牛と猫の友情物語 遊んだり毛づくろいしたり…牧場でスタッフを癒やした光景

 種類の違う動物同士が仲良くなるのは時々あることですが、ある女性の実家の牧場では、体の大きさがまったく違う、牛と猫の間に強い友情が芽生えました。牧場の皆に感銘を与えたという両者の関係を、女性に聞いてみました。

(末尾に写真特集があります)

牧場でのほほ笑ましいシーン

〈ミルク(乳牛)とメグ(猫)は非常に仲が良く、一緒に遊んだり、毛づくろいをしたり、寝たりしていました。ミルクにいたっては、親友メグの姿が見えないと鳴いて大騒ぎする始末……〉

 ライフネット生命の営業本部コンタクトセンターに勤める早河麻純さん(42歳)が、北関東にある実家の牧場でのほほ笑ましいシーンを“社員ブログ”に記したのは、昨年の夏のことだった。

「2年前に今の会社に転職した時、社員が持ち回りで担当するブログに、雌の子牛ミルクの写真と共に、“牛にも保険(家畜共済)がある”という話を自己紹介代わりに書きました。そして昨年、2度目のブログにミルクと猫のメグちゃんのつながりの話を書いたんです。動物好きの自分にとって印象深い出来事だったので……」

猫がたくさんいる牧場

 早河さんの祖父が50年前に開いた酪農牧場では、今も乳牛が20頭飼育されている。牛舎の2階に住み、そこで育った早河さんにとって、牛は遊び仲間。猫や犬も昔からいた。

「12年位前に猫が途絶えたことがあったのですが、牛の餌を狙ってネズミが出たんです。そのネズミを捕るため蛇の青大将が出るようになった。それでネズミ除けにと叔母や親が保護猫を連れてきたりしているうちに、だんだん猫が増えました」

牛乳を飲む猫
牛乳を飲む牧場の猫軍団。代々飲んでいて、毛並みもよいという(早河さん提供)

 猫に避妊去勢もしたが、牧場に捨てられることも多かった。よそから猫が子猫を引き連れて移住することもあったという。

「“牧場にいくと新鮮な牛乳が飲めるしオヤツもある”と猫の世界のSNSで広まったと思うくらい猫が猫を呼びました(笑)。今も猫が25匹、保護犬が2匹います。結婚して引っ越してからは、自分がにゃんこ軍団のために牧場にオヤツを送っていますが、酪農ヘルパーさんや集乳車の運転手さんも猫好きで、ちゅーるを持ち歩いています(笑)」

 和気あいあいとした牧場で猫たちはのびのび過ごし、牛の世話をする早河さんの父の背中にとびのるなんてことも。牛にとっても、猫や犬は安全な仲間だったのだろう。

子牛と猫がくっついて

 大動物と小動物の交流は珍しいことではないと、早河さんはいう。だが特別な絆となると、また別のようだ。

「基本的に牛は穏やかな動物なので、犬や猫や鳥とかと違和感なくつきあえる子が多いんです。とくに子牛は犬に守ってもらうという感覚がある。幼い時に犬の近くにいた牛は大きくなっても犬と仲が良く、犬が牛の耳掃除をしたり、牛が犬をなめることもあります。猫が牛舎に入ったことも昔はありましたが、“くっつく”ことはなかったように記憶しています」

 長年、牧場で働く家族でもハッと驚くような光景に出くわしたのは、2年前の春だった。

 牧場で育った雌猫メグ(当時3歳)が、子牛のミルクの部屋に入って仲良くくつろいでいた。「こんなの撮れたよ」と、早河さんの母が画像を送ってきた。

牛と猫
敷きわらに寝そべり猫のメグと触れあう牛のミルク(早河さん提供)

「メグは外からきた黒チビという雌猫が生んだうちの1匹で、人なつこい子。母猫が小さかったせいか、おとなになっても小柄でした。牛は生後1カ月で40キロほどになるけど、自分より大きなミルクに自ら近づいたんですね。子牛専用の(個別の)牛舎には他にも子牛がいましたが、メグはなぜかミルクが好きだった。そしてミルクも、幼いうちから小学校に乳牛の体験学習に出向き、児童になでてもらったりしていたので、フレンドリーで何ごとにも動じない牛。ごく自然にメグを受け入れたんです」

