行き場のない犬猫救いたい 台風で被災した保護団体がコロナで資金集め難航、支援募る

くつろぐ犬
保護犬「三太」

 コロナ禍でおうち時間を過ごす機会が増えたこともあり、ペット需要が増えている。さまざまな不安を犬や猫から癒やしてもらいたいという人も多いはずだ。一方で、捨てられたり、飼育放棄、飼い主がいないなど、保護を必要としている犬猫も多い。

(末尾に写真特集があります)

被災した犬や猫の保護からスタート

 神奈川県厚木市で地域の犬猫の保護活動を行っているのが、一般社団法人しっぽ村だ。2019年に台風19号で被災、新シェルターの建設・移転費用をクラウドファンディングA-portなどで募っている。すでに2020年11月、新シェルターに一部移転を完了したが、1月からの二度目の自粛など、コロナ禍は保護犬猫の活動にも大きな影を落としている。

 そもそもしっぽ村は、2011年、東日本大震災の被災地支援からスタートした団体だ。しっぽ村監事の深津彰詞(しょうじ)さんは、当時の様子を次のように語る。

 「当初は被災地の人道支援から始めましたが、次第に被災者の飼い犬や猫の保護を頼まれるようになりました」

街灯での募金活動
被災地支援活動の様子

 震災翌月には福島県相馬市に犬を預かる施設を設立。被災犬を預かるようになった。これらの支援の元手となったのは、深津さんたちが拠点としている神奈川県横浜市や東京での街頭募金だ。

被災ペットも地域の保護犬猫も幸せにしたい

 2013年には神奈川県清川村に犬や猫のシェルターを兼ねた施設をオープン。

 「次から次へと保護犬や猫が運ばれてきました。わかっているのは、とにかく福島から来たということだけ。飼い主が誰かもほとんどわからない状態でした」

被災地での保護活動の様子
被災地での保護活動の様子

 被災地の状況が落ち着くにつれ、被災ペットだけでなく、神奈川県内など地域で保護が必要な犬や猫も預かるようになっていく。また、2016年の熊本大震災が起きた際も被災ペットの保護に奔走し、現在も「西原しっぽ村」として運営している。

 「当初は被災犬猫だけを受けいれていましたが、譲渡先に引き取られたり、看取ったりして、シェルターに空きがあれば地域の犬猫を預かるようになったんです。犬や猫にとっては自分が被災したかどうかは関係なく、行き場がなくて保護が必要という状況は同じですから」と深津さん。

移動診療車
被災地での保護活動の様子

 清川村にあった旧シェルターは、犬20匹、猫80匹が定員。施設の建築資金は、寄付や募金で集め、保護活動の傍ら深津さんたちスタッフが自ら作業した部分もあった。

 収容が可能なかぎり保護犬猫を受け入れ、譲渡会で譲渡先を見つけて送り出すことの繰り返し。なかには心に大きな傷を負い、人慣れしなかったり攻撃的になったりする犬猫もいる。しかし、「人に慣れない」からとレッテルをはってそのままにしていると、引きこもってしまうだけだと、深津さんは言う。

 「どんなに人に慣れない犬や猫でも、根気よく触れ合っていくうちに、必ず心を開いて変わってくるものです。ケージを変えたり、場所を変えるなど、ちょっと環境を変えてあげるだけでも、違ったりします。僕らが諦めたら、その子が人と幸せに暮らすチャンスもなくなってしまう」と言う。

犬
被災地から受け入れた最初の1匹・マロン。新しい飼い主に引き取られる事はなかったものの、先日見守られながら他界

 深津さんにとって、一番印象深い犬もそういうタイプだった。9年前、最初に被災地から受け入れた犬の一匹で、最後までしっぽ村に残った一匹だった。

 「元気がよすぎて噛み付くこともありましたが、長い時間をかけて、信頼関係を築けたと思います。やはり、しっぽ村と最初から一緒にいる犬だったので、特別な想いがありますね」

