広がる「地域猫」活動、続く模索 猫に抵抗感が強い住民も

飼い主のいない猫が空き地に集まっている=福岡市南区、住民提供
飼い主のいない猫が空き地に集まっている=福岡市南区、住民提供

 飼い主のいない猫に不妊・去勢手術を施し、地域で育てる「地域猫」活動が福岡県内各地で広まっている。自治体から支援が得られ、殺処分も減るなど一定の成果が出ている。ただ、猫に対して抵抗感の強い住民もいて、地域の模索は続く。

野良猫が大繁殖、餌やりルールを導入

 野良猫と違い、住民らが周辺住民の理解を得たうえで世話をするのが地域猫だ。餌やりやトイレなどのルールを決めて、地域猫となった猫には不妊・去勢手術を施す。

 9月中旬、福岡市南区のある地区で市が開いた、地域猫活動の説明会には住民18人が集まった。

 この地区では野良猫に餌をやる家が複数あり、猫が大繁殖。20匹以上がごみをあさったり、庭や花壇を荒らしたりと住民を困らせていた。

時間になると、住民らが設置した餌場に猫が集まってくる=福岡市南区、住民提供
時間になると、住民らが設置した餌場に猫が集まってくる=福岡市南区、住民提供

 住民の一人の女性(54)は今年6月、市に相談。さらに回覧板を使って住民に呼びかけ、話し合う場を持った。猫に餌をやっていた住民とも話をして、「餌やり場とトイレを置く」「餌やりは朝夕2回に固定し、餌をやる人も限定する」などのルールを決めた。

 説明会では、ある女性が「他の地域から猫がやってくるのでは」と質問。市の担当者は「猫が来ても餌をやらなければ居着くことはありません」と答えた。事前に住民らが配ったアンケートで地域猫活動に賛成する回答は8割を超えたことが報告された。

 毎日のように庭にフンをされて困っていたという60代の女性は「トイレが設置されてから、ほとんど被害がなくなった」と話す。自宅に猫用トイレを置いてもかまわないと申し出る人も現れた。

地域猫活動が始まれば、不妊・去勢費用を市が負担も

 地域猫への行政の支援は、野良猫が増えてフンなどに悩まされる状況を改善しようと、横浜市や東京都の一部地域で2000年ごろから始まった。

 福岡市では09年からスタート。要望があった地域で市が説明会を開いている。住民の合意を得て、地域猫活動が始まれば、通常1万~3万円の不妊・去勢手術を市が全額負担。耳の先をカットして野良猫と区別する。県も14年から同様の支援を始めた。

市が不妊・去勢手術を施した地域猫は、耳をV字にカットする。オスは右耳を、メスは左耳をカットし、雌雄もわかる仕組みだ=2010年、福岡市家庭動物啓発センター提供
市が不妊・去勢手術を施した地域猫は、耳をV字にカットする。オスは右耳を、メスは左耳をカットし、雌雄もわかる仕組みだ=2010年、福岡市家庭動物啓発センター提供

 県などによると、地域猫活動に取り組んでいるのは今年3月時点で20市町131地域。地域猫は3千匹を超えるという。

 その効果は猫の殺処分数に表れている。福岡市では活動が始まる前の08年には2734匹だったが、17年には314匹まで減った。殺処分されていた大半は子猫。不妊・去勢手術で子猫の数が減った影響が大きいとみられる。

地域猫活動は「全員が納得するまで説明を」

 しかし、難色を示す声は残る。地域猫活動に取り組む南区の地区に住む70代の女性は、地域猫に反対だ。家の敷地内に入り込んだ猫が畑を荒らすという。「かわいそうだけど、殺処分するほうが確実」。女性は説明会には参加しておらず、市の職員やほかの住民らに相談できていない。

 「とにかく周知を徹底することが大切です」。住民に活動を説明した市家庭動物啓発センターの上田英弘所長(47)はアドバイスする。地域で活動への理解が足りないと「野良猫に餌をやっている人がいる」と苦情が増え、対立が深まることもあるという。「住民全員が納得するまで、繰り返し説明することが大事です」

 地域猫活動を支援する一般社団法人「博多ねこ99ネットワーク」の木本美香代表理事(56)は、地域猫のルールを決めても、守らない人もいると話す。「『餌やり=悪いこと』というイメージは根強い。だからこそ、世話をする人は厳しくルールを守るとともに、ルールを守っていると知ってもらわないといけません」

朝日新聞
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