犬の殺処分最多の香川県 「殺処分ゼロに」子どもたちが愛護活動

 

愛葉さんと保護犬ゴードン
愛葉さんと保護犬ゴードン

   1166匹(2018年度)と犬の殺処分数が都道府県でワースト1の香川県で、「1匹でも多くの命を救いたい」と啓発活動を続ける小、中、高校生の愛護団体がある。20174月に結成された「ワンニャンピースマイル」だ。殺処分や動物愛護について広く知ってもらおうと、昨秋オリジナル絵本も作った。代表の中学2年生、鈴木愛葉(まなは)さん(14)に思いを聞いた。

(末尾に写真特集があります)

 母の葉子さんとともに取材場所に現れた愛葉さんは、おとなしそうな女の子だ。だが、熱い思いを胸に、積極的に愛護活動をしている。

「子どもだからできることってなにかな? と思ったんです」

 小・中学生を中心にした学生の愛護団体「ワンニャンピースマイル」が出来たのは3年前。愛葉さんがちょうど6年生になる4月のことだった。その2年前に病気で旅立った愛犬シルバー(オス、ヨークシャーテリア)が、“道しるべ”を作ってくれたのだそうだ。

病気のシルバーの看病を徹夜ですることもあった。大好きだった犬への愛と絆がすべての原動力になっている
病気のシルバーの看病を徹夜ですることもあった。大好きだった犬への愛と絆がすべての原動力になっている

「赤ちゃんの時から一緒だったシルバーがいなくなって悲しかった。その後、動物のことを調べていたら、香川県の殺処分が多いと知って、びっくりして……」

いつも慰めてくれた愛犬

   母の葉子さんによると、愛葉さんは小学校低学年の頃からひきつけやめまいをよく起こし、学校を休みがちだった。勉強についていけずに悩み、いじめにも遇った。やがて、不登校になったという。

   だが、つらい時は、いつも愛犬シルバーが慰めてくれた。その大好きなシルバーを失って、初めて「命の大切さとはかなさ」に気づいた。その一方で、世の中には大切な命を簡単に捨てる人もいて、消されていく命もあると知り、愛葉さんは「いてもたってもいられなくなった」という。

   最初の起こした行動は、チラシ作りだった。

「みなさんにとって動物とはどんなそんざいですか。動物には命があります、あたりまえですね…」

「すてるひとがいたら注意してください。犬を捨てるなら犬をかわないでください」

   友達と一緒に手書きしたチラシをコピーして、スーパーや美容院、接骨院などに貼ってもらうようにお願いして回った。町の中でも配った。すると、「手伝うよ」と協力してくれる子どもたちが、1人、2人と現れた。

大人たちに呼びかける

   ある日、活動を知った猫カフェから「(動物についての)スピーチをしないか?」と声をかけられた。愛葉さんは仲間と相談して、愛護団体を作ることにした。

小学生の時、初めて視察にいった徳島の保健所で
小学生の時、初めて視察にいった徳島の保健所で

   団体の最初の活動として、俳優杉本彩さんが主宰する「動物環境・福祉協会Eva」の講演会「命の尊厳と和~殺処分をなくすために私たちにできること~」で、愛葉さんは動物への思いをつづった作文を朗読した。香川県知事や高松市長も目の前で聞いてくれた。それが動画で社会に広まり、全国に知られるようになった。

「演劇をしたり、ラジオに出たり、勉強会をして、殺処分ゼロにしたいと伝えています」

少しずつ周囲が動き始める

   活動を後押しする企業も増えてきた。電力会社エネラボ(大阪府)は、昨年6月より、電気代の一部が動物愛護活動の応援に充てられる「ワンニャンピースでんき」というプランを始めた。自動販売機の販売やサービスを行うウエストアライアンス(高松市)は今年1月から、ワンニャンピースマイルとの共同事業として、ジュースの売り上げの2%を県内のボランティアに寄附することにした。

   昨年秋には、活動に共鳴して多くの芸能人らが参加してくれたメッセージソングの動画『それが大事―命の応援歌for香川―』もでき、YouTubeで配信された。

ワンニャンピースマイルの譲渡会(今まで15回ほど行い30頭譲渡した)
ワンニャンピースマイルの譲渡会(今まで15回ほど行い30頭譲渡した)

「少しずつだが、周囲が変わってきている」と母の葉子さんがいう。

「シルバーが亡くなった時、いつか絵本を作って“命の大切さ”を伝えられるといいねと娘と話していたんです。3年くらいかけて内容を考え、クラウドファンディングで支援を募ると、ありがたいことに目標以上の資金が集まりました」

 その寄附をもとに、団体の活動や香川県の現状を描いた絵本『シルバーが教えてくれた命の大切さ~殺処分ゼロを目指して~』が、昨年11月に出版された。絵本は県内の書店に並び、高松市などにも寄贈した。

香川の愛護センターの犬たち(ケージ内の子は譲渡先が決まった)
香川の愛護センターの犬たち(ケージ内の子は譲渡先が決まった)

 絵本には、愛葉さんが仲間と保健所を訪れた時のエピソードも登場する。職員に案内されて檻に収容された犬たちと対面し、慰霊碑に手を合わせたという。

「みんな……助けてあげたいと思った」

   その思いをかなえるまで活動は続く。夢は、犬も猫も人もニコニコ笑って暮らせる社会だ。

(*214日の「坂上どうぶつ王国」(フジテレビ)に愛葉さんが出演。ワンニャンピースマイルの活動が再現ドラマとともに放映されます)

『シルバーが教えてくれた命の大切さ~殺処分ゼロを目指して~』
原作:マナハ&ようこ
絵:緒方憂子/文:ワンニャンピースマイル
発行:リーブル出版
価格:2000円+税
ワンニャンピースマイル
公式サイト
facebook
香川の動物愛護運動を応援するメッセージソング動画
藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は19歳の黒猫イヌオと、5歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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