台風被災、コロナ禍そして資金難の壁

 犬猫の保護活動のペースも安定してきた2019年。神奈川県を襲った台風19号の影響で、清川村の保護施設が地すべりにより半壊する。

台風による地滑り被害
台風被害の様子

 「もともと山の斜面という不安定な場所にあった施設で、崖に面した建物部分が滑り落ちてしまったんです。幸いなことに人間や犬猫は無事でしたが、建物の基礎部分はすっぽりなくなってしまいました」

 保護している犬や猫はボランティアなどに手分けして預かってもらい、施設の再開に向け急いで動き出す。厚木市に土地を確保して、新たに建物を建設することが決まった。犬舎や電気設備などの工事はまだ残っているが、2020年11月に施設への一部移転は完了。猫60匹、犬4匹が新たな施設で暮らしており、最終的には犬も20匹収容する予定だ。

くつろぐ猫たち
新施設の内観

 新しい設備の費用は総額約4500万円。寄付や募金で資金調達するつもりだった深津さんたちだが、新施設建設に向けて動き出す中、新型コロナウイルスが流行。資金集めは頓挫する。

コロナ禍で資金集めが難航

 しっぽ村設立当初から、深津さんたちが続けてきた資金集めの手段に街頭募金がある。しっぽ村の認知が広がるにつれ、寄付の割合が増えてきたが、深津さんたちにとって街頭募金は活動の原点だ。コロナ禍以前は月に4〜8回、スタッフが交代で藤沢駅や海老名駅前に立ち、募金を呼びかけるのが通例だった。しかし、2020年3月以降は、感染予防の観点から街頭募金は中断したままだ。

 現在の運営資金の柱である賛助会員などからの寄付も大きく減少している。なんとか新施設建設資金を集めようと、クラウドファンディングで400万円の目標金額を達成することができた。しかし、まだまだ資金難であることに変わりはない。

 「このままだと、運営を継続することも難しくなってしまう、という危機感が強くあります」

爪を切ってもらう猫
新しい飼い主さんに引き取られる前の身だしなみ

 課題は資金面だけではない。保護を必要とする犬猫を取り巻く環境も、厳しくなっている。そのひとつが、コロナによる経済的理由でペットを手放さざるを得ないという人の増加だ。一度家族となったペットは、最後まで責任を持って飼うことが大前提だ。しっぽ村でも、個人的に引き取って欲しいという相談には応じていない。しかしながら、コロナという予期せぬ事態は、ペットの人生も大きく変えてしまっているといえよう。

 ペットショップで飼われる犬猫が増えているにもかかわらず、保護が必要な犬猫が増えているという矛盾。さらにコロナで譲渡会の開催も中断しているため、譲渡先を見つけて、新たな犬猫を引き取るというサイクルも途切れたままだ。

 「本来は毎日、譲渡希望者に施設を開放して、見学やお見合いをしてもらいながら、譲渡できるかの条件を対面でチェックします。しかし、今はコロナで譲渡会ができず、新しい飼い主を待つ犬猫たちはずっとここにいる状態が続いています。新たに引き取ることもストップしているので、保護施設に入れない犬猫がだぶついているのが現状です」

犬や猫たちが幸せに暮らせるように

 人間の都合で、生きる環境を左右されてしまうペットたち。深津さんは、「かわいそうな状況にある犬や猫をなんとか救って幸せにしてあげたい。それには私たちだけではなく、多くの人の支援や協力が必要です」と保護犬猫たちへの想いを語る。

 団体の運営資金の確保、保護犬猫の譲渡など、コロナの影響でさまざまな課題に直面するしっぽ村だが、深津さんたちは、今できることをコツコツとクリアにしていこうとしている。例えば、今春から、新たに猫エイズなど傷病を抱える猫の養育費を支援する「フォレスターペアレンツ」の導入も検討。運営資金への負荷の大きい医療費も協力してもらうことを考えている。

2匹の猫
あじ&マリオ

 「クラウドファンディングの動画では、『あなたにもできることがある』というメッセージを発信しています。犬や猫を引き取ることはできなくても、このおなじ命のためにできることはたくさんあります。そういうみなさんの支援の輪を広げることで、しっぽ村のコミュニティーをもっと強固なものにしていきたい。それが幸せな犬や猫を増やすことになると信じています」

(工藤千秋)

しっぽ村が実施中のクラウドファンディングの詳細、支援はこちらから

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