猫城主「さんじゅーろー」 いろいろあったけど城に戻ります

備中松山城でくつろぐ城主のさんじゅーろー=高梁市観光協会提供
備中松山城でくつろぐ城主のさんじゅーろー=高梁市観光協会提供

 岡山県高梁市の備中松山城に、猫城主がいる。名は「さんじゅーろー」。7月の豪雨災害直後に迷い猫となり、城で保護された。城主に就任後、被災で激減した観光客はV字回復を果たしたが、人気の重圧か、またも失踪……。曲折を経て、16日に帰城する。さんじゅーろーのこれまでと、今後の予定を紹介する。

◇        ◇

 さんじゅーろーは推定3歳、茶トラの雄猫だ。名は、江戸末期、備中松山藩の藩士から新撰組の隊長になった谷三十郎にちなむ。

 元は、市内に住む難波恵さん(40)宅の猫だった。今年7月1日に動物愛護団体の譲渡会で譲り受けた。

備中松山城でくつろぐ城主のさんじゅーろー=高梁市観光協会提供
備中松山城でくつろぐ城主のさんじゅーろー=高梁市観光協会提供

 西日本豪雨で高梁市も浸水や長期断水など大きな被害を受けた。難波さんの家は無事だったが、猫は14日、ふとした隙にベランダから逃げてしまった。「外を見て切ないほど鳴いてました。外界が恋しかったのでしょう」。見つからず、娘は泣き、難波さんもひどく落ち込んだ。

 1週間後、難波さん宅から約6キロ離れた備中松山城の三の丸で、管理人本原亮一さん(65)がやせこけた猫を見つけた。食べ物をあげていたらいつの間にか城に居着き、誰ともなく「城主」と呼ぶようになった。

観光協会事務所の休み時間にさんじゅーろーと遊ぶ職員たち
観光協会事務所の休み時間にさんじゅーろーと遊ぶ職員たち

 ものすごく人なつっこく「これほど人に慣れているなら絶対に飼い主がいるはず」。高梁市観光協会の職員たちが捜していたら、10月中旬に難波さんから連絡があった。近所の人が「よく似た猫がお城にいる」と教えてくれたという。難波さんは連れ帰るつもりだったが、猫が城を気に入っている様子を見て、観光協会に譲る決断をした。

 日中、城内のベンチで堂々とくつろぐ。観光客には臆せず近づき愛敬を振りまく。子どもが体のあちこちを触っても逃げず怒らず。

 おおらかな城主っぷりは人気を呼び、西日本豪雨で前年同月の2割にまで落ち込んだ来場者数は、ぐんぐん回復し、10月には前年を上回った。

 しかし、11月4日。さんじゅーろーは再び失踪した。翌日に東京から取材が来るというので、万一、城を「留守」にしてはいけないと思った観光協会事務局長の相原英夫さん(48)がこの日、自宅に連れ帰ったのがあだとなった。

 あちこちにポスターをはり、山の中を捜索し、かごわなも試した。あきらめかけた19日後の23日、相原さんに電話がかかってきた。「お城の猫が、近所の裏庭にいるよ」

 体重は1キロ半も減っていた。観光協会事務所で体調回復につとめ、今は元気になった。留守にした11月の間に減った観光客を取り戻すため、今月16日に城に戻る予定だ。

快適な猫城主ライフへ 「御法度」も決定

 高梁市観光協会は5日に「さんじゅーろープロジェクト会議」を開いた。観光振興に役立ってもらう作戦会議だが、それにはまず、猫自身が気持ち良く暮らせる環境を整えなくては。協会は会議にさんじゅーろーの主治医である地元の獣医師浜岡将司さんを招き、猫の生態を学んだ。

 浜岡さんは、猫は変化を好まない動物で、特に生活圏を大きく変えるとストレスになることや、お城周辺には猿が多く、けがやダニ感染症など、戸外での放し飼いは危険であることなどを説明した。

さんじゅーろーのあり方を検討する会議には、本人(猫)も参加した
さんじゅーろーのあり方を検討する会議には、本人(猫)も参加した

 これを受け、観光協会は「城主」ライフの基本を(1)城内の建物の中で暮らす(2)定時にリードを着けて城内を見回る(3)食べ物を与えない等、観光客への「御法度」を掲示する――などと決めた。

 相原さんは「猫が苦手な人にも配慮し、さんじゅーろーも観光客も職員も、みんなが楽しめる城にしたいと思います」と話す。

 16日には帰城を記念し、先着100人にさんじゅーろーの特製ステッカー(非売品)をプレゼントする。入城料は大人300円、小中学生150円。問い合わせは同観光協会(0866・21・0461)へ。

(中村通子)

朝日新聞
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