地震、盲導犬に救われた 凸凹に波打ち陥没した歩道避けて誘導

ワクの背中をなでる廣田秀人さん。「もし避難するとしても、一緒にいれば心強い」=札幌市南区の北海道盲導犬協会
ワクの背中をなでる廣田秀人さん。「もし避難するとしても、一緒にいれば心強い」=札幌市南区の北海道盲導犬協会

 北海道胆振東部を震源とする地震で、札幌市では道路が陥没したり、ひび割れたりした。道路の安全が保てないと外出がままならない視覚障害者は、特に大きな影響を受けた。盲導犬を利用する男性は、9月6日の地震発生から数日間、どんな体験をしたのか。

紛れた不安「感謝しかない」

 札幌市北区の廣田秀人さん(52)はあの日未明、揺れがおさまるとまず、ラブラドルレトリバーのワク(雄、6歳)の様子を見に居間へ。いつも通り、落ち着いた様子で寝ているのを確認してひと安心した。天井の常夜灯が消えたことで、停電を知った。

 廣田さんは病気が原因で右目の視力を失った。左目の視力は0.02ほどだ。4年前に貸与を受けた盲導犬ワクと、集合住宅の2階で暮らしている。

 被害は停電だけではなかった。朝、叔母からの電話で、自宅近くの道路が壊れているから外出は危ないと聞かされた。自宅のコンロは電気式だが、カセットコンロがあるからカップめんくらいは食べられる。水も十分にある。家にいたほうが安全と考え、この日は一歩も外に出なかった。夜には電気が戻った。

 7日は約1.2キロ離れた作業所へ、迎えに来てくれた同僚と向かった。信号が復旧した8日は、散歩に出ることにした。道のりは普段の半分の約1.5キロ。ワクを伴って、ゆっくりと歩き出した。

 散歩の時はいつも通る自宅近くの道。建物のある右側を歩いていたワクは真っすぐに進まず、車道に近い左側へ踏み出した。廣田さんは不思議に思いながら、ワクに誘導されるまま回り道した。長さにして、3、4メートルという感覚だった。

 気になってその日の夕方、自宅に来たヘルパーと買い物に出た際、歩道がどうなっているのか聞いてみた。「舗装が凸凹に波打っていて、一部は陥没しています」。そう教えてくれた。そうか、だからワクはよけたのか――。

 思えばこれまで、何度もワクに救われてきた。横断歩道では、並行車線の車が走り出す音を聞いてOKのサインを出し、ワクが歩くのを確かめて歩き出す。歩行中は、危険を察知すると止まるように訓練されているワクは、車が突っ込んできたり、自転車が急に前を横切ったりするたび、ぴたっと止まってくれた。

 廣田さんが「速く歩きたい時も、もさもさ歩く」というマイペースなワク。ただ、今回の地震では、なでたり話しかけたりしながら過ごしたことで不安がどれほど紛れたかわからない。「いつもきちんと仕事をしてくれてありがとう、という気持ち。感謝しかない」

 避難所には行かずに済んだが、視覚障害者の知人と話すと、避難所で過ごす難しさを感じる。何をするにもだれかにお願いしないといけないし、犬のトイレの世話もあり、気を使うから行かないという人が多いという。それでも今後いつ、避難が必要な災害に遭うかわからない。避難所までの道を覚え、ワクに教えておこうと考えている。

「支援必要な人に、ひと声かけて」

 北海道盲導犬協会(札幌市)によると、地震発生当日、同協会が育てた道内の盲導犬の利用者49人と連絡が取れ、全員の無事が確認できた。避難所を利用した人もいなかったという。

 同協会の和田孝文・訓練所長は「盲導犬利用者らに避難所の場所が知らされているか、いざという時行く準備ができているか、協会としても確認中だ」。その上で、1人で避難所に行けない場合も考え、「普段から地域とつながりを持つことが大事になる」と指摘する。

 さらに避難所での情報伝達について、「目の不自由な人の場合、掲示板に文字を貼り出す方法では情報を得られないことがある。支援が必要な人には、そばにいる人がひと声かけてほしい」と提案する。(片山健志)

朝日新聞
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