アンティークショップの「ハチ店長」。ブルドッグの置物と一緒に
アンティークショップの「ハチ店長」。ブルドッグの置物と一緒に

アンティークショップの店主夫婦に命を救われた犬 「ハチ店長」として愛される

 富山市内のアンティークショップ「EASE ANTIQUES(イーズ アンティーク)」に「ハチ店長(オス、推定9歳半)」という看板犬がいる。店を経営する車和久さん・エミさん夫婦と一緒に出勤し、接客も慣れたものだ。騒いだり、ほえたりすることはほとんどなく、静かに座っていると、初めて来た客が置物かと間違えることもある。おとなしい「ハチ」が店長となったのは、車さん夫婦に出会い、命を助けられたからだった。

(末尾に写真特集があります)

国道交差点で対向車の下にいるハチを発見

 2014年9月、車さん夫婦は商品の配達に出かけていた。国道の交差点で信号待ちをしていたところ、対向車の車の下に犬がいるのを発見。しかし、対向車は気づいていないようだった。「もし発車したら、犬はひかれててしまう」と心配した2人は、車を降りて運転手に犬の存在を知らせに行った。おかげでハチは交通事故を免れ、保護された。

車さん夫婦とハチ店長

 車さん夫婦が地元の警察署に届け出ると、ハチは1日署内で待機した後、保健所に収容された。心配になったエミさんが事情を聴くと「すぐに殺処分されるわけではない」とわかったが、可愛そうに思った。

「保健所にずっといることで、怖い思いをするのではないか。飼い主が出てくるまで家で預かってあげよう」と決めてハチを迎えに行った。

「当時、9歳の長女と5歳の長男は『犬がほしい』と言っていました。けれど2人がイメージしていたのはトイ・プードルのような小犬です。ハチを最初に見た時、『ふわふわじゃないね』と、ちょっと期待外れだったようです」

 それでも子どもたちは犬の名前を付けたがったそうだ。しかし、エミさんはすぐに飼い主が現れると考えて「明日、いなくなるかもしれないんだよ」と言い聞かせ、ありきたりな仮の名前で呼ぶことにした。子どもたちがいろいろ考えて名前をつけてしまうと、愛着が湧いて離れがたくなる気がした。とりあえず、「忠犬ハチ公」にちなんで「ハチ」とした。

「忠犬ハチ公」から「ハチ」と呼び始めた(車さん提供)

「首輪をしているから飼い犬だと思っていたけれど、待てど暮らせど飼い主は現れませんでした。3カ月間、預かる予定でしたが、結局3カ月経ってもうちにいました。そのまま9年が経過しました」

ハチの勤務は正午から午後6時まで

 エミさんによるとハチを引き取ったばかりのころ、家で留守番をさせておこうと思ったが、愛犬家の客から「いきなり知らない家に来て、ほったらかしにしたら寂しがるよ」と言われ、毎日一緒に店に出ることにした。

 店は正午にオープンし、午後6時まで。ハチは店内にずっといるのではなく、外の風を感じながら川沿いの道を散歩して花の匂いをかいだり、雪の日には公園で遊んだりしながら時間を過ごす。車さん夫婦は富山市内にもう1店経営しており、歩いてそちらに行くこともある。店内にいる間、ハチ店長は年代物の家具やソファの前に座り、静かに来客を待っている。

雪が降った日、公園で遊ぶハチ(車さん提供)

「お客様にかみ付くような様子を見せたら、お店には出さないでおこう」と思っていたが、ハチは予想以上におとなしかった。外国産の車特有の大きなエンジン音がすると怖がることもあるが、落ち着いて接客にあたっている。「ならば、看板犬にしようと思って、店長に任命した」とエミさんは話す。

ハチを目当てにやってくるお客さんも

 おとなしいハチには、ひそかに片思いする犬がいる。近所にいる柴犬のメスの親子の母犬の方が意中の相手なのだそうだ。エミさんによると、ハチはその犬の姿を見つけると、そばに行きたがる。「静かにごあいさつするようにしています」とのことである。

 店は開店して22年目。夫婦とも富山市出身で、和久さんが上京して都内のアンティークショップで働き、Uターンして開業した。米国での仕入れを担当する和久さんは「古い品との出合いは一期一会。何十年も使われてきたものが海を渡り日本で、また何十年も使われることに魅力を感じる」と話す。意図して集めているわけではないが、犬にちなんだ置物や絵なども少なくない。そういった商品やお勧めの品とハチ店長を一緒に撮影し、SNSにアップすると、ハチを目当てにやってくるお客さんもいる。

ガレージの前で(車さん提供)

 天気の良い日は、通りに面したガレージで座って通行人をながめ、来店客を出迎える。ハチが来たときに幼かった長女・長男は高校生と中学生になった。ハチは「おじさん」になり、階段の上り下りが難しくなってきた。店長としての仕事ぶりはベテランの域に達している。年代を感じさせるソファの上でゆったりと過ごすハチ店長。エミさんは「長生きしてほしい」と話した。

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若林朋子
1971年富山市生まれ、同市在住。93年北陸に拠点を置く新聞社へ入社、90年代はスポーツ、2000年代以降は教育・医療を担当、12年退社。現在はフリーランスの記者として雑誌・書籍・広報誌、ネット媒体の「telling,」「AERA dot.」「Yahoo!個人」などに執筆。「猫の不妊手術推進の会」(富山市)から受託した保護猫3匹(とら、さくら、くま)と暮らす。

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