最愛の犬を看取った夫妻 小さな猫に癒され、支えられる

 長年夫婦に寄り添った愛犬がこの春、老衰で他界した。その時、小さな猫が、意外な行動をして、残されたものたちの心を癒やしてくれた。その猫が今は家族の中心的存在になりつつある。

(末尾に写真特集があります)

 都心の住宅街に建つ7階建てマンション。リビングで白黒模様の猫が、“いらっしゃい”とでもいうように人懐こく迎えてくれた。その横には白いモフモフとした小型犬がいる。

「猫は、『びみゃあ』という名で4歳。犬はLana(ラナ)。ボロニーズという種類で14歳です」

 飼い主の山田さんが説明してくれる。

「『びみゃあ』は白黒柄なので、2色配色を意味するビコロール(ビコロミア)をヒントに命名しました」

小柄だが存在感のある「びみゃあ」と、ラナ (庄辛琪 撮影)
小柄だが存在感のある「びみゃあ」と、ラナ (庄辛琪 撮影)

 部屋の奥にロウソクと花が見えた。尋ねると、今春、飼っていた老犬が亡くなったのだという。

「音絽(ネロ)君の祭壇です。いなくなって数カ月経つけど、主人がとてもかわいがっていて、今もおやつをたくさん買ってくるんです」

 山田さん夫妻は結婚30年。子どもはおらず、仕事をばりばり続けている。結婚15年が経った頃、はじめて家族として迎えたのが日本テリアのネロだった。

「日本犬が飼いたいと思ったんですが、当時は地方に住んでいて、仕事で遅くなると辺りが真っ暗で夜の散歩にいかれなくて。それで、柴犬などに比べて運動量が少なく、匂いが強くなく、賢い犬っているかな、と探すうちに日本テリアにいきついたんです」

 ネロは頭がよく、人の言葉がよくわかったという。無駄吠えも一切せず、夫妻は夢中になった。

 ネロの妹分として、1年半後に迎えたのがラナだ。ラナはネロを見習って吠えない犬に育った。夫妻が仕事で留守にする日中、2匹は仲良く留守番をしていた。

ラナに寄り添う在りし日のネロ君(右上)兄妹のような関係だった
ラナに寄り添う在りし日のネロ君(右上)兄妹のような関係だった

偶然の猫との出会い

 山田さんは8年ほど前、たまたま街で子猫を保護した。

「猫って野生のイメージがあったし、それまで目が行かなかったんですが、ラナを病院に連れていく時に、たまたま白い子猫を見かけて。帰宅する時、まだいたので手を伸ばしたら乗ってきたので、連れ帰ったんです。『君が猫を拾うなんて』と主人もびっくりしていたけど」

 その子猫を2か月ほど家に置いて世話をしたあと、知人に譲ったが、抱いた猫の感触や可愛さが印象に残り、山田さんは猫に興味を持った。

「犬のトリミングをしているサロン(ミグノン)がシェルターを持っていたので、ツイッターを見るようになって。ある時、『え!』と思うくらい可愛い保護猫の写真がありました。それが『びみゃあ』(当時の名はアダム)です。譲渡会に行ったら、実物は写真で見たよりも陰気な感じだったな(笑)。でも何か縁を感じて、申し込んだんです」

おもてなし上手な「びみゃあ」 取材中に膝に乗ってきた(庄辛琪 撮影)
おもてなし上手な「びみゃあ」 取材中に膝に乗ってきた(庄辛琪 撮影)

夫になついた猫

 トライアルに来た時、猫は1歳足らず。エイズキャリアだったが、「犬には感染しない」と前向きに考えた。夫も賛成したが、「びみゃあ」を見て「これ猫としてイケてないよ。耳が小さすぎて、額が狭くて、短足で、怪獣ギャオスだ」といい、〈びみゃあ・ギャオス・ヤマダ〉とふざけて呼んだ。それでもなぜか、「びみゃあ」は先に夫になついたという。

「最初の頃は、触るとビクビクしたり猫パンチしたりしたんですが、主人が帰宅すると、目を輝かせてニャーと子猫みたいに甘えだした。主人のベッドで喉を鳴らしながら、よだれまでたらす(笑)。主人がいない時には、仕方なく私の膝に乗ってあげるって感じ」

 生活するうちに、「びみゃあ」はどんどん心を開いた。お客さんにも愛想がよく、大勢の人が来ても、そばで仰向けに寝るようになったという。

 猫のイメージとは違うこともあった。

「猫ってみんな運動神経がよいと思っていたけど、『びみゃあ』は3段ケージの上から、ドン、ドンって音を立てて降りて、(プラスチック製の)台を割っちゃった。それで主人が木製のステップを作り直したんです。こんな猫もいるんですねえ」

好きな場所はパパのお腹 憧れた視線を送る
好きな場所はパパのお腹 憧れた視線を送る

家族に寄り添う猫 

 今春、愛犬ネロが旅立った時にも、山田さんは驚いたという。

「ネロは休日、私の腕の中で亡くなったのですが、床に寝かせると、『びみゃあ』とラナがネロの匂いを嗅いでその口元を舐めました。その後、『びみゃあ』がラナに近寄り、口元をぺろぺろ舐めはじめました」

 いつもは『びみゃあ』が“おねえちゃん、ここ舐めて”というようにラナの顔の前に自分の口を突き出し舐めてもらっていたそうだ。その“逆”を見るのは初めてだったという。

 猫が仲間の口元を舐めるのは、大きな愛情表現だともいわれる。その行動に、悲しみにくれる山田さんの心がほっこり和らいだ。

「残されたラナに気遣いをしたのかな。ちょっと見直しました。ちっこくても、実はいろんなことをわかっているのかもしれない」

 ラナも高齢で腎臓が悪い。自宅でも点滴などケアをしている。夫妻が仕事で家をあける平日の日中は、「びみゃあ」と一緒に留守番をしている。「びみゃあ」がいるのでラナも安心しているはず、と山田さんはいう。

「みんなが今日も『びみゃあ』に励まされている。主人もこの頃は怪獣ギャオスではなく、ちゃんと名前で呼ぶようになったんですよ」

 家族から信頼された「びみゃあ」。家族の絆はますます深まっていきそうだ。

藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は19歳の黒猫イヌオと、5歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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この連載について
ペットと人のものがたり
ペットはかけがえのない「家族」。飼い主との間には、それぞれにドラマがあります。犬・猫と人の心温まる物語をつづっています。
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