災害時にペットの命を守るには、同行避難! 福島からの教訓
北関東や東北を中心に記録的な豪雨が降り、大きな被害が出た。11日午後には、鬼怒川の堤防が決壊した茨城県常総市で22人が行方不明だと発表され、浸水で孤立した地域からの救助活動が続く中、ペットを抱えて避難する人の姿も見られた。
東日本大震災でたくさんのペットが犠牲になったのを機に見直された、ペットとの「同行避難」のあり方。最近では今回の豪雨のほかにも、口永良部島(鹿児島県)の噴火に伴う全島避難の際にも注目が集まった。ペットを被害者にせず、一緒に生き残る――。そのために何ができるのか。
2012年4月、週刊誌「AERA」に「福島の教訓は同行避難 ペットの命を守るには」というタイトルで書いた記事を、この機会に改めて掲載する(記事中の年齢、肩書などはすべて取材当時のもの)。
空っぽのケージを見つめながら、福島県郡山市内の仮設住宅で男性(49)は涙を浮かべた。
「寂しくて、片付けられません」
自宅は、福島第一原発から20キロ圏内の富岡町にある。東日本大震災が発生した翌日、何が起きたのかわからないまま避難した。2、3日で戻れると思い、飼い犬のゴン太(7)は家に置いてきた。男性自身が避難所を転々としたこともあり、自治体に救出されたゴン太と再会できたのは11月だった。
男性は1万数千円のケージを購入し、ゴン太との暮らしを再開させた。だが、屋外で飼われてきたゴン太にとって、狭い仮設住宅はストレス。足先などをなめて皮膚がただれ、体毛も抜けた。仮設住宅の壁は薄く、吠え声も問題になった。町によるペットハウスの建設も、一部の住民から反対の声があがって中止に。男性はゴン太を動物愛護団体に預けざるを得なかった。
「寂しい目をするゴン太の夢を何度も見ます。一緒に住みたいが、里親を探すしかないのかも」
同行避難こそ大切
東日本大震災ではペットたちも犠牲になった。原発事故が重なった福島県では、被災地に取り残された犬や猫が餓死する悲劇も起きた。震災に見舞われたとき、ペットの命をどう守ればいいのか。
「まずは同行避難が大切です。後で保護に行くという考えでは、ペットの命は救えません」
数々の被災地でペットの救援活動にあたってきた日本動物福祉協会の山口千津子氏は、そう指摘する。首都直下型地震が起きた場合、火災による被害の拡大が懸念されている。自宅にペットを残したまま避難すれば、ペットが火災に巻き込まれる可能性もある。実際、阪神大震災では大やけどを負った猫が保護される事例も目立ったという。
ただ、避難所や仮設住宅を設置するのは市区町村だ。東日本大震災では、ペット同行避難への自治体ごとの対応の違いが顕在化した。例えば、富岡町から避難している冒頭の男性は飼い犬を手放さざるを得なくなったが、同じ敷地に仮設住宅を設けている川内村はペットハウスを建設し、多くの住民が犬と一緒の生活をしている。そのため、今年予定されている動物愛護法の改正では、同行避難の計画作りを自治体に義務づけることになりそうだ。
「新潟県など一部の自治体では、防災計画や動物愛護管理推進計画で同行避難について明記しています。法改正が、飼い主の日ごろの準備にもつながればいいと考えています」(環境省)
不妊手術や予防接種も
同行避難を前提にすれば、やるべき準備ははっきりする。まずはペットと一緒に避難できる場所はどこか、住んでいる地域の防災計画などを確認すること。そのうえで、ペットを連れて避難訓練に参加してみる。犬の場合、散歩コースに避難経路を入れておけば、より安心だ。
避難所や仮設住宅には、たくさんのペットが集まってくる。発情期のメスがいれば、去勢していないオスは騒ぎだすが、不妊手術をしておけば、そんな事態は避けられる。感染症の流行も怖い。各種ワクチンの接種は絶対に済ませておこう。吠え癖やかみ癖は、他の住民とのトラブルのもとになる。できる限りのしつけはしておくべきだろう。
ただ、しつけができていても、大災害によるストレスがペットに思わぬ変化をもたらすこともある。郡山市内の借り上げ住宅に住む女性(57)も、数日で帰れると思い、富岡町内の自宅に柴犬のマタハチ(8)を残してきた。7月、一時帰宅で家族が自宅に戻ると、マタハチは玄関に座って待っていた。犬を飼える家を探し、8月にようやくマタハチとの暮らしを取り戻した。
だが、おとなしい性格だったマタハチは、家族の誰かがいないと吠え続けるようになった。苦情が来て、やむを得ず動物愛護団体に預けているという。
携帯電話に写真保存を
もちろん、はぐれてしまったときの備えも必要だ。特に普段から自由に行動させていて、狂犬病予防法に基づく「鑑札装着義務」もない猫の場合、迷子札やマイクロチップの装着は欠かせない。はぐれたペットを捜す際には、携帯電話にペットの写真が保存されていれば大きな手がかりになる。
いわき市内の仮設住宅で妻子と離れて暮らす猪狩直人さん(51)は昨年9月、ラブラドールレトリーバーのエル(12)と再会できた。自宅は楢葉町にあるが、3月11日は仕事で隣町に出かけていて、そのまま離ればなれになった。自宅の敷地内につながれていたエルは、動物愛護団体のボランティアに救出された。
「最初の1カ月は生死もわかりませんでしたが、たまに帰宅する近所の人が、エルにエサをあげてくれていました」
気がかりは、母が残してきた猫。当日は外に出ていて、いまも行方不明のままだという。
(編集部 太田匡彦<写真も>)
※2013年9月に施行された改正動物愛護法では新たに、都道府県が定める「動物愛護管理推進計画」に「災害時における動物の適正な飼養及び保管を図るための施策に関する事項」を盛り込むことが義務付けられた。これを受けて、環境省も「飼い主の責任によるペットとの『同行避難』を原則」とするガイドラインを作成している。
ペットと一緒に生き残る
〈いますぐやろう〉
・鑑札や迷子札、マイクロチップを装着する(特に「鑑札装着義務」のない猫は注意)
・携帯電話にペットの写真を保存しておく
・各種ワクチンや狂犬病の予防接種を受ける
・できることなら不妊手術を
・ペットのための備蓄品を用意しておく
・留守がちなら、近所の人にペットの存在を周知
〈日ごろから〉
・ペットと一緒に避難できる場所を想定しておく
・実際にペットを連れて避難訓練に参加する
・避難経路を散歩コースに入れてみる
・ケージやキャリーバッグに慣らしておく
・小動物のケージは安全な場所に置く
〈災害が起きたとき〉
・ペットを守るため、まずは自分の安全を確保
・犬にはリードをつけ、猫はケージに
・必ずペット同行で避難をする
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