野生化した猫も元飼い猫 「森ネコ」と呼び、都内で飼い主探し

 猫が野生化して、山や森に住み着き、希少な野鳥や小動物を食べてしまう。そんな「ノネコ」(野猫)も、もともとは人に飼われていた存在。捨てられ、逃げ出して増えてしまったのだ。「ノネコ」という呼び名や害獣扱いをやめて、「森ネコ」と呼んで、引き取って飼う人を探せないか。そう考えて、伊豆諸島の御蔵島で、ボランティアで保護活動を始めた人たちがいる。

(末尾に保護された「森ネコ」たちの写真特集があります)

 東京・祖師ヶ谷大蔵のGallery Pawpadで、「御蔵島の森ネコ写真展~森からやってきた、愛すべきネコたち~」が11月4日(日)まで開かれている。この写真展のもとになった御蔵島の森ネコを保護活動をしているのが、団体職員の長谷川潤さんと、ドルフィンスイムのガイド・草地ゆきさんだ。

たくさんの捕獲器を持って、森の中へ入る長谷川さん
たくさんの捕獲器を持って、森の中へ入る長谷川さん

「森ネコ」と名付けたら

 ノネコはイエネコ(飼い猫)が野生化し、「法律上、害獣として駆除の対象」になる猫のこと。人里に住む、いわゆる「野良猫」とは区別され、山や森、特に日本では島の森林に住んで、希少な野鳥や小動物を食べてしまうと問題になっている。なんと国内と世界の「侵略的外来種ワースト100」にも入っている。

 とはいえ、ノネコも元々は人に飼われ、愛されていた。それが捨てられ、逃げ出して増えてしまったにすぎない。自然も守りつつ、ノネコたちも守れないか? 森から保護して連れ出し、里親さんを探せないか? まずは、この害獣の意味合いがあるノネコという呼び名をやめて、「森ネコ」と呼んだらどうだろう? 長谷川さんはこう考えた。

家になじんだポルカと長谷川さん=撮影:小林三枝子
家になじんだポルカと長谷川さん=撮影:小林三枝子

保護された猫との出会い

 20年ほど前から、長谷川さんはイルカと泳ぐために御蔵島に通っていた。だが、東日本大震災が起き、被災動物の保護のために東北に通うため、しばらく島へは行けなかった。2015年に久しぶりに島へ行った時『オオミズナギドリを食べてしまうノネコの里親を募集します』というポスターが貼ってあるのを見かけたという。

「うちにもう1匹猫が欲しいな、せっかくなら縁ある御蔵島の猫を飼おう、と思っていろいろ調べていくうちに、2016年5月に御蔵島から新宿の動物病院に連れて来られていた1匹の雄のキジトラに出会いました。その時はまだ完全に人馴れしていなくて無理かな? と思ったものの、その後、動物病院から「かなり馴れてきましたよ」と連絡があり、7月に家に迎え入れました。それがポルカです」

うっそうと茂る森に入る草地さん
うっそうと茂る森に入る草地さん

森ネコの捕獲に乗り出す

 御蔵島の猫ポルカを家族に迎えたことで、長谷川さんは「大好きな御蔵島のために自分も何かできないか?」と考えるようになった。そこで御蔵島の森ネコを知ってもらうための情報発信を草地さんと一緒にボランティアで始めた。活動するときの肩書は「御蔵島のオオミズナギドリを守りたい有志の会」だ。

 実は御蔵島は、主に東アジアの離島で繁殖する野鳥オオミズナギドリの世界最大の繁殖地。この鳥は地面に穴を掘って巣を作り、卵を産んで子育てをする。空では自由に飛び回るが、地表に降りると動きが遅く、すぐに飛び立つことも出来ないため、森ネコたちの格好の標的となってしまうのだ。

 御蔵島では2005年に行政が対策に乗り出し、TNR活動(捕獲して不妊去勢手術を施して元の場所に戻す)をしてきた。2015年からは捕まえた森ネコを内地に移送して譲渡先を探す事業も行っている。

捕獲した猫を背負って運ぶ
捕獲した猫を背負って運ぶ

「はじめは先に活動されてる方のサポートができればと考えていたのですが、昨年度は村役場の委託という形で、自分たちで捕獲器を仕掛け、森ネコの捕獲を行いました。今年度は食性を調べている研究者との相互協力という形で、森ネコを捕獲しています。多くは内地に連れてきて引き取り手を探し、一部は繁殖抑制のための手術を施して森に帰しています」

 長谷川さんたちは御蔵島で2017年8月からこれまでに40匹ほどの森ネコを捕獲。森ネコたちは長谷川さんの自宅で人に馴らす訓練をし、譲渡先を探すほか、御蔵島村に協力している都獣医師会所属の動物病院に託したり、不妊去勢手術を施して森に帰したりする。

 また東日本大震災での被災動物レスキュー活動で知り合った、杉並区の保護団体「高円寺ニャンダラーズ」に託して飼い主を募っている。

引き取られた元森ネコの「ロク」=撮影:大串哲
引き取られた元森ネコの「ロク」=撮影:大串哲

自宅で世話して譲渡先探し

 現在、譲渡を待つ森ネコは15匹。そのうち10匹は長谷川さんが自宅で世話をしている。人に馴れにくいと思われがちだが、それは誤解だという。

「最初はシャーッ、フ~~ッでも、どんどん人馴れしていきます。うちのポルカも御蔵島から内地に運ばれて来た時には、シャーッだったそうですが、今ではどんな人や猫とも仲良くなることができます。うちには東日本大震災の被災地、宮城県石巻市で拾われた先住ネコのミナモがいましたが、ミナモとポルカも大の仲良しになりました」

「御蔵島の森ネコ写真展」で展示されている、森に仕掛けた無人カメラが捉えた映像には、捕獲器に入った森ネコの前で別の森ネコがずっと見守るように座り、見つめ合う姿があった。写真展にはすでに新しい家に引き取られ、安心しきった表情を見せる元・森ネコたちの姿もたくさん展示されている。どの子たちも可愛さ爆発だ。

 森ネコの問題は、御蔵島に限らず、小笠原諸島や北海道の天売島などにもあり、行政や住民が協力して森ネコの保護活動をしている。また奄美大島のように、殺処分を選択肢に入れた対策を標ぼうしている地域もある。島の森深くに住み、人とは隔絶して生きる森ネコたち。写真展を通じて、まずその存在を知って欲しい。

和田靜香
主に音楽と相撲を書くライター。音楽評論家・作詞家の湯川れい子さんのアシスタント時代、事務所に猫と犬がやって来て共に日々暮らして以来の猫・犬好き。主な著書に『スー女のみかた~相撲ってなんて面白い!』や『東京ロックバー物語』などがある。

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