「一匹でも救われるきっかけになってほしい」 殺処分をテーマにした絵本、全文公開 

悲しげな犬のイラスト
絵本「ねえ、だれかおしえて」(愛育出版)から

 ペットの殺処分をテーマにした絵本「ねえ、だれかおしえて」(愛育出版)が出版された。表紙絵は、悲しげな表情で後ろを振り向く犬。出版を企画した動物病院経営の藤田弘一さん(57)が、保護動物の収容施設で見てショックを受けた犬の姿に重なる。藤田さんは作品を通じて、「これ以上死なせないためにはどうしたらいいか」を考えてもらいたいと願う。

(末尾に写真特集があります)

悲しげな犬の姿を見て

 絵本の主人公はペットの犬。子犬のころは飼い主からかわいがられたのに次第に相手にされなくなる。ある日、久しぶりに散歩に連れ出された。でも向かった先は……。最後に意識が遠のく中、「ボクなんで、このお部屋に入らなければいけなかったの? ねえ、だれかおしえて」――。

 藤田さんは獣医師の資格は持たないが、獣医師を雇って、妻と東京都八王子市内で永井動物病院を営む。併せて動物の命を守る活動を長く続けており、ペットに関する本の企画などを手がけてきた。

絵本「ねえ、だれかおしえて」と、企画した藤本弘一さん
殺処分をテーマに企画した絵本を持つ藤田弘一さん

 藤田さんが絵本の企画に取り組むきっかけは約3年前だった。経営する病院そばにペットホテルを併設するため、都動物愛護相談センターに申請に行った。そこで偶然、保護された犬のぽつりと悲しげな姿を見て胸が締め付けられた。不要になったペットなどを殺す殺処分を連想した。

「一匹でも救われるきっかけに」

 藤田さんの住む都内では、行政と支援団体などが協力して収容した犬猫の新たな飼い主への譲渡などに努め、2018年度に殺処分ゼロを達成していた。だが、全国的にはまだ、保護後の自然死などを含めて同年度だけで約3万8千匹が処分されている。

 藤田さんは自身の動物病院などでの経験から、「ペットには感情がある。人間と同じく魂を持つ」と感じてきた。その死を人間が一方的に決めていいのか、と疑問を持った。特に子供たちに考えてもらいたいと絵本づくりを思い立つ。知人で作家のよこたひさしさんに物語を書いてもらい、絵本作家のそうだゆうこさんに絵を頼んだ。

 子ども向けの絵本でペットの殺処分まで描いたことについて、藤田さんとよこたさんは物語の後に解説文を書いた。「悲しい犬が一匹でも救われるきっかけになってほしい。そう思い、ありのままの悲しい結末を絵本にしました」

子どもたちに伝えたい

 初版は1200部で、インターネットを通じて販売した。さらに、国内に約1500万人いる15歳未満の子どもたちの1人でも多くに、物語を通じて考えてもらいたいと、絵本の出版元とも相談のうえ、夏休み時期に合わせてのインターネット公開を決めた。

 藤田さんは「一人でも多くの子供に殺処分について考えてもらいたい」と話している。問い合わせは藤田さん夫婦が経営する永井動物病院(042-664-0123、または、042-663-4600)まで。

(山浦正敬)

絵本「ねえ、だれかおしえて」全文

 みんな、犬は好き? ボクの飼い主さんも、はじめは大好きでいてくれたんだ。

 仔犬の頃は、たくさん遊んでくれて、頭やからだをいっぱいなでてくれた。とってもやさしくて、しあわせだったんだ。こんな日がずっと続けばいいなって。

抱っこされる犬のイラスト
絵本「ねえ、だれかおしえて」(愛育出版)から

 でもね、この頃家族のみんなが、あんまりボクを見てくれないんだ。何か悪いことをしちゃったのかな? だからボクのこと、きらいになっちゃったのかな……。

 そんな時、ひさしぶりにパパが近くに来てくれたんだ。とってもうれしかった。ボクはすぐに、「あそんでっ!」って言ったんだ。でもパパは、ボクがつながれた鎖をゆっくり持ち上げて、「行こう……」って言った。

うれしそうな犬のイラスト
絵本「ねえ、だれかおしえて」(愛育出版)から

「どこ行くの?」「ママやみんなは?」って言ったら、パパは、「ごめんな」って頭をなでた……。どうしたの? それでもボクは、「久しぶりにおでかけだっ!」と思って、よろこんでパパの横を歩いたんだ。

 でも、ここはどこだろ? 着いたところは、はじめて来る場所だった。

 いくつかあるお部屋には、ボクの知らない仔たちがたくさんいた。パパは、ボクの鎖を引き、そのお部屋の中に入れようとした! ボクは「いやだっ!」って必死にふんばった。

絵本「ねえ、だれかおしえて」(愛育出版)から

 だってここは寒いし、狭いし、はじめてきたところだから、恐かったんだ。でもね、しばらく暮らしてわかった。ここにいる人たちは優しい。いつでも目を見て話しかけてくれるし、お散歩も行ってくれるし、ご飯だってたくさんくれる。

オリ越しの犬と人のイラスト
絵本「ねえ、だれかおしえて」(愛育出版)から

 そして、久しぶりだなぁ。首輪のあとが残るボクの汚れたカラダを、きれいに洗ってくれて、かっこよく写真を撮ってくれたんだ。本当はね、家族がこうしてくれると、もっとうれしいんだけどね。

絵本「ねえ、だれかおしえて」(愛育出版)から

 ボク、ずっと、鎖につながれてたけど、ずっと、散歩に連れて行ってはもらえなかったけど、ずっと、お腹いっぱいご飯がもらえなかったけど、やっぱり家族がいい。お家がいいんだ。

「みんなどこ?」「迎えに来てくれた?」「はやく会いたいな」 そして今日も、隣のお部屋に引っ越しだって。これで最後の引っ越しみたいだ。だって、これ以上部屋はない。ここが一番、奥の部屋だから。

オリ沿いの廊下のイラスト
絵本「ねえ、だれかおしえて」(愛育出版)から

 でもこのお部屋、なんだか息ができなくて、すごく苦しいんだ。「ねえ、だれかおしえて」「殺処分ってなに?」「それが終わると帰れるの?」

 はやく、お家に帰りたい。あったかいお部屋で眠りたい。さいごの時間はみんなの横にいたい。でもね、ボクには待つことしかできないんだ。「だってボク、しゃべれないから」 ボクは、ちょっとだけ泣いて眠くなった。

横たわる犬のイラスト
絵本「ねえ、だれかおしえて」(愛育出版)から

 もしボクの目が覚めたらね、首輪をはずしてほしいんだ。だって、ずっとくるしかったから。ねえ ボクなんで、このお部屋に入らなければいけなかったの? ねえ、だれかおしえて

あとがき
絵本「ねえ、だれかおしえて」(愛育出版)から

朝日新聞
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