく、動物と暮らすにはある程度の寛容性は問われると思うのです。 家庭だけではなく、社会にも同じことが言えます。日本で犬や猫の飼育率が下がっているのは、昔に比べて社会から寛容性が失われてしまったからではないでしょうか。比例するかのように、日本の幸福度も年々、下がっています。イギリスのオックスフォード大ウェルビーイング研究センターなどが発表している「World Happiness Report 2026(世界幸福度報告書)」によれば、日本は147カ国中61位でした。 じつは動物の飼育率が高い国は、幸福度も高い傾向が見られます。犬や猫の飼育率が極端に低くなってしまった日本の幸福度が低下していることは、決して無関係ではないはずです。動物と幸せに暮らしている国がたくさんあるのに、もったいないと思いませんか。寛容性が高まらなければ動物は増えません。人と動物の共生社会は、寛容性を高めた先にあります。犬や猫と暮らすことは、私たちの幸せにもつながります。5ドメインで、ワンウェルビーイングをかなえた人と動物の共生社会をめざしましょう。 (文・金子志緒/撮影・山本佳代子/編集・sippo編集部)

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