猫は対等な命 保護猫5匹と暮らす「ブンゴー」福井晴敏さん

『亡国のイージス』『終戦のローレライ』などで知られるベストセラー作家・福井晴敏さん(49)。『機動戦士ガンダムUC』の原作や『宇宙戦艦ヤマト』最新作など国民的人気アニメの現場でも活躍する。実は、あまり知られていない顔がもう一つ。行き場のない猫たちを保護して新しい飼い主との縁をつなげる「保護猫カフェ」を支援し、自身も野良出身の5匹の猫と暮らす愛猫家としての姿だ。

(末尾に写真特集があります)

 福井さんと猫たちとの生活が始まったのは、約6年前のこと。淡水魚などを除けば、幼い頃に実家にいたシーズー犬以来のペットだったという。最初に飼い始めたのは、近所で目立っていたボス的な存在の野良猫、その名も「ノララ」君(推定9歳)。よく香箱座りでたたずんでいたので、当時の呼び名は、「スフィンクス猫」。

「カミさんと幼稚園児だった息子が、なつかせて家の前まで連れてきたんですが、俺の仕事場の窓で、『寒いから入れてくれ〜』と催促してくるようになったんですね。入れてやると勝手知ったるわが家のように寝て、温まると出て行く。うちに入るタイミングを計って押しかけて来るようになり、近所の方からもオブラートに包んだ苦情を受けるに至ったので、『お前、うちの子になるか?』と」

 

“始まりの猫”、「ノララ」君。左で寝ているのは「ユララ」ちゃん(写真提供:福井晴敏さん)
“始まりの猫”、「ノララ」君。左で寝ているのは「ユララ」ちゃん(写真提供:福井晴敏さん)

 しかし、野良猫を家の中で飼えるようにする方法がわからなかった。家族会議の結果、近所にある保護猫カフェ「CATS&DOGS CAFE」に教えを請うことに。

 店長・吉田智代子さん(50)のアドバイスで、ノミや寄生虫を駆除し、血液検査や予防接種を受け、マイクロチップも入れてもらう。こうして「福井家の猫っぽかった猫」は、正式に「福井家の猫」になった。

「猫のことはよく知らなくて、人とコミュニケーションが取れる印象がなかったんです。でも飼ってみると、考えていることがわかる。ノララは『このまま外で生き続けたら、そんなに長くないだろうな』と自分でわかっていて、いくつかの選択肢の一つとしてわが家に来る判断をしたんだろう、とか。福井一家と会ってみて『この家なら大丈夫』と思ったんじゃないかな」と福井さん。 

捨て猫、野良猫……家族に迎え続け、すっかり愛猫家に

 こうしてCATS&DOGS CAFEとの交流が始まり、2匹目は店から迎える。生後すぐに段ボール箱に入れられて遺棄されていた猫「アララ」ちゃん(6歳)。

 3匹目の「ユララ」ちゃん(推定9歳)は、再び福井さん夫妻が保護した野良猫。発見時、足を引きずって歩いていたという。一度は店で飼い主募集をしてもらうものの、やはり迎え入れることに。人に心を許すまで、飼い始めから4年近くかかった。

「ノララ、アララ、ユララ。似た名前を付けていたら、猫たちが、だんだん自分が呼ばれているとわからなくなってきたみたいで(笑)」

 4、5匹目は名付けの法則を変えて、「ミスター」君と「ドーナツ」君(ともに2歳)。生後2日でボランティアさんに救出され、生死の境をさまよっていた兄弟猫だ。吉田さんと福井さんの妻とで通院を続け、体調が安定し始めた離乳期に福井家で夜間のお世話を申し出る。そして「情が湧いて返せなくなった」。

Tシャツの猫は、福井さんの息子さんが幼稚園児だったときに描いたもの
Tシャツの猫は、福井さんの息子さんが幼稚園児だったときに描いたもの

 5匹の猫の飼い主となった福井さん。執筆中は猫たちと別々に過ごすが、合間にいっしょに遊んだり、ブラッシングしたり、おもに“可愛がり”担当。「愛猫たちはどんな存在?」という問いに、「『命to命』みたいな付き合いができる動物」と答える。

