猫の愛らしさには適わない! ご縁が重なり家族に迎えた十人十色の愛猫たち

 都内で夫と小・中学生の2人の息子と暮らすS子さんの家には、1匹のマルチーズの子犬「レイ」と、7匹の猫がいる。

 猫を飼いはじめたのは2017年の夏、台風の日にS子さんが自宅の近くで黒猫の「トキ」(男の子)を保護したことがきっかけだった。その数カ月後には、白い毛に頭と尻尾がキジトラ柄の「リン」(女の子)、白地に黒い斑柄の「リュウ」(男の子)を保護団体から引き取った。

(末尾に写真特集があります)

平和にスタートを切った3匹の共同生活

 リンとリュウは、長男のために迎えた猫だった。次男がトキを溺愛するのを見て、自分の猫を欲しがったからだった。

 リンは、臆せず人間の膝にのってくるほど愛想がよかった。リュウは内向的で最初は隠れていることも多かったが、トキの存在が安心感を与えたようだった。

階段に猫
「上段はロン。下段の私はリンよ。よろしく」(小林写函撮影)

 トキは、リンとリュウが家に来る日に合わせて去勢手術を済ませた。手術前まではかなりやんちゃで、S子さんの足に飛びかかり噛みつくこともあり手を焼いていた。

 それが、手術後は別猫のようにおだやかになったのだ。

 肝のすわった様子で2匹の新入り猫を受け入れた。おかげでS子さん家族と猫たちとの距離も縮まった。

夫の提案で二匹の保護猫を迎えることに

 それから2年がたった頃、今度は夫が猫を飼いたいと言い出した。
「あと何匹か、家にいてもいいんじゃないかな」

 提案は控えめだったが、言い出したときには堀を埋めているのが夫の性格だ。自宅からそう遠くない場所にある保護団体のウェブサイトで、すでに気に入った子猫をみつけていた。

 実家で複数の猫と暮らした経験のあるS子さんは、散歩の必要がある犬とは違い「猫の世話は何匹いても同じ」と考えていた。ずっと犬派だった夫が、猫に傾倒するようになったのは嬉しかった。

 こうしてキジ白の「フウ」と、白毛メインの「ライ」の姉弟が、新たに家族に加わった。

 3匹の先住猫に比べるとフウとライは人間への警戒心が強かった。特にフウは気が強く、今でも抱き上げようとすると怒って爪を立て、気をつけないと大怪我をする。

保護猫
「フウよ、胸元が開いた柄がセクシーでしょ」(小林写函)

 個々の猫の間でも相性の良し悪しがあった。特にリュウとライは背中の毛を逆立てて睨み合い、取っ組み合いをすることも頻繁だった。

 それでもトキがいると、まわりに猫たちは自然に集まってきて穏やかな時間が流れるのだった。

先代を看取り、2代目マルチーズもやってきた

 フウとライを迎えた翌年、先代マルチーズの「フェリー」が14歳で天国に旅立った。

 その翌年の春には、2代目マルチーズのレイがやってきた。これは夫が、猫のためのフードを買いに行ったペットショップで一目惚れをした男の子だった。

「これ以上動物は飼えない、毎日の散歩は誰がやるのか、お父さんは自分が行くと言うけれど、平日は忙しくて絶対に無理でしょう」と家族全員が反対した。だが、いったん決めたら後には引かない性格も家族は理解していた。

 レイは賢い犬で、トイレもすぐに覚えた。周りが猫ばかりのせいか、自分が猫だと思っているふしがある。5匹の猫たちとおなじように高いところへジャンプしようとしては失敗する姿は、家族の笑顔を誘った。

車の下に潜む黒猫2匹との出会い

 その年の夏のある日、もう動物を迎えるのはこれでは終わりだと思っていたところへ、S子さんに出会いが訪れた。

 夕方、次男を塾に送ろうと玄関を出ると、家の前の道で車が立ち往生していた。女性が車の下をのぞき込むようにしてしゃがんでいるので、つられてのぞくと、黒い子猫が2匹うずくまっていた。聞けば、猫たちは女性がどかしても、すぐにまた車の下にもぐってしまうそうで、彼女は困っていたのだった。

 S子さんは家から段ボール持ってきて2匹の猫を収納し、車を通した。

 猫たちは痩せており、目は目ヤニと涙でグショグショだった。とりあえず家にあるケージに移し、長男の部屋に隔離した。

黒猫
「ソンです。おじさんの頭って黒白柄なの?」(小林写函撮影)

 翌日、動物病院に連れて行った。猫たちは生後約2カ月で姉妹だろうとのこと。検査の結果、多少衰弱しているだけで心配はなかった。必要な初期医療を施してもらい家に連れ帰った。

 猫たちは食欲もあり、すぐにふっくらとしてきた。元気もよく、ケージ内では納まり切らない様子だったので、早々に部屋に出した。

 2匹は開放的な性格で、警戒心がなかった。人にも猫にも積極的にすり寄ってくるので先住猫たちのほうが警戒し、温厚なトキでさえも最初は威嚇するほどだった。

 とはいえ、これ以上猫を増やすことには、さすがの夫も難色を示した。引き取ってくれる家はないかと知り合いにたずねたが、数カ月たっても話はまとまらなかった。

ビジネスライクな獣医師が愛猫たちに見せた笑顔

 猫たちを譲渡すると言うたびに、次男が見せる悲しそうな表情にも後押しされた。2匹は「ソン」「ロン」と名付けられ、家族に加わった。

 ソンとロンは、動物病院でも驚くほど愛想がよい。

 トキを保護したときは、実家の近所の動物病院に連れて行っていた。しかし猫が増えてからは、家の近くの病院に通うようになっていた。

 院長である40代の男性獣医師は、どこかビジネスライクで淡々としていて掴みどころがない。コミュニケーションが取りづらく感じていた。

 その先生が、去勢手術のあと、ソンが診察台の上でグルグルと喉を鳴らしている様子に相好を崩したのだ。

「ソンちゃんは、ご機嫌な猫ちゃんなんだよねー。姉妹のロンちゃんも、同じような猫ちゃんなんだよねー」

 猫が人にもたらす影響は大きい。

 以来、先生に対するS子さんは印象はガラリと変わった。

 (次回は2月11日公開予定です)

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宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。
著書にsippo人気連載「猫はニャーとは鳴かない」を改題・加筆修正して一冊にまとめた『ハチワレ猫ぽんたと過ごした1114日』(河出書房新社)がある。

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この連載について
動物病院の待合室から
犬や猫の飼い主にとって、身近な存在である動物病院。その動物病院の待合室を舞台に、そこに集う獣医師や動物看護師、ペットとその飼い主のストーリーをつづります。
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