 子牛だと、側にいる猫に驚いて踏みそうになることもあるようだが、ミルクはまるで昔からの親友のように、メグをいたわるようにふるまったという。

 ミルクが子牛のうちは、餌を食べては寝るの繰り返し。ひづめがまだ柔らかいうちは広いところに自由に出せないので、引き運動をしていた。ミルクがそうして外を歩いたり、体験学習に出かける時は、猫のメグも散歩に出たそうだ

牛の世話をする男性
昨年、猫を背負いながら牛の世話をするお父さん(早河さん提供)

「ミルクが部屋に戻るとメグも“おかえり~”と戻って、毛繕いをしたり一緒に寝たり。両親もヘルパーさんもそうした姿に癒やされたみたい。ミルクは顔だけ白くて目の周りが黒いので、ぱっと見は般若みたいだと私は思っていましたが(笑)、でも気は優しいんです」

メグの姿が見当たらなくなって

 早河さんがブログに記したように、ミルクはメグの姿が見えないと騒いだ。腸閉塞でも起こしたかと思うほど鳴いてばたついて。雌同士だが、それほどまでに絆が強かったのだろう。

 春、夏、秋と蜜月を過ごした“彼女たち”。しばらくはそんな幸せな光景が見られると牧場の誰もが思っていた。だが、その冬の始めにとつぜん、別れが訪れたのだった。

 早河さんが説明する。

「私から久しぶりに『牛とか猫とか犬とか元気?』と母に電話したら、母が言いづらそうに、メグが死んじゃったというんです。それは思いがけない事故でした……」

 ある時、ミルクが落ち着かなかった。メグの姿が見えないので早河さんの両親が牧場を探し回ると、タンク内に落ちていたのだ。牛の排泄物をためておくタンクで、メグはそばを散歩することがあった。俊敏な猫は、たとえタンクの縁に乗ってもどうということはないが、どうやら雨でぬれて、滑ったようだった。一度落ちたら、はい上がるのが難しいという。

「私も幼い頃にタンクに落ちて首までつかり、大声で助けを呼んで祖父にひっぱりあげてもらったことがありました。メグは間にあわなかったのですが……見つけた父と母が、体をきれいに拭いてあげて、牧場に埋葬したんです」

 メグに会えなくなった後、ミルクはショックからか体調を崩したのだという。

「子牛の部屋で鳴いたり、ぐるぐると回ったり、下痢までしました。友達がいなくなり、一緒に遊ぶルーチンもなくなり、環境の変化でバランスを崩したのかもしれません。メグは小さい体で大きな存在だったんですね。そのことが、メグの不在後によくよくわかりました」

初めての牛の友達もできた

 体調を崩したままだと大変だと思い、早河さんは犬をミルクの側に置くことを両親に提案してみた。

「ほかの猫はミルクの部屋に入っていかないので、少しでも慰めになるかなと思って、穏やかな雑種犬のランくんにミルクの側にいてもらうようにしたんです。そうしたらちょっとずつ落ち着きを取り戻しました。犬や猫が目の前で遊んでいると、ミルクは自分も混ぜてという感じで目で追うんです。昨年ミルクに、ショッコという初めての牛の友達もできたんですよ」

牛と犬と猫
ミルクの前で番をする犬のランと猫のグレー(牧場の広報部長)。ミルクの右隣は ショッコ(早河さん提供)

 ミルクはこうして親友亡き後、皆に見守られながら順調に成長し、いよいよ1月、出産し、お乳を出す予定だ。

「人なつこいメグのこと、私も今でも思い出します。ひざに乗ってちゅーるを食べる甘え坊だったな……。メグとミルクの友情は半年、だけどとても尊い時間でしたね。ミルクはもちろん、ほかの牛も猫も犬もずっと元気でいてほしいです」

 そう言って、早河さんは写真の中の“永遠の親友たち”を見つめた。

◆ライフネット生命・早河さんの社員ブログ

※2020年10月に飼養衛生管理基準の改正が施行され、猫などの愛玩動物は牧場の衛生管理区域内で飼育禁止となりました。早河さんの実家でも現在は、保健所の指導により、牛のいる部屋や搾乳機管理室などの衛生管理区域には猫は入れず、消毒などで適切に衛生管理をしています。猫たちは倉庫や農機具小屋で元気に生活しているそうです。

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藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は17歳の黒猫イヌオと、3歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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この特集について
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ペットはかけがえのない「家族」。飼い主との間には、それぞれにドラマがあります。犬・猫と人の心温まる物語をつづっています。
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