「感覚的には、人と同じ空間にいる対等な生き物ですね。たまたま居着いた野生の動物で、人間社会に完全に組み込まれてはいないし、自分の都合を優先して生きている。けれど、こっちがどう思っているかチラチラと気にして判断するようなところはある。そこがまた人間っぽくて、おもしろいですね。もっと『人にどう思われてもいいや』という感じの動物かと思っていたんですが」 

人も猫も生きづらい 子猫の猫カフェデビューを支援中

 現在、CATS&DOGS CAFEには、吉田さんがお世話をする乳飲み子猫が4匹。1匹1匹には、譲渡までの仮名の名付け親となり、ワクチン代などの医療費を負担する支援者=“パトロン”が付いている。

 うち1匹のキジトラは、福井さんがパトロンだ。直感で付けたという名は、「わさびマヨ」君。乳飲み子猫の体調はときに急変することもあるが、順調に育てば6月に猫カフェデビューし、新しい飼い主さんとの出会いを待つことになる。

 

つぶらな瞳のキジトラ、「わさびマヨ」君
つぶらな瞳のキジトラ、「わさびマヨ」君
 

 愛猫との出会いをきっかけに、保護活動をする人たちとの関わりを深めていった福井さん。いま、吉田さんや店のボランティアさんたちに、親しみを込めて「ブンゴー」の愛称で呼ばれている。

 福井さん夫妻が保護に協力し、店を通じて譲渡された猫たちもいる。そのうちの1匹は、片足を失った純血種のベンガルだった。

「何げない風を装って近づいて捕まえようとしたけど、あと一歩のところでダメだった。俺の手で捕まえられず、くやしかった」と福井さん。

 その後、捕獲器も設置したが、気合を察知されてしまったのか失敗。最終的には近所の方が手なずけ、福井家へ連れてきてくれた。ベンガル特有の野性的な見た目から、福井さんが付けた仮の呼び名は「ガルル」君。今は新しい飼い主のもとで名を変え、穏やかに暮らしているそうだ。

「野良猫というのはその辺にいるもので、風景の一部だった。けれど近代化によって家と家との風通しが悪くなり、猫たちも生きづらくなっている。人間にもそんなところがあるけれど、お互い大変だなと」

 猫の命のはかなさに沈鬱することもある。

「よく遊びに来ていたのに、ある冬、突然姿を消してしまった野良猫がいて」。だからこそ、ケガをしていたユララちゃんを見つけたときは急いで保護を試みたという。

 置かれた状況の中で葛藤する人々と、その命を描いてきた“ブンゴー”。猫を保護し、命をつないでいく活動について、実感を込めてこう語る。

「路上に子猫が10匹いたら10匹救ってあげたいというヒューマニズムと、一方で10匹にそのまま成長されてしまったら困る、という対極の思想がある。人間社会が作り出した環境の中で、どう折り合いをつけて落着させるかを考えたら、一つの方法として、こうした活動が必要なんでしょうね」

文/本木文恵
写真/上村雄高

福井晴敏(ふくい・はるとし)
作家。『亡国のイージス』『終戦のローレライ』など、映画化された作品多数。『機動戦士ガンダムUC』の原作者としても知られる。シリーズ最新作『機動戦士ガンダムNT(ナラティブ)』は11月公開予定。また、シリーズ構成を務める『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』(全七章)の最新作、第五章「煉獄篇」は5月25日より全国35館にて上映。
『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』 http://yamato2202.net/
『機動戦士ガンダムNT』 http://gundam-nt.net/
CATS&DOGS CAFE
2010年、東京都墨田区に開業した保護猫カフェ。店主自らも野良猫のTNRや保護を行い、新たな飼い主との縁をつないでいる。多頭飼育崩壊の現場や動物愛護センターなどから犬の保護も行う。
東京都墨田区向島5-48-1
公式HP http://cats-and-dogs.cafe/cafe/
ブログ https://ameblo.jp/cats-dogscafe/
本木文恵
1983年生まれ。フリーランスの編集者・ライター。1級愛玩動物飼養管理士。猫雑誌の編集部に約8年在籍し、猫に関する取材、書籍やムック制作を行う。2017年に独立。編集を担当した近著に『保護ねこのきもち(ベネッセ・ムック)』など。愛猫はキジ白と茶白の2匹。
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