愛犬の死を乗り越えた元アイドル 子猫と暮らし「命守りたい」

   元「アイドリング!!!」のメンバーで、現在女優として活動している後藤郁(かおる)さん(23)。実家は牧場で、動物たちに囲まれて育った。その実家でかわいがっていた犬が昨年末、急死。その悲しみから前を向かせてくれたのは、東京で一緒に暮らす子猫だった。

(末尾に写真特集があります)

 東京・国立市の写真スタジオ。後藤さんはペット用リュックを背負って現れた。口を開けると、元気な子猫が顔をのぞかせる。サビ柄の長毛猫。物怖じすることなく部屋の探検をはじめた。

「ダージリンです。推定9カ月の女の子ですが、新婚みたいにイチャイチャしてます」

愛嬌たっぷりなダージリン
愛嬌たっぷりなダージリン

沖縄から来た子猫

 愛猫ダージリンとは、昨年10月、埼玉県の保護猫カフェ「ねこかつ」で出会った。

「知人がボランティアで、沖縄で保護された猫を東京に運ぶという話を聞き、羽田空港まで駆けつけました。その時の子たちは、すぐにもらい手がついたのですが、次に来た子たちが『ねこかつ』に預けられたので、会いに行ったんです」

   その中にダージリンがいた。兄妹の中でいちばん毛色が濃かった。後藤さんはそれが気になったという。

「毛が黒っぽいと、もらわれにくいって聞いたことがあるんです。だったら『私のとこにおいで!』と思いました」

   ダージリンは家にやって来た初日こそケージの隅に隠れていたが、すぐに慣れ、翌朝には隣で寝ていたという。「誰? みたいな感じで(笑)。度胸のある子なんですよ」

初日から寝るのも一緒(後藤郁さん提供)
初日から寝るのも一緒(後藤郁さん提供)

動物に囲まれて育つ

 後藤さんは大分県出身。実家は和牛の牧場を経営していた。子どものころから、牛や犬、猫に囲まれて育った。今は都会で1人暮らしのため、犬を飼うのは難しい。飼うなら猫。しかも行き場のない子を「救いたい」と思っていた。

   そんな時に出会った“運命”の相手が、ダージリンだった。

「私の家は山の上。牛が100頭くらいいて、牛を守るための番犬や、猫もいました。ほとんどが、近所に捨てられてた子たち。多い時で犬5頭、猫2匹飼ってました。夜中、門の前に犬や猫が置いていかれるんです。朝起きると、門の前に段ボールだけ残っていて、イノシシやイタチ、フクロウなど野生動物に連れ去られることもよくありました」

小学生の頃。牛舎の番をしたミントと(後藤郁さん提供)
小学生の頃。牛舎の番をしたミントと(後藤郁さん提供)

山で産まれた野良犬

 多くの動物をかわいがってきた後藤さんだが、特に思い入れがある犬がいたという。名前は「ジャックバウアー」。雑種の番犬だ。

「私が小学校6年生の頃に、隣の山で生まれた犬です。兄妹はもらわれたのに、彼だけ家族が決まらず、殺処分の対象になると聞いて、両親に土下座して『助けたい』と頼んだんです。どんなことがあっても生き延びられるように、逆境に強い、有名な海外ドラマの主人公の名前を付けて、しつけも自分でしました」

 後藤さんは2年後、芸能プロのオーディションに合格。2010年にアイドルグループ「アイドリング!!!」に参加した。故郷から離れても、頻繁に実家に連絡して、ジャックバウアーの様子を気にかけていたという。

 2014年に「アイドリング!!!」を卒業し、休養のため、1年ほど実家に戻って生活した。

「自分の将来を考えながら、ジャックと朝昼晩と山を散歩しました。あらためて動物って純粋でいいなって思いましたね。芸能界に戻って、少し気持ちの余裕ができて、猫を飼いたいと思えたのは、ジャックのお陰かもしれません」

小学生の時に「救いたい」と家に迎えたジャックバウアー(後藤郁さん提供) 
小学生の時に「救いたい」と家に迎えたジャックバウアー(後藤郁さん提供) 

まさかの別れ

 ところが、昨年末、思いがけない出来事が起きた。

   年末から正月にかけて長い休みが取れた後藤さんは、初めてダージリンを連れて実家に戻った。

「家に着いたのが、深夜でした。『ただいま』って言ったら、ジャックが「ワンワン(お帰り)」と暗闇から返事をしてくれました。それで『散歩は明日ね』と言って、ダージリンと休んだんです」

   だが翌朝、ジャックバウアーのそばに行くと、すでに動かなくなっていた。

「なぜ? 私が帰るのを待ってたの? 驚き過ぎて、涙も出ませんでした」

   家族によると、ジャックバウアーは13歳ではあったが、前日まで変わった様子はなかった。後藤さんは突然の死を受け入れられず、家族がお墓を作った後も、いつもいた場所に何度も足を運んでしまったという。

 実感がわいたのは、東京に戻りしばらくたってからだった。

「東京の自宅で、夜中に号泣したんです。ダーちゃんを連れ帰ったからいけなかったのか。それとも、ダーちゃんがいることがわかって、『かおるはもう大丈夫』と安心してジャックは天に昇ったのか。いろいろ考えました。幼い頃から、大好きな牛を市場に見送るなど、別れは人一倍経験してきているけれど、ダメージが大きかったです」

 後藤さんはジャックバウアーのことをSNSでもよく紹介していた。しかし、その死はすぐに伝えることができなかった。2カ月ほどして、やっと人に話せるようになったという。

「今も思い出しますが、彼の“元気な姿”をイメージしています。十分生きて、十分に牛や家の番もしてくれたなって感謝しながら……」

   ようやく前を向けたのは、愛猫ダージリンがいたからだという。「責任を持って、この命を守っていかなきゃ」

 後藤さんは女優として一歩一歩進みながら、愛するダージリンを通して、「保護猫の存在を広く伝えたい」と思っている。

(撮影:上村雄高)

後藤郁さんのインスタグラム 

藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は19歳の黒猫イヌオと、5歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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この連載について
ペットと人のものがたり
ペットはかけがえのない「家族」。飼い主との間には、それぞれにドラマがあります。犬・猫と人の心温まる物語をつづっています。
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